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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
一章 異世界で新規就農した俺
42/100

42.自然をなめるんじゃねぇ……!

気が付くと俺は、立ち上がろうとしていた。


相変わらずシバは、ガタガタ震えながら呪文を唱えている。その様子が全く読めないからか、ゴウダツは少し躊躇っているようだ。さっきのミミナの矢を視線から予測した射線で避けた所から、意外に奴は冷静に戦っているらしい。何をするか分からないような奴は苦手のようだ。


とは言っても、そんなのは時間の問題だろう。おそらく次の魔法が外れた瞬間に、奴は仕掛けるはずだ。だが、そんなことが分かった所で、一体何だと言うのか……。


俺に一体何ができる?

ゴウダツに向かった所で、一発でぶっ飛ばされて終わりだ。

殴って倒せるような腕力もないし、鍬だって折れてしまった。


……全くもって無駄だ。


俺が何か仕掛けた所で、何も起こらないのなんて目に見えている。それどころか、折角ああやってシバが時間を稼いでいるというのに、何で俺は逃げないのか。全身怪我だらけで、歩くのがやっとだというのに。でも……。


俺の両足は、どうしても逃げてくれなかった。


俺の中の何かが、やめろと言う。


逃げるな。立ち向かえ。



……あいつは昔の俺だ。

シバにそんな姿を重ねれば重ねるほど、俺の足は逆に前へ前へと進みたがっていく。



くっそ……何でなんだよ……!何もできやしないっていうのに……!


……ちくしょう……!


……ちくしょう……!!


……ちくしょう……!!!




くそ……っ!!!




動け俺のクソ足。止まってんじゃねーよ。



動け俺のクソ腕。何サボってんだよ。



動け俺のクソ頭。


何のためにこれまで知恵を貯めてきたんだよ。……こういう時のためじゃねーのか……!?


ふつふつと腹の底から熱いものがこみ上げてくる。全身が熱い。火傷しそうだ。

痛みじゃない、これは痛み以上の何かだ。

必死で歯を食いしばりながら、ギチギチと固まった指先を動かしていく。ドロリと額から何かが垂れてきた。だが、そんなことは知ったこっちゃない。

それよりも俺の体の中は、血よりも熱い何かが駆け巡り始めている……!


そのマグマのような何かが頭の天辺まで回ると、次第に全身の痛みが抜けていくような気がした。代わりに湧いてくる、破裂せんばかりの炎。


(……何が弱肉強食だよ……自然をなめるんじゃねぇ……!)


さっきまでの恐怖がかき消されるほどの闘争心が湧いてくるのが分かる。と同時に、さっきまでは動かなかった両足が、少しずつ動き始めた。


ズズ……ズズズ……ッ


(人間ってのはなぁ……どんな状況だろうと、自然に適応して生き延びてきたんだよ……!)


若干よろけながらも、俺のふざけた両足は、徐々にあの黒くて巨大な悪魔に向かって交互に進んでいく。イケるぞ……!動け俺の両足!

踏み潰され、泥だらけになりながらも、それでも必死に根を張り葉っぱを広げる俺の畑の作物たちに見守られ、少しずつ歩みの勢いを増していく俺。


そして、目の端に映る、畑の隅っこに植わった一つの植物。それを見た瞬間の閃きと共に、そいつを俺は無造作にむしり取り、もう一度両足で地面に踏ん張った。


「農家を……自然をなめるんじゃねぇ……っ!」


俺は自分だけに聞こえるように小さく咆哮し、黒い巨体を睨みつける。

そして、全身が引きちぎられるような痛みに歯を食いしばって耐えると、俺はとうとう走りだした。


「う……おおおぉぉぉおっ!!!」


シバの方に気を取られていたゴウダツは、俺が近づいてくるのに気付かなかったようだ。二発目のシバの魔法を避けた所で、ようやく向かって来る俺に気付く。


「まだ逃げないとは、元気あるじゃねーか!死に損ない」

「う……るせ……え……っ!」

「ロキさん!」

「いいね!来いよ!……ひ弱な種族の限界って奴を教えてやるよ!」

「お……おおおぉぉぉ……っ!!!」


全力で走ったつもりだったが、ゴウダツたちにとっては子供が歩いているようなものだっただろう。余裕で避けることもなく、仁王立ちのままだ。さらに、シバの魔法に気を付ける余裕すらあった。


