80.「今日も一日よろしくお願いします!」
次の日から、朝日とともに俺たちの戦いは始まった。
「おはようございます!」
『おはようございます!』
「今日も一日よろしくお願いします!」
『お願いします!』
……ちなみに、これはガチで日本の農家(特に農業法人など)で行われる朝礼の様子をコピーしたものだ。朝の申し送りと今日の作業を確認して、それぞれの持ち場へと移る。俺はそれを取り入れて、各自の作業確認を行った後、別々に分かれて作戦を開始したのだった。
***
「シバ、お前はベルナルドと一緒に種植え班だ」
まずは、何はともあれ水の浄化だ。
オークたちをどうにかしたにせよ、その後の後始末は必要になるだろう。シバに少しその辺りを聞いてみたのだが、「普段の食べるぶんならともかく、湖全部の水を浄化するのは、かなりの大精霊使いじゃないと無理だと思います……」ということだった。
水の精霊であるウンディーネに頼んで、水の浄化……つまりは水の中から有機物を除去する魔法はあるようなのだが、そんなに都合のいいものではないらしい。
なので俺はしばらく考えた結果、とある方法を実行することにしたのだった。
「種植え?」
「ああ。もうすぐお前たちの集落から、俺が頼んでおいたトウモロコシの種が届く」
「え、あのトウモロコシですか?」
「そうだ。トウモロコシはC4植物だし、あの沼のように栄養過多の土壌でも育つことが可能な植物でもある。だからお前らは、それを水の周りに植えていって、水質の浄化と食糧増産を目指すことが目的だ」
この前俺が植えたトウモロコシは、クリーニングクロップとして知られている。
クリーニングクロップというのは、土壌の養分を吸収する力が強いため、残っていたり過剰な養分を取り除く……つまりはクリーニングする植物としても使えるのだ。
さらにそれから食料まで採れるというのであれば、利用しない手は無い。ちなみにC4作物というのは、詳しい説明は省くが、簡単に言えば光合成の能力が強いということだ。この辺りのように、陽差しも強い場所であれば最適だろう。
……というわけで、シバとベルナルドの二人には、街から川を上流に遡っての種蒔きをお願いすることにした。
「了承した。こんな所で死んでしまっては、満足な死に方はできないからな……。こちらの方は任せてくれ」
そんな風に、頼りになるんだかならないんだか分からない返事をして、二人は屋敷を出発した。
「ルルガとミミナはオークたちの牽制をしてもらう」
続いてはけもみみの二人だ。
彼女たちには、当然ながらその機動性と俊敏さを活かして、遊軍的な動きをしてもらうことにした。
「おう、任せておけ!ちょっとぐらい食べてしまっても構わんのだろう?」
「待て待て……。お前はすぐそれだが、せめて食べるんなら豚の方にしてくれ」
「いやまあその辺は自由意志にお任せするが……。ともかく、お前たちの目的は、オークたちをあそこから動かさないことだ」
こちらも結構重要な任務だ。
俺の予想が当たっていれば、今後増え続けた奴らは、集落を拡大して移動するはずだ。それを防ぐために、牧羊犬をやるのが彼女たちの役目だ。
彼女たちがオークたちを牽制して、今の場所から逃がさないことで、作戦の完成度は近づくのだ。
「頼んだぞ?……俺とマルミラは、結界を張る」
「結界?」
「ああ。奴らを逃さず、さらに呪いが強くなるための凶悪な奴だよ……!」
「ロキ君、かなり悪そうな顔をしているな……?ははは!」
「そりゃそうだ。俺たちは悪の黒魔術士だからな!」
そう言うと、俺とマルミラの二人で何やら怪しい準備をし始める。ルルガたちに牽制してもらってはいるが、実質的には俺たちの結界がこの作戦のキモだ。
そして後は、食料増産次第になってくるはずなのだが……?
と言うわけで朝礼終了後から、俺たちはそれぞれに分かれて任務を遂行するのだった。まず俺とマルミラがやって来たのは、オークたちの集落の外れにある森の入り口付近だ。
「よし、まず最初のポイントはここで良いんだな?」
「ああ、間違いない。奴らの魔力の残滓が色濃く残っているよ」
マルミラの魔法で、この辺りの上空から見た地形図はほぼ把握できていた。
その辺りは、『攻撃魔法以外なら、ほぼ全てのジャンルを網羅している』と豪語する彼女の力を存分に発揮してもらった。
「素晴らしい!戦いの基本は情報だぜ!これはかなり有利だよ!」
と、思わず興奮気味に語ってしまったのも無理もない。
オークたちの集落の周りの地形などが分かることによって、奴らの生活動線がある程度把握できるからだ。
そしてそれが把握できることによって、どこに仕掛けをすればいいかが分かる。後は実際に現地へ行って、現場との擦り合わせをすればいいだけだ。
と言うわけで、この場所で行う仕掛けの情報収集を始めたのだった。
「なあマルミラ、こういうの無いか教えてもらえないか……?」
「ん?それはどんな特徴があるのだ?詳しく教えてくれたまえ」
「えーとだな、俺の世界ではワルナスビと言って、ナスみたいな実が成るんだが、枝にトゲトゲがあまりにも多くて、ウザい雑草の代表の一つだ。しかもこれ、地下の茎で増えるからさらに厄介でな……」
そんな風に、俺はマルミラに説明しながら、一つずつオークたちの動線を潰していった。最初はこの植物探しにかなり難航するかと思っていたのだが、彼女の『特定の特徴だけをスクリーニングして発見する魔法』により、割りとスムーズに作業を進めることができた。
後は、厄介な植物だけあって、嫌でも見つけられてしまうという……。おっと、これ以上語ると愚痴っぽくなってしまうので止めよう。
ともかく、そんな風にして何日もかけて結界(……と言う名のバリケード)を作っていたのだが……?
ある日、神妙な顔をしたマルミラが、俺に衝撃の事実を告げてくるのだった。
「……マズいぞロキ君。我々の食料が尽きかけている」




