67.いい加減にするんだな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!
プスッ
事態はミミナの怨念が籠もった矢が、下品に笑う貪り大王の眉間へと突き刺さった所だった。額から矢尻の生えたマヌケな姿の大王は、一瞬の間があった後に突然叫ぶ。
『ぶひぃ〜!痛い!痛いんだな!矢を射ってくるなんて、なんて酷い子だな!』
眉間に矢が刺さった大王は、まるで子供のように顔を歪めている……が?
「おい、アレって……?」
「何本でも射ってみるがいい。同じことだ」
その台詞に従って、ミミナは連続で何本かの矢を続けて放った。そしてそれは、腕、腹、頬、足など、一本たりとも外さずに、大王の体へと突き刺さっている。
『い、痛い痛い!チクチクする!なんて凶暴なペットなんだな!もう飼ってやんないんだな!』
だが、大王の様子は相変わらず、子供のように痛がっているだけだ。眉間に刺さった一本を除いては、血の一雫すら垂れていない。まるで秋になり熟した引っ付き虫が俺たちの衣服に付くように、大王の体の表面には無数の矢が突き刺さっている。
しかし、大王のリアクションは予想以上に鈍い。……そう、ミミナが放った矢は、大王には全く効いているようには見えなかったのだ……!
『お……怒ったんだな!それならもうずーっとここを動かないんだな!』
そういうと大王は、さらに用意された玉座に深く腰掛けてしまい、全く動こうとしなくなってしまった。ついには目も閉じて、眠りにでもついたように微動だにしない。
「おい、あれって……チャンスなんじゃ……?」
俺はマルミラたちへ向かって、一応そう言ってみた。だが、自分でもその言葉に説得力が無さそうなことはなんとなく予感できていた。
「無駄だ。あれを見てみろ」
そう言ってマルミラが向けた視線の先には、先ほどミミナが放った矢があった。何かと思い、俺が目を凝らしていると、徐々にだがその矢が動いているのが分かる。
「なんだ……?」
何かと思った矢は、ぐにぐにとまるで生きているかのように動き、そのままポロっと大王の体から抜け落ちてしまったのだった……!
「なっ!?なぜ……!?」
「見たかい?あれが貪り大王の不死身たる所以。以前も同じだった。我々やベルナルドがいくら攻撃しても、奴には通用しなかったのだ」
「何だと!?そんな、まさか……!」
「矢でなくとも、魔法でも剣でも、どこを狙っても同じだ。奴にはどんな攻撃も魔法も……通用しない」
今度はベルナルドがマルミラに続いて話し始めた。その視線は、大王の方を鋭く睨みつけたままだ。
「それが……不死身……?」
「そうだ。貪り大王の体は、その身にまとっている脂肪のせいか、ほとんどの物理攻撃が無駄になってしまう。だから人間の力では倒すことは不可能だ」
「じ、じゃあどうやって……?あ、アレだろ、ほとんどは通じないとか言って、実は何かこれだけは有効だ!みたいな奴があるんだろ?」
俺は慌てた口調で二人に問いかける。
不死身とか言って、ゲームとかでよくある『これだけはたった一つだけ苦手な何か』があって、それをあれだろ?クエストをクリアして取りに行くとかなんかそういうのだろ……?
期待を込めて返答を待つ俺。
「むしろ、そんな方法があるなら教えて頂きたいよ、ロキ殿」
「ロキ君、君の画期的な洞察力で何かヤツの弱点は見つからないのかね……?」
「ま、マジで言ってるのか……?」
淡い期待は刹那に否定され、それどころか逆にこっちに対して無茶振りが降ってきやがった……。なんでやねん。俺は単なる一介の農家にすぎないんだぞ。知ってることだけしか知らないんだぞ……?
「今の所、予想できるのは神話に出てくるような【神具グングニル】レベルの聖別された武器ぐらいしか、ヤツの体に致命傷を与えられる可能性がある物はない」
「……」
マルミラの言葉に、皆黙りこくってしまう。
なんてこった、あの水質汚染の原因は突き止めたものの、その根本の問題が解決できないとは……。いくら俺でも、植物のことならともかく、豚のことは流石にな……豚か、豚……。
「矢でも剣でもダメなら、食べちゃうってのはどうかにゃ?」
「は?」
突然変なことを言い出したのは、もちろんルルガだ。その場にいた一同が注目する。
まさかのこの食欲魔人、あの悪臭を前にしてもそんな発想が出てくるとは……流石である。
「おいルルガ、本気であの豚の化け物を食べるつもりか……?」
「うーん、あんまり美味しそうじゃにゃいけど、食べてみないと分かんないからな……?うにゃっ……と!」
そう言うとルルガは、さっきからだんまりを決め込んで動かない貪り大王の元へと駆け寄っていく。そして、そのままの勢いで、ふくらはぎ辺りにかぶり付いたのだった。
「……」
大王の反応はない。
「……うにゃ〜っ、なんか固い割にブニブニしてて、全然美味しくないな……」
うげ~っという顔をして、ルルガが舌を出す。全くもって効いているようには見えない。だが、その姿を見て俺たちの間にも何とかしてやろう!という空気が生まれた。
「分かった。やるだけやってみようじゃないか!」
「おう!この前のゴウダツとかに比べたらやりやすそうだしな!俺もやってやるぞ!」
「私もさらに急所を狙うことにしよう。あんな生物、この世から消し去ってやらねば……!」
「画期的ではないが、我もやるだけやってみるか……」
「豚なら、火の精霊に炙ってもらえれば……!?」
皆それぞれに、自分のやれそうなことを考え始めた。そして、ルルガに続いて貪り大王へと踊りかかっていく。
で、俺も恐る恐る近づいて、マイ武器の鍬を思いっきり叩きつけてみた。……無抵抗の相手に暴力を振るうのは若干抵抗があったが、この生きるか死ぬかの判断を間違えれば、取り返しは付かない。殺られる前に殺るしかないのだ!
……とか思ってみたものの、実際に振り下ろした鍬は、ボンヨヨヨよ~ん……と全く効いている感じがしなかった。分厚すぎる皮下脂肪が、鍬なんてものは通さないのだ。見ればベルナルドの剣が皮膚をスパッと切ってはいるものの、全然血管までも辿り着いていない。それぐらいの皮の厚さだった……。
「うりゃっ!」「ぶにゃっ!」「せいっ!」「とおっ!」「おりゃっ!」「え〜い!」
『……』
「食らえっ!」「死ねっ!」「弾けろっ!」「北斗百裂拳!」「デブッ!」「豚ッ!」
『…………』
「必殺っ!」「この不細工……!」「オマエの母ちゃん……」
『いい加減にするんだな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』
とうとう、貪り大王が叫んだ。