「おぉ……らああああぁぁっ!!!」


とにかく俺は何も考えず、真正面から勢いを付けて、ゴウダツの胸元を拳で殴った。俺の目線の真ん前だったからだ。ゴウダツは避けようともしない。そしてその予想の通り、あれだけ勢いを付けたにも関わらず、ゴウダツの体はビクともしなかった。


「……なんだよ?あれだけ威勢は良かったのに、それだけか?これならブタの突進の方がまだマシだぜ?」


まるで効いていない様子のゴウダツに対して、俺は何度も何度も拳を打ち込む。が、自分の手の方が痛くなるだけで、一向に相手に対しては効いていなかった。


「おいおい……ただのお涙頂戴の玉砕か?」


相変わらずゴウダツは仁王立ちのままだ。何度も体を殴られているにもかかわらず、全く動じていない。期待外れだという雰囲気を全身から発していた。が、後ろにいるシバの動向が気になったのか、背後を振り返ると、フン!と鼻息を鳴らした。


「厄介な魔法を食らうのは敵わんからな……」


そういうと、全く効いていない拳で殴り続けていた俺の手首を掴む。そのまま、腕一本で俺の体は持ち上げられた。


「ぐっ……あああああぁぁぁぁっ!!!」


折れていた左手を掴み上げられ、左腕が粉々に砕け散ったかのような痛みが走り抜ける。歯を食いしばったが、その痛みには耐えられなかった。俺は喉の底から悲鳴を上げる。

その声を聞いて、満足そうにゴウダツはニヤリと笑った。


「ロ、ロキさん……!」

「これで、厄介な呪文は使えまい」


俺を左腕一本で釣り上げたゴウダツは、奴とシバの射線上に俺の体をぶら下げる。この状態では、仮にシバが魔法を使った場合、俺が盾となってしまう格好だ。ゴウダツは最早、避けるよりも俺の体を盾として使うつもりのようだった。


「……ぐっ……ぅぐぐぐ……っ!」


必死で痛みに耐えながら、それでもとにかく無心で空いた方の右手で、ゴウダツの鼻面に対して拳をぶつける俺。……この状態であれば、奴の顔にも手が届くのだ。相変わらず効いたようには見えないが……いや、実際に効いていないのだろうが、俺はただひたすらに拳をぶつけ続けていた。


この状態では後ろの様子は見えないが、どうやらゴウダツの狙い通り、俺が邪魔でシバは魔法を使えないらしい。それに満足したのか、奴はその状態のまま、シバの方へと歩いて行こうとする。

俺はと言えば、バカの一つ覚えのように、ただひたすら握った拳でゴウダツを殴り続ける。すると、全然効いていないとは言え、流石にゴウダツもウザくなってきたようだ。


「……ウゼェな。いい加減諦めやがれ」

「う……るせぇ。人間ってのはなぁ……しぶといんだよ……!」

「確かにその通りだよなぁ、本当にしぶとい奴らだぜ」

「は、早く息の根止めたきゃ、その牙で喉笛でも噛み切るんだな……」

「……ふん、全くその通りだな。何を考えてるのかは知らんが、俺の牙を味わっても、その余裕がいつまで続くかな?」


まだ俺が生意気な口を叩けることが、ゴウダツには気に障ったらしい。……そのせいか、とうとう奴はこの戦いを終わらせる気になったようだった。口を大きく開く。


グチッ……!


「ぐっ、ぉああぁぁ……っ!!!」


喋り終わった瞬間、俺の右腕は奴の口に食われた。


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