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月光―ツキアカリ―  作者: 01(まるひと)
9/18

続く戦闘

「おーすげぇ」


 現在、アスクとスキールのいる場所は茶色(ちゃいろ)く色づいた草原。二人は街を出て2kmほど北上(ほくじょう)した、直径2mはあろう枯れた大木の付近に陣取っていた。


 受けた依頼(クエスト)はFランククエスト【不動樹(ふどうじゅ)付近のゴブリンの掃討】だ。依頼人は何年もの寿命を持つ不動樹を、どうしても傷つけたくないらしく、依頼書に書いてはいなかったが、戦闘によって不動樹が傷つくことも避けてほしいとのことだった。

 指定討伐数が設定されていないため、二人はとりあえず10体の討伐を目指すこととし、10体以上倒した後もゴブリンがいるようならそれも倒して、湧かなくなった時点でコネクションに報告。という依頼内容よりは明確な目標を立てる。


 「注文多いな・・・」と移動中に愚痴をこぼすアスクだったが、枯れた大木・・・不動樹に近付くにつれてアスクの機嫌は直り、むしろ上昇していく。

 樹の(もと)に着いたアスクら二人は、周りから湧くモンスターに気を付けながらも、好奇心に負けて樹に触れる。ごつごつ樹皮はちゃんと手入れが行われているのか綺麗だ。しかしだんだんと上を見ると、ボロボロな樹皮が見受けられる。


