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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
二章 異世界で初収穫した俺
48/100

48.なんだか地味な能力だよなぁ……実際

「そうだ。俺たちと一緒に畑をやろう」

「は、話が全然見えないのである……」


族長がそういうのも無理はない。ここに来る前にシバやルルガたちに説明した時にも同じような反応をされたからだ。だが、俺は最初からコボルドたちに対してはこの提案をしようと思っていたのだ。


「いやね、前来た時も実はこの話をしようと思ってたんだよ。キミたちは食料の不足で困ってるんだろ?だったら、俺がやっている畑を教えてあげるから、一緒に食料を作ろうぜ」

「畑……?我々とニンゲンがか?」


族長はまだピンと来ていないようだ。というのも無理もないのかもしれない。コボルドたちの様子を観察するに、彼らもまた狩猟採集生活がベースで、まだまだ農耕文化が浸透していないようなのだ。

なので、畑というものは知っていても、農業ということの意味がよく分からず、現時点では採れたもので生活を回す……という文化のようだからである。


基本的に、温かい所では森さえあればなんとか生きていける。それはルルガたちの集落の様子を見てもすぐに分かった。ただ、医療がまだ発達していないため、乳幼児期の生存率が低いのと病気などに弱いせいで、人口がうまい具合のバランスで整えられているらしい。


さらに、そういう生活においては環境変動や外部からの影響に弱い。果樹に裏作といって、実が成る年と実が成らない年が交互に訪れるように、一斉に不作になったり、ゴウダツたちのように外から収穫物を奪うような存在が出てくると、一気にバランスが崩れるのだ。


そのため、狩猟採集生活においては、その場所の収穫物が無くなると次の場所へ移動するという流れとなる。おそらく、シバがいた村のコボルドたちは、ゴウダツたちに貢いだ食料分で住んでいた場所の食べ物が足りなくなり、ここまで流れ着いてきたのだろう。シバの話からもなんとなく想像が付いた。


というわけで、またここから追い出すこともできるようだが、異世界農家たる俺はそんなヒドいことはするつもりはない。それよりも、晴れてゴウダツたちの手から独立した今となっては、むしろ俺の世界農業征服の野望を叶えるための手先となって……!あ、いや下心が漏れてしまった。


一緒に美味しいご飯を食べるために、ぜひともコボルドたちの労働力を貸して欲しい!……と思っているのだった。


「まあ、今すぐ決めろとは言わないよ。また今度……多分、後一ヶ月もしないうちに来ると思うから、その時にもう一度考えてくれ」


不思議そうな顔をする、俺以外の全員をその場に残して、俺はまた畑へと戻ったのだった。




***




「なあ、ロキ。一ヶ月後には何があるんだ?」

「そんなの決まってるじゃないか……ってまだお前には秘密ぅ〜」


意地悪っぽくルルガに対して唇を尖らせる俺。うん、大人げないな。

でもこいつにバラしたら、色んな物が台無しになる気がするので黙っておいた。それよりも大事なのは、来期の計画だ。まだ体が本調子ではないながら、なんとか最低限必要なことだけはやっておかなくては。


数日後。畑に戻ると、俺は再びトウモロコシの様子を見に行く。

やはり気候に合っているのか、予想よりもやや早く穂が出てきたトウモロコシの頭をナイフでちょん切る。……ホントはハサミが良いのだが、まだこの村には無いんだよなぁ……。

そのうち街で鍛冶屋を探さないと結構大変だ。初期の農業は道具で全て決まると言っても良い。ちなみにその次は機械である。農機具で全ての効率が変わるので、いずれは魔導具も開発せねば……!


と、妄想を頭から振り払って、目の前のトウモロコシに集中する。そもそもそんな都合のいい話なんてあるはずがない。いきなりチート能力なんてあったとしたら、この素晴らしき世界に祝福をしたくなってしまうほどだろう。俺には女神様も爆裂魔法の使い手も巨乳のクルセイダーも付いていないので、自分の知恵と努力で何とかするしかないのだ。それが、俺TUEEEEくない世界に来てしまった者の唯一のできることなのである。


つーわけで、俺にある唯一の能力【農力】を活かすべく、トウモロコシの株から新しく出てきた実の先に、さっき切った穂先をちょんちょんと付けていく。……これは『受粉』という作業だ。

本来ならトウモロコシは『風媒花』と言って、風で勝手に花粉が飛んで雌株……つまりは実に花粉が付いて受粉し、実が膨らんでくるのだが、それには数が必要なので、本数が少ないこの状況では、より確実に受粉させるべく、一つ一つ人間の手で花粉を付けていく必要があるのだ。


ちなみに近くに他の種類のトウモロコシがあった場合、交雑して元々の性質と違った実ができてしまうので要注意だ。


「なんだか地味な能力だよなぁ……実際」


ついついボヤいてしまいたくなるが、先日あんな悲惨な出来事を経験した身としては、別に魔王を倒そうという野望もなく、とりあえずこの世界で充実した暮らしが送れるように、まずはうまい飯にありつきたいというだけなので、我慢して頑張ろう。……てか、魔王とかいるんだろうか?この世界に。


なんとなく聞いてみようかと思ったけど、妙なフラグも立てたくないし、今はとにかくトウモロコシだ。受粉受粉。コーンポタージュのために俺は頑張るのだ!


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