53.うまいぞ〜っ!!!
晩餐会の様子と、それまでの過程を少しだけお知らせしよう。
まずはミニトマト。トマトは植物の中では結構根が強い方なので、この熱帯地域でもそこそこ育った。だが、日本などと比べると、どうしても温度帯が高いので、成長が早い。また土も、『腐植』という落ち葉が積もってできたような層が無いので、ミネラル分の吸収も弱いようだ。
結果として、かなり大味の酸味が強いミニトマトになってしまった。東南アジアのトマトを食べたことがあれば分かるだろうあんな感じだ。
正直、日本の無駄に高品質なのに慣れてしまった俺としては、皮も固くて口に残るのであまりおいしいという感じでは無かったのだが、それでも採れたて完熟のジューシーなミニトマトを食べた彼らは、結構感動しているようだった……。
「な、なんなのだこれはロキ……!」
「甘い、甘いです!」
「かつて、これと同じものは食べたことがあるが、これはまさしく画期的だぞ……!?」
そうかそうか。一応農家の端くれとしては、これが俺の全力だと思ってもらっちゃ困るのだが、喜んでくれるのはやはり嬉しい。作った甲斐があったというものだ。
よしよし、次いってみよう。
「これは……キュウリだな。食べたことあるぞ」
「私も知っているが、あれだな。皮が固い割に特に味も無くて、何というか……死にたくなる味だった」
「ボクは初めてですね。……どれどれ?あ、爽やかで瑞々しくておいしい!」
キュウリ。これはその成分の90%は水分と言われているので、あまり味の違いは無いように思えるかも知れない。だが、そこは実は品種と育て方によって結構変わってくるのだ。
ゴーヤなどを思い出してもらえれば分かる通り、ウリ科には苦味がある。それを品種と栽培方法によって可能な限り無くし、ミネラルをたっぷり含んだ水を存分に吸わせることで、もぎたて新鮮なジューシーキュウリの出来上がりだ!
……これはマジで、夏場の最盛期には付け合わせの野菜は全部これでいいやというくらい重宝する旨さだ。一株からたくさん採れるということも嬉しい。
特にこちらでは気候の関係から、一年中作れるであろうことも、かなり期待している部分の一つだった。
「全然皮が固くない……画期的キュウリだぞこれは!」
「ロキ殿、これは私はかなり好きだ!」
「そう、後はマヨネーズだよなやっぱり……」
みんなの反応にしめしめと思いながらも、決定的に足りないポイントのことを考えて、俺は悔しさを噛みしめる。
「またマヨネーズですかロキさん!……一体マヨネーズとは何なんでしょうか……?」
「まだ気にするな。いずれ何とかするから。それより今はとりあえず塩を付けて食っとけ」
「塩?……おお!ピリッとアクセントが効いて、体に染み込む味に!」
どうやらキュウリも気に入って頂けたようで良かった。続いて前菜である所のオードブルに移ろう。こちらも幾つかの葉物……小松菜から始まり、レタスやからし菜、水菜などの野菜を小さめにちぎったものと、シバに頼んで見つけてもらった食用キノコ(しめじっぽいもの)を脂で和えた盛り合わせサラダに、トウモロコシのゴールドラッシュを茹でたものを添えてみた。
「ルルガ。お前のお待ちかねのトウモロコシだぞ」
「お……お……おおぉ〜!トウモロコシだっ!」
「これが、ルルガがそこまで待ちかねていたトウモロコシか……どれ」
「ん?」
「こ……これは……!?」
「う……」
『うまいぞ〜っ!!!』
往年の料理アニメを思い出させてしまうようなリアクションで、皆一斉に叫ぶ。
そうだろうそうだろう。トウモロコシに含まれる糖分は、冷蔵保存していない限り、時間とともに消費されていき、あっという間においしくなくなってしまう。……二日も経ったらもうダメだ。
なので、お湯が湧く寸前くらいにルルガへ伝えて実をもいできてもらい、ついさっき茹で上がったばかりのものなのだ。おそらくこの環境で最もうまい状態であることは間違いない。ルルガも、「この方法が最もおいしくトウモロコシを食べられるんだ」と言ったら、よだれを我慢しながら喜んで走ってくれた。多分俺が見た中で最も高速で移動していた気がするな。
というわけで、ぷりっぷりの状態の茹でトウモロコシを生でかじり付き、数少ないトウモロコシを皆で分け合って食べたわけだが、既に日本で舌が肥えている俺に言わせてもらえば、当然まだまだの状態ではあるが、さすが日差しが強ければ強いほど光合成で糖分を生産するC4植物。そのクオリティはまずまずだった。
「どうだ?結構うまいだろう?」
「お……おぉ……」
「うまいなんてもんじゃないぞロキ君。これほどの食物は画期的という言葉でしか表しようがない」
「一体何であるかこれは……!」
「お、族長。気に入ってくれたか?細かい話はまた食べ終わった後にするが、簡単に言えば『このトウモロコシをコボルドたちにも作って欲しい』ってことなんだよ」
なぬ!?……という顔で皆がこっちの方を見る。
一応ルルガとミミナ、そしてシバだけには詳しい話をしておいたのだが、それ以外の面々は、完全に「何を言っているんだこいつは……!?」という表情をしていた。
そうそう。……これが異世界農家の生産拡大計画、『食い物の前では皆平等』作戦だ。