 そして十数メートルもあるアスクは、あるものを発見。


「あの、気持ち悪いのはなんだ? 鳥の巣みたいになってるぞ」

「なに?」

「ほら、あそこ」


 アスクが指をさすのは遥か上空。不動樹の枝だ。

 冬の訪れによって葉を落とした不動樹は、その異様な枝の塊を露出させている。


 スキールの位置からは見えなかったのか、アスクの方に回りこんでアスクの指さす方向に目を向ける。


「あれは・・・こりゃあ、まずいなぁ」

「なんでだよ? 確かに異常だとは思うけど」

「そう。異常なんだ。ありゃ樹の病気だ」

「なっ、え、大事にしてたんじゃなかったのか!?あの夫婦」

「知識量の問題だろう。しかも、あれは予防できるような代物じゃないからの」

「どうするんだよ・・・っ、こんな時にっ、スキール!」

「ん、おうよ!」


 衝撃的な事実を()の当たりにしたアスクとスキールだったが、樹についての思考は地面から湧いたゴブリンによって中断させられる。


 スキールよりも先に気づいたアスクは、スキールの名を叫び、走りながら草原の中に落ちている石を取ってゴブリンに投げつける。


 数える限り、ゴブリンの数は七体。その内の一体にアスクの投げた石が当たり、ゴブリン達はアスクに注意が向く。

 アスクはゴブリンの目にスキールの大剣が映らないように、走りながら視線を誘導する。そしてタイミングを見計らい、たった一人の仲間の名をもう一度呼ぶ。


「スキール」

「ふんっ!」


 真後ろから大きく横に振るわれた大剣は、ゴブリン達をいっぺんに薙ぎ払う。

 ゴブリン達の中で足の速かった二体はスキールの大剣の範囲外に出ていたため斬撃を逃れて、後ろの光景に驚愕する。

 攻撃目標はスキールに移り、残った二体のゴブリンはスキールに向かって攻撃を繰り出す。


 ゴブリンとの交戦はスキールに任せ、アスクは薙ぎ払われたゴブリンの元へ行く。

 傷つけてはいけない不動樹から、数メートルのところに転がっているゴブリンの残骸を見て、アスクは「ゴブリン跳ばす方向も考えろ!!」と怒りを込めてスキールに忠告した。

 その後改めてゴブリンの残骸を見下ろす。残骸は時間が経つとだんだんと灰になり、そこに残る。風にさらさらと飛ばされて、最後に残ったのは少しの灰と茶色の草のみ。


 そんな|空≪むな≫しい光景にアスクは肩を落とした。


「素材は無し・・・か。まぁこんな小さな個体じゃ期待してなかったが」


 ゴブリンの灰を軽く蹴りながら、独り言を呟くアスクはスキールの方向を見ると、ちょうど残り二体のゴブリンがこちらに跳んでくる(、、、、、、、、、)ところだった。


 アスクは一瞬驚くが、余裕をもって二体のゴブリンを避ける。


「おい」

「すまないの」

「こっち跳ばすなって言ったよな?」

「そうなのか?」

「まぁ、それはいい。ただその足りねぇ頭で考えろ。依頼内容は」

「口が悪いのぉ。むぅ・・・俺の跳ばしたゴブリンで不動樹が傷つくかもということだな」

「うるせぇよ、今気にするところじゃねぇ。んで俺の装備は」

「・・・アスクに装備がないから、跳んできたゴブリンは避けるしか対処がないとな」

「・・・ちゃんと考えられんじゃねぇか」

「少なくともアスクの二倍近い時間は生きているからの!」

「じゃあ最初(はな)っから考えて行動しろ!!」


 額に青筋を浮かべながら、アスクはスキールに怒号を飛ばす。

 一通り説教を終え、一段落・・・と思いきや。


 ボコボコッと地面からゴブリンが湧いた。

 そしてその音は続き、片方の手では数えきれないくらいのゴブリンがアスク達の周辺に出現する。


 第二波。


「多いな」

「攻撃範囲には期待している。一つ提案だ」

「なんだ」


 アスクとスキールは背を合わせ、ゴブリン達を睨み付ける。

 視線を鋭くしたままのアスクは人差し指を上げ、スキールに指示を飛ばす。


「俺が『いけ』と言ったら、今スキールが立っているところ中心に大剣を地面と平行にして回れ」

「ほう、人間独楽(にんげんごま)だな」

「・・・いや、そう高速で何回も回らなくてもいい。っつーか回るな一回転だけにしろ」

「人間独楽・・・」

「話聞けよ!!」

「む、ほれ来るぞ」

「てめぇ、本当にわかってんだろうな?あ、俺が合図出すまでは絶対に剣は振るなよ?」

「やられてしまうではないか」

「信じろ。パーティ組んだ条件だろうが。何回も言わせんじゃねぇぞ?」

「ふむ・・・了解した」


 正式にパーティを組む条件は『スキールがアスクを納得させること』。

 内容は曖昧。だがスキールは(アスクを信じることも納得させるための糧になる)と考えた。


 頷くスキール。アスクはそれを背中越しに感じとり、ゴブリンの動きを待つ。


 ゴブリン達は数体がほぼ同時に動いて、アスクとスキールに近付く。距離は10m。

 スキール側の足の速い個体が、一歩先にスキールの元に辿り着こうとする。が、それをアスクが許さない。

 速攻。スキールの正面に行き、ゴブリンを体術によってその場にねじ伏せる。


