78.よし、じゃあ我々も行こうか
(そう言えば、あの子豚……!?)
俺には微かに頭の片隅に引っ掛かる何かがあった。
確かにあの時、オークたちは迷い込んできた豚を探しており、俺たちとバッタリ遭遇したはずだ。
世界の全ての事象には、必ず理由がある。それが確か福山雅治が言っていたこの世の理だったはずだ。だから……俺は確かめなければならなかった。その理由を。
「なあ、ちょっと注意して見てもらいたいもんがあるんだけど……?」
「何かね?ロキ君」
「実はな……」
***
数日後。俺たちは再びオークたちの集落へと向かう準備を整えていた。
「よし、それでは準備はいいかね?」
「ああ。問題無い」
マルミラの言葉に、ベルナルドが頷く。ベルナルドはいつもの長剣と小盾に加え、やや軽装の格好に、マルミラは色々小物をぶら下げていたり、大きめのバックパックを背負っており動きにくそうだ。
「今回はあまり美味しいものがないからやる気が出ないにゃあ……」
「これルルガ。これからが一番重要な仕事なのだぞ!?しっかりせい」
「ボクもオークたちとこれほど関わるのは初めてですから、緊張しますね」
ルルガとミミナ、そしてシバはいつも通りの格好だ。
そんな仲間たちを見回しながら、俺は愛用の鍬を担いで満足気だった。
「さあみんな!マジで頼むぜ!?」
この中でおそらく、最もやる気に満ち満ちている俺は、みんなに聞こえる以上の声で語りかける。自分で言うのも何だが、全くキャラじゃないな。だが、これまでの作業と違い、今回の作業には明確な自分にとっての目的と意義が存在していた。
「ロキ君。最早我らには君の言葉を信じるしか道はない。……頼んだぞ?」
「ああ。任せとけ!……と言いたい所だが、自然という複雑系は、不確定要素だらけだ。ましてやここは異世界だし。だから、俺たちの『観測と洞察』が最も重要になる。そしてその先には、君の知識と知恵も頼りだ。だから……こちらからも頼む、マルミラ。大賢者様」
「……よしてくれ。我はまだその道を歩む半ばだ。君の協力が無ければ、今も一体どうなっていたかは分からない。だから、我は君の画期的な閃きに賭けようと思う。そのためにできることがあれば、なんでも言ってくれ」
殊勝なことを言うマルミラに、俺は自信気に頷いた。
まだ確証はないが、何とかするしかない。大丈夫……俺は、そういうことは得意なはずだ。農家なんてのは、観察力が無ければやってられない商売なんだから。
そう言い聞かせて、俺は改めて全員に出発を告げる。
「行くぞみんな!」
***
そうして俺たちは再び、前回訪れた時のキャンプした場所までやってきた。
そこには、まだ前回の食事の名残が一部に残っていた。……そう言えば、今回は全然まともな食事を食べていないな。
折角ルルガたちの村で、食料を増産する計画を実行できたというのに、それを食べる余裕がないとは……!
何としてもこの依頼を達成して、あのご飯にありつかなければならなかった。
だが実は、今回のミッションがうまくいけば、遠くないうちにまた村に戻る必要が出てくるかもしれない。……そう思うと、再びモチベーションがむくむくと湧いてくる俺だった。
「じゃあ、打ち合わせた通りに頼む。連絡はマルミラの使い魔を通してな」
「今回のは、正規の手法ではなく簡易な方法で作ったものだ。だから単純な命令しか聞いてくれないが、小さな物を運んだり、短い言葉を伝えるだけなら十分だろう。ただ、数には限りがあるから大事にな」
「分かったのだ!食べないように気を付けるんだぞ、ミミナ!」
「そんなのはお前だけだよ……。よし、ロキ殿。我々は早速向かうとしよう。吉報を待っていてくれ」
「ああ、気を付けて頼む」
「ロキ殿の方こそな」
そう言うと、ミミナとルルガは森の中へ消えていった。
二人にお願いしたのは、主に偵察だ。オークたちの行動範囲や生息区域がどこまでなのかを調べてもらう。要するにレンジャーのような役割だ。あの二人にはピッタリな役目だった。
「よし、じゃあ我々も行こうか」
マルミラが促す。今回は、ここで野営をするわけではなく、ここを基点としてみんなで手分けして活動することが目的だった。
……そろそろ、種明かしをしようか。
これは別に、ここぞと言う時に一発逆転をするためでも、奴らの致命的な弱点を見つけたわけでもない。
大掛かりな罠を仕掛けるためでもなければ、同じく大規模な魔法を仕掛けるためでも無かった。……いや、後半は多少関係あるかもしれない。
俺が気付いたあること。
それは……『生態系的なバランスの崩れ』だった。
最初に俺たちが出会った豚を覚えているだろうか?
あの時の豚は……奇形だった。そしてそれを、奴らは捕まえに来ていた。
通常の畜産であれば、奇形の動物は育てても意味ないので、処分してしまうのが普通だ。ましてやここは文明がまだ発達していない世界。ああいう生き物は、縁起が悪いものとして忌避するのが普通だった。
しかし、奴らはそんな奇形の豚をわざわざ捕らえに来ていたのだ。ここに、俺は何らかの違和感を覚えたのである。
そしてその違和感を確かめるべく、マルミラに見てもらった所……ある可能性に思い至った。
それが、『急激に生態系のバランスが崩れたため、オークたちに異常が起きているのではないか?』ということだった。




