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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
63/100

63.お前ら……絶対この事分かってただろ……!

「それが奴、『貪り大王』なのだ……!」


世にも恐ろしげと言った表情で、マルミラは俺に向かって語りかけてくる。その後ろからはベルナルドが同様の顔で肩越しに迫ってくる。

俺はなんと答えればいいのか分からず、しばらくう〜ん……!と頭を掻いた後、一瞬だけため息を付いて聞き返したのだった。


「一応聞いとくけどさ、貪り大王って……?」


ますますマルミラは嬉しそうに語りだす。


「豚どもの王、オークキング。他のオークたちとは一味違うその圧巻の体躯、何人もの屈強な戦士たちが束になってかかっても敵わないタフさ、そして無限とも思えるあの貪欲さ……!決してあのコボルドリーダーのゴウダツのような凶悪さはないが、それ以上の害悪であることは確かだ」

「また……そんな奴がいるんですか……」


半分耳から聞き流しながら、俺は半ば諦めた表情で片言の返事を返す。これはあれだ。頑張って育てたトマトの苗が、飼っていた猫に踏み潰されてしまった時の感覚に近い。

よく分からないが、俺は項垂れたままそう思った。


「ぜひロキ君に何とかして頂きたい!」

「お前ら……絶対この事分かってただろ……!」


項垂れたまま、俺は恨みがましい目でマルミラとベルナルドの方を見る。直感の鋭い俺は、こいつらが最初からこの事を目当てで俺に近づいてきたのだということを瞬間的に悟ったのだ!でなければあんなに付きまとったりしまい……。


それを肯定するかのように、マルミラは悪びれない表情で頭を掻いた。


「いやあ実は、うっすら予想は付いていたのだ。何か異変が起きたのなら、おそらく奴らの仕業だろうとな。だが、その証拠が掴めなかった。それを一発で見抜いたのは流石だと思ったよ、ロキ君」

「ああ。もし湖の異変が何ら今回の件と関係が無かったとしても、その後には君に頼もうと思っていたのだ。あの貪り大王を倒すことに協力してくれないか、とね」


それに追随してベルナルドも続ける。って、倒すとか簡単に言うなよ……。俺はチートでも何でもない普通の農家なんだから……。既に一回死にそうになってるよ……!やめてよ……勇者でもなんでも無いんだよ……!


と、後ろ向きに情けないことを考えていたのだが、段々ベルナルドばりに死にたくなってきそうなので止めた。生きよう。よく分からないがとにかく生きよう。俺はそう思った。


「……。確信犯だったってことか。おいおい、言っとくが俺はただの農家だからな!戦闘の才能なんて何にもないってことはお前たちも見てれば分かるだろう?そういう話はルルガに頼めよルルガに!」

「…………」


半ばヤケ気味になって、当たり散らす。全員の視線が俺に集まるが、誰も言葉を発しようとはしなかった。よく分からないが……みんな、『俺ならできる』そう思ってるかのような視線だった。止めてくれマジで。


「……そう言えば、あの豚はどうした?」


たっぷりの沈黙の後、居たたまれなくなって俺は話題を反らした。ここでどうこう言っていた所でどうしようも無さそうだ。とにかく今は、一刻も早く状況を確かめて、それっぽい提案をして、後は強そうな皆さま方にお任せして……!


「あれ?どこ行った?」

「あ、あそこだ!待てー!」


目ざといルルガが、あっという間に見つけて飛び付き、豚を捕獲して引きずってきた。

豚はブヒーブヒー言いながら抵抗するが、食欲の魔物に取り憑かれたルルガに勝てる奴は、多分魔王ぐらいしかいないだろう……。


あっという間に豚の命の灯火はあと僅かになった。


「うーむ、やっぱりこいつ、目が見えないみたいだな」

「よくよく見ると、体の一部がおかしいみたいだな?」

「焼こう。早く焼こうぞー!」

「……ちょっと待てルルガ。確かにこいつはおかしいな。奇形か?」


目が完全に豚の丸焼きになっているルルガを押し留めながら、俺とマルミラは豚の様子を確かめてみた。すると……やはり、この豚は目が真っ白になっており、白内障のような状態で、目が見えているとは言えなさそうだった。さらに、足の骨格もおかしく、バランスがおかしいため、やや変な足取りをしているのが分かった。


「確かにロキ君の言う通り、この豚は奇形のようだな。何が起きているのか分からんが、こいつはあまり食べない方がいいかも知れないな」

「うん、同感だ」

「えええぇ――っ……!?」


盛大な不満の声を挙げるルルガをなだめながら、マルミラと二人でジロジロと豚の観察を行う。さっきのオーク共がこいつを追ってきたのは一体何だったのか?この豚に何か手掛かりがあるんだろうか?


「……とりあえず、これだけではまだ何とも言えないな。材料が足りん。予定通り、オークの集落を見てみることにしよう」

「うむ、そうだな」


結局、俺たちはそう結論付けて、豚は食べずに放置し、そのままオークたちが住んでいると思われる源流の方へと向かうことにした。

幸い、その後慎重に進んだこともあり、オークたちとは出会わずに済んだようだ。そして半日ほど進んだ所で、森が途切れている場所まで辿り着いた。


「この辺りは私も来たことは無いが、地図と話に聞く限りでは、ちょっとした高原が広がっているらしいぞ?」


マルミラのそんな説明を聞きながら、木々をくぐって開けた場所に出る。

俺たち全員が森を抜けると、一気に視界が眩しく開けた。


「な、何だよこれ……!?」


そこには、見たことのない風景が広がっていたのだった。


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