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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
二章 異世界で初収穫した俺
51/100

51.よっし!ちょっとお前らに相談がある

そうして、マルミラとベルナルドは村に滞在するようになった。どこに泊まるんだろうかと思ったが、寄り合いで地域交流を深めようという方針になってからは、新しく客人用のテント住居が新しく建てられたようで、そこに住むということだった。


村の人達には、結構珍しがられるのかと思ったが、既に俺という前例があり、しかも最近は割と色んな人たちが入れ替わり立ち替わり訪れているので、それほどでも無いようだった。むしろ彼女たちの方が俺の周りを付きまとい、「画期的だ!」「明日こそは死にたい……」みたいなことを喚いているので、めんどくさいったらありゃしない。


まあでも、そんな中で彼女たちから聞いた話によると、人間たちの町というのも、よく聞く中世ファンタジー世界観の社会と思って間違いないようだった。今の所、帝国軍がどうとか、魔王がどうとかいう話は無いらしい。それはそれで嬉しいような悲しいような……?

折角異世界に来たのだから、一回は魔王を倒す勇者を夢見たとしても、健全な男子としては仕方ないよね?


とは言っても、最近は勇者なんかよりも、料理人だとか落語家だとか、色んな職業の奴らが異世界に溢れてて、そんな中に比べたら、農家ってのも地味な職業だよな……と改めて思うのだった。

ま、いいか。贅沢は言わない言わない。先日殺されかけた俺としては、やっぱり健康第一安全第二だ。ちょっとぐらいは冒険したいとも思うが、命あっての物種だからな。それにとにかく今は、うまいもんが食いたい。その一心だ。


というわけで、何故か農作業に興味津々の魔術師と、何考えてるのか分からない自殺志願騎士も加えて、畑はまもなく収穫の時期を迎えようとしていた……。


「よし、一時はどうなるかと思ったが、なんとか一通り収穫できそうだな……」

「かなり色々成長して来ましたよね!」

「この画期的な植物たちは、本当に食べれるのか……?」

「ロキが作った食べ物なんだから、おいしいに決まってるぞ!」


実りの時期を迎えて、色とりどりになる畑を見渡し、俺は大分充実感を得ていた。……やれる。なんとか異世界でも農業やれるぞ!そんな手応えを感じていたからである。


流石に、農薬も肥料も無しでは、日本で売られているほどの高品質な作物はできなかった。多くの人は知らないだろうが、日本の野菜は世界トップレベルの品質+旨さを誇っている。それは、流通に特化した品種改良をしている諸外国と違って、味に特化した品種改良を加えてきたのにプラスし、インフラが整っている事によるコールドチェーンで鮮度を維持し、さらに選別によってちょっとでも見た目や質で劣るものはB級品にされてしまうほどの国民性によるものだ。


だから、そんな環境が整っていないこの異世界においては、最初からまともな物はできるとは思っていなかった。事実その通り、何割かは虫食いの株が発生し、また何割かは栄養素不足により生育不良や着果不良を起こしていた。しかしそれでも、残った何割かはなんとか食べられるレベルの物ができていたからだ。


暮らしてみた感じでは、そんなに日本での人間社会と違いは感じなかったが、もしかしたら何かが影響してうまく育たないかもしれない……とわずかに心配していた俺の悩みもこれで消えた。後は、収穫タイミングを見計らって食べるだけだ。

さて、そのプロセスを一体どうしたものか……。


「どうしたんだ?ロキ。何か悩んでいるのか?」

「あ、ああ……ちょっとな」

「まだ何か作業があるのか?私の目には大分食べ頃のように見えるのだが……」

「そうですね。少し甘い匂いもしてきました。思わずヨダレが出そうです……」

「ロキ君。キミがいた世界では、この後にも何か特別な技術を加えるのかい?」

「死にたい……」

「ちょっとその最後の奴、気が滅入るからやめてくれないかな。あ、いや、こいつらはもうこれで収穫できると思う。だけど見ての通り、この面積では数が限られてるからな……。できるだけたくさんの人に食べてもらいたいと思うんだけど……」


俺の悩みとはそこだった。

ただ食べるだけなら最早これでいい。だが、農家たるもの一回作っただけで満足していてはいけない。と言うか種の問題だ。今回収穫できた物の中から、いい物を選別して種を採り、次回またそこから育てないといけないからだ。……これを、自家採種という。


まあ、俺が持ってきた種はほとんど『F1品種』と言って、メンデルの優性遺伝の法則を使って配合された特別な種だ。なので、単純に今回できた物をまた再び植えたとしても、同じ物ができるとは限らない。本来なら安定して現れるべき形質が、バラバラになってしまうのだ……。


というわけで、どれぐらいを誰が食べて、どれぐらい残すのか?……ということについて、その割合に悩んでいるというのが実の所だった。


「ロキ!気にするな!うちらが作ったものなのだ!うちらで好きなだけ食べようぞ!」

「うん、お前が一番役に立ってなかったけどな……」


思った通り、水面に映る太陽のように両目をキラキラさせるルルガを牽制しつつ、今後の作戦を練ることにした。ここからは、中長期的な戦略を考えて動かねば……。


「よっし!ちょっとお前らに相談がある」


みんなの視線が集まる中、俺は覚悟を決めてそう言った。



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