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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
二章 異世界で初収穫した俺
54/100

54.農家冥利に尽きるってもんだよ

「な、なんということを……!まさかコボルドどもと一緒に土地を耕そうというのか……!?」


俺の言葉を聞いた途端、眉毛とシワだらけで見えなかった族長の目が見開かれ、驚きの表情を浮かべる。……まあそうだろうなぁ、あんなに敵対視してた奴らだし。だけどそんなの、俺には関係無い。確かについ先日は命のやり取りを繰り広げた仲だが、それはもう過去のことだ。ジャンプ理論で言う、『昨日の敵は今日の友』って奴だよ。


……と、理路整然と言った所で、こういう年寄りたちには効果がないどころか逆効果なのはよく分かっている。そのためのこの晩餐会でもあるのだ。なので、驚いている族長の意識を逸らすようにして「まあまあまあ……」と、次の料理に取り掛かることにした。


トウモロコシの冷製ポタージュもどきだ。


これも、ゴールドラッシュならではの一品である。生で食べても甘くて美味しいスイートコーンは、そのまま絞るだけで十分うまいスープになる。なので、これもシバに教えながら、コーンを絞った果汁とヤギの乳、そしてコンソメスープがあれば最高だったんだが残念ながら無いので、代わりに鶏のガラだしを使って塩とともに味付けを整えた『ポタージュもどき』のスープが完成した。


「どうです?族長?」

「う……うむ……」

「おいしい!これも美味しいぞロキ!」

「なんという味であるか……!」


しめしめ。その表情を見れば、どんな反応なのかが分かる。そしてこの頃になると、周りで給仕している人々の口元からヨダレが出そうになっているのも分かってきた。……散々日本のうまい食事に飢えている俺も、腹いっぱい食べたいのはやまやまなのだが、ここが肝心だと睨んでいるので、仕方なく味見プラスアルファレベルで抑えている。むしろ俺の方がヨダレが出てきそうだ。


だがこの餌付け大作戦がうまくいかなければ、今後の増産も難しい。ほとぼりが冷めないうちに次の料理に取り掛かることにした。

このフレンチのコース料理というものは、知らない方にはまどろっこしいと思われそうだが、まだ調理技術が発達していない頃に、料理が冷めないように提供できる方式として作られた方法だ。


そうして次なる料理が運ばれてきた。


【メインディッシュ】:鹿肉のロースト、キノコディップがけ


これは正直言うと、俺の野菜はほとんど関係無い。既にこの村で食べられていた赤身の多い鹿肉を燻製にして、シバのキノコの出汁を使ったディップを掛けただけのものだ。だが、肉は生で食べるか焼くしか無かったこの辺りの食文化に『燻製』という新しい味覚がもたらされたため、これもやはりルルガを始めとして非常に喜ばれていた。


これまでは爽やかな食物繊維中心の料理から、動物系たんぱく質の食べ応えのある熱々のメインディッシュが振る舞われ、見た所参加者全員の胃袋も十分に満たされたように思う。……約一名、食べ足りなくてシバや隣の長老の分までも横取りしていた奴はいたが……。


ようやくこれで、異世界農家の最初の出荷作業は終了となった。お客様においしく食べて頂くまでが農家の仕事だ。そしてその仕事はどうやら少なからず、十分な成果を挙げたのではないかと手応えを感じていた。


……さて、それでは最後のデザートだ。いよいよ仕上げにかかろう。料理も、仕掛けも。


「……と、いうわけでこれが現在俺にできる最大限の努力をした料理の結晶だ。どうだったかな?」


唯一何の文句もない、こちらのパパイヤみたいなのを中心とした、熱帯の果物を盛り合わせたものをみんなで突付きつつ、俺はみんなに感想を求める。


「最高だ!最高だったぞロキ!うちは……うちはなんというかもう……死んでもいい……」

「ルルガは大げさだな……だがロキ殿。私も同感だ。苦労してあれらを育てた甲斐があったというものだ。こんなに美味しい料理になるとは……」

「ロキさん……ボクも、こんなに美味しい料理を食べたのは初めてです!やっぱりロキさんに着いてきて良かった……これからももっと色々なことを教えてください!」


けもみみ族の巫女様こと、ルルガが真っ先に感動して叫ぶ。ついでに誰かの口癖が移るぐらい感涙しているようでもあった。一体誰がこいつを巫女様にしてしまったというのだ。神か?神なのか?


そしてそれに続くように、同じくけもみみ族の狩人ミミナも感想を口にする。彼女も同様に感嘆の表情を見せていた。最初は、如何に自分が人生の伴侶として相応しいかということをちょいちょいアピールしてきたものだが、悲しいかな俺の一人暮らしスキルが高すぎて、料理の腕前などでは敵わないことを目の当たりにして、最近は大人しめになっている。……ホッとしていいのか残念なのか……?


さらに一番熱心に畑のことや料理について教わろうとしていたコボルド族のチェンジリングことシバは、自分の努力の成果が目の前で見れたことが嬉しいようで、他の二人に輪をかけて感激していた。率直に言って、今日の料理が全て完成したのもこいつの力が大きい。数日前からのリハーサルでも、俺が教えたことはほぼ完璧に覚えて再現できるようになってきていた。これは一体、才能なのか?それとも何か自らの役割を見出した者の強さなんだろうか……?末恐ろしい奴である。


「そうかそうか……それは良かった。農家冥利に尽きるってもんだよ。これもお前たちの協力があってこそだ。喜んでもらえて何よりだよ」


「……」


彼らの感想に対して、俺は朗らかな笑顔で答える。このリアクションには嘘はない。……何故なら農家なんてものは、自分の作った物を「うまい!」と言って、残さず食べてくれることほど嬉しいことは無いからだ。全ての現実関係を無視して言うならば、俺はそのために農家になったようなものなのである。


だから、笑顔でおいしかったと言われることほど嬉しいことはないのだ。……だがしかし、今回はその先にもう一つ、大きな目的がある。改めて俺は、村の長の方を振り返ると、真っ直ぐに眉毛の奥に隠れて見えない、その瞳を見つめて話しかけた。


「……村長。それと族長。分かってもらえましたか?これが俺の持っている、そして提供できる力です。他には何にもできないけれど、これだけは誰にも負けないと言える。で、この力は皆さんの協力があれば、もっと広めることができる。そうすれば、きっとみんな食料の奪い合いで争うこともなく、毎日みんながお腹いっぱい美味しいものを食べることができる。……それが、俺がここで一番やりたいことなんです」


「……」


村長の返事はない。その表情にも、変化は見て取れなかった。



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