50.か……画期的だ……!
「え〜と……?まずはお互い、自己紹介と行こうじゃないか。君たちは何者で、一体何故俺の所へ訪ねてきたんだ?」
うちの中にみんなで輪になって座り、俺は改めて、テンション高めな来訪者にやや引き気味になりながら、仕切り直して自己紹介してもらうことにした。……っていうかこの村の外の事とか、色々情報収集しときたいしな。
「そうかすまない。あまりに画期的だったもので急すぎたな。……我はマルミラ。ここから森を出た所にある町の『ガラット』に住んでいる魔術師だ。主に研究や薬の開発を生業としている。我々の町にも、近年コボルドが出没して悪さをする話が聞こえていたのだが、その中でも一番の大物、あの『コボルドリーダー』は誰も手出しができずに困っていたのだ。それをなんと数人で撃退したという猛者がいると聞き、こうして駆け付けたというわけだ。しかもその者は、異世界から来た画期的な術を使うのだとか……!?」
ハイテンションが止まらない感じで語りかけてくる目の前のややロリ魔術師は、どうやらマルミラと言う名前らしい。魔術師というから、テンプレの如くとんがりハットを被っているのかと思いきや、両耳の辺りから三つ編みっぽくなっているニット帽みたいな物をかぶっており、左目に片眼鏡を掛けている。
長めの髪は後ろで一本に三つ編みで垂らしていて、ケルトとかウズベキスタン辺りの民族衣装っぽい格好をしていた。……あんまり西洋風な感じはしないな。どちらかと言えば日本の国民的アニメに出てくる、ホウキで宅配便とかしちゃうような感じの魔女のイメージに近いのだろうか。
「画期的な術というか、何と言うか……まあ、そんなすごいもんじゃないけどな……。で、そっちの根暗そうな人は?」
「私は……ガラットの町の非正規騎士、ベルナルド・ディシュカ。今は訳あってマルミラ嬢の護衛をしている。しかしかつて、許されざる罪を犯した者として、今尚死に場所を求めて彷徨う幽霊のようなものだ。ああ、死にたい……」
「お、おう……」
大丈夫なのか……?(汗)
一見、憂いを帯びた表情なだけの、普通にやや赤みがかったブロンド長身の白い鎧を身にまとったまともな騎士っぽいんだが、中身が全く真逆だよ……!非正規の騎士ってことは、以前はどっかの王国にでも仕えていたんだろうか?
……そう言えば、こっちの世界の国のこととか全く知らんな。帝国が共和国に対して絶賛侵攻中で戦争の真っ只中とかだったら大変なんじゃないか……?後で聞いてみようかな。
「まあ、此奴のことは気にしないでくれ。いつものことだ。それよりも君のことを聞きたいのだロキ君よ。異世界から来たというのは誠か!?」
「え?ああ……。日本、ていうか地球っていうか……なんて言えばいいのかな……?」
俺はマルミラにかいつまんで向こうの世界のことを話した。
詳しく説明しようと思うと、とても時間が足りないため、地球という丸い球の上に世界があって、魔法の代わりに電気で色んな物が動いてて、車があってスマホがあって……そして、俺はそんな世界で普通にこの世界でもいる『農家』をやっている、ということなどを。
言われてみれば、他の誰もあっちのことはあまり聞いてこないが、ここまで向こうの世界に興味を示されたのは初めてかも知れない。……あ、唯一食べ物のことを聞きまくってくる奴はいたけどな。
「か……画期的だ……!もっと聞かせてくれないか!頼む、もっとだ!もっとよこせ……もっと!」
「え、えーと……」
まださわりしか話していないのに、目が朝露を浴びた若芽のように光輝き始めるマルミラ。身を乗り出して聞いてくるから、思わず後ろに仰け反ってしまった。
「マルミラ嬢。彼も困っているようだ。あまり急にお願いするものではないよ。それに、我々の本来の目的のこともあるだろう?」
ベルナルドが憂いを帯びた流し目で、マルミラをたしなめる。……あ、そういう役目もできるのね。
「本来の目的?」
「あ、ああ……そうだったな。アレのことを聞かなければならないが……それにはもう少し様子を見てみないと。すまんがロキ君。しばらく君の作業を手伝わせてはくれないか」
「え?俺の作業……っていうと、畑のことか?あれって一体何のことなんだよ?」
「うむ、率直に言ってしまうと、お願い……というか依頼があるのだが、それにはもう少し君のことを知らなければならない。そのためにも、我々はしばらくこの村に滞在しようと思うのだ」
マルミラはそう言うと、ここの村長にも滞在の許可はもらっていることを伝えてきた。一体隠している要件とは何なのか気になる所ではあるが、こちらの方としても色々聞きたいことはあったので、特に文句は無い。
二人のキャラクターはともかく、ここを出た町に住んでいるということで、ようやくジャングルの奥地ではないまともな文明のことが分かるかもしれない。そうすれば……夢に見た農機具や新しい品種の種、それに料理のことが……!
ついつい期待してしまう俺だった。




