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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
一章 異世界で新規就農した俺
21/100

21.お前、死にたくない……か?

き、きのこと言ったか……!?さらに、塩と。何故だろう、聞いただけで美味そうだ……!


「た、食べてもいいか……?」

「も、もちろんですよ。部族のみんなは、気味悪がって食べてくれないんですけどね……美味しいのに」

「こ、これは……!?」


早速俺は、子供に渡そうとしていたトルティーヤ的な食べ物を半分に割り、そのペーストを付けて齧ってみた。


「な、なんということだ……」


某料理アニメ系だったら、火山を背景に大声で叫んでいた所だろう。

その時の俺の心を、なんと表現したらいいのか分からない。……ついしばらく前までは知っていたのだが、しかしそれでもずっと足りなかった味覚を再び刺激された時の衝撃。


(なんだこれは……!塩気があるのはもちろんのこと、やっぱりこれはキノコの持つグアニル酸が為せる技なのか……!そしてさらに何だか分からないがピリ辛な香辛料も入ってるし、これらがペースト状になって舌の周りに絡みついていることでその旨味をさらに増幅させ……ってなんて言うかこれは……)



『う……うーまーいーぞーぉーっ……!!!』



思わず叫びたくなってしまった。

そして、それと同時に、俺の中の野心が急激に首をもたげてくる。


『……こいつは……使える!』


一言で言うと、そんな感じだった。


「ああ、やっぱりおいしいなぁこれは……」


感動で叫びだしたくなるのを必死でこらえている俺の横で、子供コボルドは初めて落ち着いた様子で目の前の食べ物を噛み締めているような表情を見せた。

篝火に照らされた村の広場の真ん中で、俺たちはしばし無言で新しく手に入れたご馳走を貪るのに夢中になっていたのだった……。


……。


最後の一口まで名残惜しく堪能した後、指についたペーストを舐めきって、それからさらに少しの間、余韻を味わった後、ようやく俺は目の前の奴に話しかけた。


「……おい、お前」

「はい?」

「これは一体……どうしたんだ?」

「どうしたんだ?と言われましても……。普段から普通にボクが食べているものです。もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「お口に合うどころかお前……!」


プルプルと体を震わす俺の様子を見て、コボルドは一瞬、逆鱗に触れてしまったのかと身を強張らせる。


「……激ウマじゃねーか!!!」


思わず籠の隙間から手を伸ばし、コボルドの華奢で小さな肩をがっし!と掴んで俺は力説した。


「キノコの持つ旨味と塩の絶妙なバランス、そしてその中にピリッと感じる香辛料のアクセントといい、究極!究極のメニューの一品として俺の人生のフルコースに加えてもいいぐらいの一品だったぞ!何!?何なの!?キミは神が遣わした料理の精霊の化身なの……!?」

「え、え……!?」


小さな体がガクガクと揺さぶられるほど力強く肩を掴んで語る俺に、コボルドは呆気に取られた様子で事態を飲み込めていないようだった……。

いかん!そう言えば料理について語っている場合ではない!今はもう時間が無いのだ……!これに関しては後ほどじっくり話を聞くとして、とりあえずもう少し情報収集をしなければならん。


「あ、あの……美味しかったのなら良かったです。ボクが発見して作ってみたのはいいんですが、部族のみんなは誰も怖がって食べてくれないんですよね……」

「え?そうなのか勿体無い……」

「ボク、見ての通り部族の中でははみ出し者なので……」


俺のリアクションを見て、少しだけ表情が明るくなったコボルドだったのだが、そこまで言うと再び俯いて塞ぎこんでしまう。

……そうか、そう言えば昨日も仲間たちから「ハグレ」とか呼ばれていたし、そういう理由があったからなのだろうか……?

俺はずっと気になっていたことを質問してみることにした。


「はみ出し者って……お前のその格好が人間みたいだからなのか……?」

「はい。……『チェンジリング』って知ってますか?」

「チェンジリング……?」

「ええ。我々の中でも、ごく稀にボクみたいにコボルド族とは全然違う容姿を持った子供が生まれることがあるんです。それをチェンジリングと言って、みんなからは『神に呪われた子』だと忌み嫌われる存在なんです……」

「なるほど、それでそんな人間みたいな頭をしてるのか……」


どうやら、魔法で姿を変えているわけではなかったらしい。突然変異のようなものだろうか。だからミミナが分かったように、耳だけはコボルドで他は人間みたいな姿をしているのか……。


「ボクはたまたま精霊たちとお話ができたので、部族からは追放されなかったんですが、それでもやっぱり友達なんかもおらず、家族からも避けられているんです。戦いだって苦手だし、トロくさいし……」

「……」

「だからきっと、仲間だって助けに来てはくれないと思います。あ、あの……ボクは……食べられてしまうんでしょうか……?」

「……」

「そ、そうですよね……。ボクなんてあまり美味しいとは思えませんが、それでも最後にボクが作った調味料を美味しいって言ってもらえて嬉しかったです。一人ぼっちだったボクが唯一好きだったのが料理なので……」

「……おい」

「さっきのキノコのタレも、精霊たちが教えてくれたんですよ。コボルドは洞窟に住んでますから、そこでたまたま見つけたんです。部族のみんなはキノコはほとんど食べないので……」

「おい!」

「はっ、はい!?」


「お前、死にたくない……か?」


「え……?」


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