 間近で見るアスクの体術に感嘆の声を漏らすスキールだったが、アスクの「集中」という言葉によって目つきを変える。


 足の速い個体がいるということは、相対的に足の遅い個体も存在する。アスクはその足の遅い個体がスキールの攻撃範囲内まで入るまで時間稼ぎをしようというのだ。


 考えを汲み取ったスキールは極力アスクの邪魔にならないように、大剣の切っ先を上に・・・地面と垂直に構える。


 スキールの周りをGランクとは思えないくらいの速度で、ゴブリンを地面に押しやりながら動くアスクは・・・


「いけ!!」

「ふっ・・・!!!」


 全ゴブリンがスキールの攻撃範囲に入ったことを確認し、叫んだ。

 瞬間。スキールは一気に息を吐き、大剣を地面と平行に・・・スイングする。


 そのままだと間違いなく大剣の餌食になってしまうアスクは、その場で大剣の当たらない高さまで跳ぶ。


 結果は・・・

「っとと・・・よし、うまくいったな」

「おうよ」


 まさに一網打尽。数体のゴブリンは宙に舞い、地面へ落下する。

 アスクは着地したのちに周りを眺めるが、相も変わらず素材は無く、数秒後に殺風景な草原が広がる。


 その後また2~3体が姿を現し、スキールの剣によってクエスト遂行前に決めたノルマは達成。この後数分してもモンスターが出なければクエストは達成なわけだが・・・


「あの樹をそのままにしておくのもなぁ・・・」

「報告か・・・? 俺たちが気にすることでも・・・」

「樹は大事なものだぞ。俺は城にいる人間よりは大切だと思うがなぁ」

「城内の人間なんて知ってるのかよ?」

「城から出てこないあたり、器は知れとる」

「はぁ・・・意外と辛辣なんだな。一理あるって俺も思うけど」


 数メートル先に見える樹の病気の部分を見上げながら、偏見を抱くスキールに話を聞くアスク。


 もちろん樹のことも重要だが、なにより依頼内容は【不動樹付近のゴブリンの掃討】。まだ依頼は続いている。

 三度(みたび)地面が盛り上がり、草原を土に変えて第三波のゴブリンが現れる。


「樹のことは後だ。まずあいつらをどうにかしよう」

「まだ出てくるか・・・」

「あ?」

「・・・お、おう」

「どうした? スキール」


 アスクが樹から視線を外し、ゴブリン達を面倒臭そうに眺めながらスキールに声をかけると、スキールはこめかみに汗を浮かべる。

 アスクがスキールの様子に不審がって様子を聞くと、スキールは苦い表情で答えた。


「嫌な・・・予感がする。このままじゃまずい」

「・・・」


 その言葉にアスクは言葉を失う。

 付き合いはとても短いが、昨日今日とで笑いと情熱で行動していたスキールが、今は顔を青ざめているのだ。


 言葉の意味を考えようとしたアスクは、前方の複数のゴブリンを見て思考を入れ替える。


「とりあえず目の前の出来事をぶっ潰すぞ。詳しいのはその後だ。行くぞ」

「・・・っし、おうよ」


 アスクの言葉に気合を入れるスキール。

 先ほどまでの気力には少し足りない気がするが、アスクはそれこそ気のせいだと目を一度伏せる。

 アスクは武器を持たないが、スキールの援護程度なら先の戦闘で出来ることを証明して見せた。

 アスクは目を開き、今度は二人同時にゴブリン達の群れに走り込む。





 戦闘は一方的に終了。

 二人とも無傷で第三波を乗り越えた。


 体術を駆使したアスクはスキールよりも体力の消耗が激しいが、それは顔に出さない代わりに思案顔を浮かべる。


 戦闘の前にスキールが言った「嫌な予感」の正体。

 第三波の戦闘では何も起きなかったし、本当に気のせいではないのかと思うアスクはスキールの顔を見るも、スキールの表情は未だ晴れることはない。


 アスクが「おい」と声をかけると、これっぽっちも表情を変えることはなく、アスクの思っていなかった質問がスキールから飛んでくる。


「今、ゴブリン、何体倒した・・・?」

「は?あー・・・33だな。それがどうした」

「・・・クエスト上、不動樹から離れるわけにはいかないよな?」

「当たり前だろうが」

「戦闘は避けられないわけだ」

「いい加減にしろ。なにが起こるっていうんだ」

「一定範囲内で一体数のゴブリンを一定時間内に倒し終えると・・・倒しちまうと、

 スキールの言葉は続かなかった。


 ドゴッ!!と今日一番の爆音が辺りに響く。


 それを聞いて、アスクは瞬時に戦闘態勢に移る。

 音源は地面。もう一度大きな音が鳴り、それと共に肘から先の海松色(みるいろ)の腕が地面から現れる。


 呆然と眺めるアスクとスキール。だが、その『何か』は動きを止めない。

 最初に出てきた腕は、地面を掴み、力を入れ、上体を地面から引っ張り出す。


 続けて下半身も慣れた動作で地面から出し、海松色の『何か』の全身が露わになる。


 その正体は、

「ゴブリンリーダー。こいつの推定ランクはD。Eランク以下は撤退するように言われている、俺たちからしたらとんでもない強敵だ」

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