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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
一章 異世界で新規就農した俺
20/100

20.ほら、何も食ってないんだろ?


「おい、まだ泣いてんのか?」


できるだけ刺激しないよう、穏やかな声で俺は子供コボルドに話しかける。俺が近づいてきたことは気配で分かっていたようだが、昼と同じく、ずっとうずくまったままで動かなかったコボルドが、一瞬だけピクッと反応するのが分かった。

俺は少し前の出来事に、ちょっとだけ警戒しながらも、ここは腹を括って籠に持たれかけるように腰を下ろす。そして……懐から手を付けていなかった食事を取り出した。


「ほら、何も食ってないんだろ?……これ食えよ」


もちろんこちらでの食事に『テイクアウト』なるものは無い。トルティーヤのような乾物なら問題ないが、スープやソースのような物は持ち運ぶのが大変だ。だが、この村では大きくて厚めの葉っぱや、スープに関しては竹を切り取ったコップのように使って持ち運んでいた。


俺が持ってきたのは、トルティーヤと葉っぱに包んだ具材も入ったソースだ。肉まんの中身のようなもの……と言えば聞こえはいいが、薄味のキノコを小さく刻んだものなどが入っているだけで、全然塩分や旨味成分が足りない。

当然食欲もわかないわけで、もしこれが超絶美味かったとしたら、俺はこいつに分けてやる気も起きなかっただろう。だが、そういった部分もあり、ちょうどいいと思い立ってこれを持ってきた……というわけだ。


もちろん、外部の人間である俺にとって、この村の人々とコボルドとの確執には何ら関係ないので、ただ単純にこんな子供を檻に閉じ込めておくなんて可哀想だ……という気持ちも無いわけではない。少なからず、泣きじゃくるこの子を見て、同情の念が湧いてきたという部分もあった。


「別に、毒なんて入ってないから。ほら」


再び俺は食事を促す。……が、コボルドはちらりと一瞥しただけで、特に興味を持つことはなかった。


キュウウウゥゥゥ……


「……やっぱり、腹減ってるんじゃねーか。ほら」

「いいです。……それに、それあんまりおいしくないし」

「……何?」


その時、コボルドが発した一言を俺は聞き逃さなかった。


「あ、ああごめんなさいそそんなつもりじゃないんです!と、とにかく大丈夫ですからお気遣いなく……」


慌てて弁解するコボルド。……どうやら、こちらの親切に対して失礼な一言だったと思ったらしい。顔を上げて、ブンブンと手と顔を振るコボルド。だが、俺が気になったのはそこではなかった。俺は目を細めてコボルドに聞く。


「いやそうじゃない。……まるでお前、美味いものを知っているような口ぶりだな……!?」

「え……?」


『おいしくないから』ということは、裏を返せば『おいしいものを知っている』ということだ。それはつまり、こいつは間違いなくあれよりも美味いものの在り処を知っていることに他ならない。そして……俺がそんな情報を聞き逃すはずもない。


「偶然にも、俺もお前と同感なんだよ。……この食いモンに関してはな。だから……教えてくれ。……これ以上に美味いものは、どこにある!?知ってるんだろっ!?」


鬼気迫る表情で、籠の中のコボルドへと詰め寄る俺。

その様子にビビったのか、さすがに奴も顔を上げて、俺と対話をする気になったようだ。若干呆気にとられながら、俺の質問に答えた。


「え?……あ、ああ……。よく分かりませんが、そっちに置いてあるボクの鞄を取ってもらえませんか?」

「鞄……?」


コボルドは籠の中から、傍らに置いてあった自らの荷物を指し示した。……その指先が示す方向を見ると、奴が捕まった時に取り上げられた杖や鞄一式が置いてある。

俺は、一瞬どうしようか迷ったが、手に入れた僅かな手掛かりを逃すことだけは避けなければならないと感じ、奴の荷物を取ってやることにした。……まあ、もし何かあったとしてもミミナたちがいるから何とかなるだろう。そんな気持ちもあったからだ。


「ほらよ」

「あ、ありがとうございます」


突然魔法的な何かをするんじゃないかと、ほんの少しだけ警戒していた俺のことなど微塵も気にすること無く、コボルドは籠の隙間から鞄を受け取る。

そしてゴソゴソと鞄の中を漁っていたかと思うと、小さなビンを取り出した。


「……これです」

「何だそれ?」

「ああ、これはビンと言って、人間たちが作った工芸品の一つですね。たまたま森で拾ったので、ボクの宝物になってます」

「いやそっちじゃねーよ。見れば分かる。中の方だよ」

「あああ!すいませんすいません!そうですよね、人間たちには当たり前ですよね!ついてっきりこの辺では珍しいので勘違いしてしまいましたすいませんすいません……!」


……なんだ?こいつも面倒くさい感じの奴なのか……?やたらと自己肯定感の低いセリフが気になるが、今はとりあえずそれよりも中身の方だ。


「分かった分かった。別にいいから、それよりも中身のことを教えてくれよ」

「あっはい。あなたのお口に合うかどうかは分かりませんが、ボクはいつもこれと一緒に食べてるんです」


そう言うと、コボルドの子供は木で出来たビンのフタを開けて、中からペーストを取り出した。てかこいつ、さっきからボクボク言ってるけど、もしかして男なのか……?

てっきり見た目からして、少女なのかと思っていたが。まあとりあえずそれは後回しだ。今はそれよりも目の前の物について聞かなければ。


「それは……?」

「キノコを幾つか塩と一緒に煮込んだ物ですよ。そこに少し調味料を加えただけです」

「な、何だって……!?」


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