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月光―ツキアカリ―  作者: 01(まるひと)
5/18

初めての任務。初めての・・・

「これが冬樹(ふゆき)・・・」


 アスク・スヴァットはちょっとしたメモ帳程度の大きさの山菜図鑑を見ながら、街の外を歩いていた。


 アスクはコネカの作成後、受付嬢に一番ランクの低い仕事を勧めてもらい、それを遂行している最中だ。


 剣士・魔法師の受ける仕事を、コネクション側は総じて【クエスト】と呼んでおり、アスクの受けているクエストはその中でも【採集クエスト】を受けている。


 今回、アスクの受けているクエストの内容は、『冬樹、5つの採集』

 依頼主はそれを薬草として使いたいらしく、剣士・魔法師に依頼をしたらしい。


 『自分で行けばいいじゃないか』という声も、コネクションの出来た当初には言われていたらしいが、剣士でも魔法師でもない人が街の外に出ると、負傷者があとを絶たなかったため、採集系の仕事もコネクションに回されるようになった。とか。


 とは言うものの、アスクもテュール・グロアから武器を受け取っているわけでもなく、完全に一般人同様なわけなのだが・・・。


「ま、街の周辺はモンスター居ないっぽいし、大丈夫だろ」

 アスクは完全に楽観視していた。


 まぁアスクの言う事は正しく、モンスターは街の周辺には存在しない。

 なぜならAランクはあろう街の衛兵がやっつけてしまうからだ。


 ・・・護衛がいるなら依頼を出す必要はないではないか。という話である。


 街を半周した当たりで、アスクは今日の朝同様に天を仰ぐ。


()ぇ・・・」


 冬樹は『樹』という割に、背は低く、白い葉と白い花が()っていて、冬の期間だけに咲くのが特徴だ。

 緑の草原の中、白い花を見つけるのは容易なはずなのだが、残念ながら街を出てすぐの場所には生えていることはなかった。


 当然ではある。モンスターの出ないところで採集できるのなら、そもそも報酬を出してまで依頼主はクエストを発行したりしないだろう。


 あと数十メートル街の外に出ると、地中やら木の上やらに見受けられるモンスターに出くわしてしまう。武器を持たないアスクは、できればモンスターと対峙したくなかったため、武器の調達―――――コネクションでお金を出せば一時的に借りられるのだが、アスクにはお金がないため借金という形になる―――――のためにアスクはやむなく、街に戻る・・・と思いきや。


「あ、あれそうじゃん!?」


 それは枯れた木の下。白い花がアスクの目に映った。

 一応その木の周辺はモンスターが現れる地点のはずだが、幸いその場にモンスターの姿はない。


 ガッツポーズをして小走りで冬樹の採集に向かう。

 量的にも運がよく、まとめて4つの冬樹の採集に成功。


「武器借りるのに借金なんてしたくなかったからな」


 無意識のうちに笑みをこぼしながら、アスクは周りを見渡す。現状、目に見えるところでは腰に下げた茶色い革のポーチの中にある4つだけだ。


 いつ戦闘になってもおかしくないため、アスクは慎重に草原を歩く。


 歩いていると、モンスターと対峙しているパーティが何度か目に入るが戦える術を一つしか持たないアスクはやむなくその場から遠ざかる。

(これも剣士なるもの・・・)


 そうこうしている内に、枯れた木の下に冬樹が生えているところを発見したアスクは、周りを一度グルッと見渡す。



 いつの日か、ある剣士が何気なく残した言葉にこうある。

 <街の外に出て、モンスターと対峙しない剣士は居ないよ>


 当然の発言だ。



『ッキ?』

 10mほど先にいる一匹の亜人型モンスター【ゴブリン】と目が合った。


 腰に布を巻いているが、だらしなく膨れた腹と逆に今にも折れてしまいそうな腕を惜しげもなく周囲にさらしながら声を上げるゴブリン。周りには野次馬の如く、わらわらとゴブリンが集まってくる。

 中には地面から出てくる奴もいて、アスクには手に負えそうもない。


「やべっ」


 木の下には3つの冬樹が生えていたが、クエストは5つで足りるため、最低ラインの1つだけ手にし、アスクはゴブリンと逆の方向に走り出す。


 しかし・・・


 逃げる方向にもゴブリンが出現。


(ちっ・・・左右に逃げてもどうせ囲まれる・・・)

 総数は10程度。

 舌打ちをするアスク。


 アスクは苦虫を噛み潰したような顔になりながらも思考する。


(武器は持ってないから、致命傷を与えることは不可能に等しい。他の剣士たちが来るまで時間稼ぎ?いや、あんまり望めないか・・・街に帰るのに必ず通る道ってわけでもねぇし・・・)

「っ!両方からかよっ!!」


 思考中に2方向からゴブリンが接近。


 相手の攻撃は単調で、避けることはたいしたことはなかった。

 だが、それが複数体だったら・・・


「ぐっ・・・」

 複数のゴブリンの内の一体。アスクは木で作られた棍棒で左の二の腕を殴られて顔を歪める。


「ッ・・・この野郎!」


 殴ってきたゴブリンに対し、アスクは唯一の攻撃手段である体術で応戦。ゴブリンを投げ飛ばし、他のゴブリンをも巻き添えにする。


「よし、いける!」


 テュール・グロア直伝の体術は、人型の敵であれば大体は効果的だ。アスクはそれを駆使してこの場を乗り切る。と心に決める。




 20分は()った。

 しかし長くは保たない。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 肩で息をするアスク。


 体術は体全身を使って使う技で、得物で敵と対峙するよりも体力を大きく消費する。


 (楽になりたい)と脳裏を過るが、敵の攻撃が来ると咄嗟に体が反応してしまう。


「くっそが・・・」


 言葉の通じないゴブリン相手に、暴言をぶつけるアスク。

 返答なんて求めてなかった。ただ口から洩れただけの言葉だった。


 そのはずなのに、答える声があった。


『スキール!?』

「なぁにぃおおおおぉぉう!!??」


 遠くに聞こえる驚いたような男の声に、こちらに近づいてくる男の声が聞こえた。

 その直後に、ぶぅん!と空気を切る音と共にゴブリンの断末魔が辺りに響く。


 音源はアスクの後方。

 大剣を持つ男性がそこにはいた。


「誰が『クソ』じゃあぁぁぁあ!!?」

「いや・・・あんたじゃねぇけど」


 助けてもらったにも関わらず、素が隠せなかったアスクだった。


 ただ好機となったのもまた事実。


 アスクは瞬時に思考を切り替え、周囲を見渡す。


「おいあんた! このおっさんが勝手に首突っ込んじまった。武器も持たないで外に出るなんざ命知らずだな!」

「悪い! ゴブリンの隙は俺が作る! (とど)め頼めるか!?」

「お? いいね。適応力高い奴は好きだぜ!」

「誰がクソじゃー!?」

「あんたじゃねぇって言ってるだろ!!!!」


 アスクの見た先には、気のいい男性といきなり戦闘に入ってきた大剣を持つ男性の二人が居た。

 気のいい男性はすぐさま腰に帯剣した片手剣を抜きゴブリンを迎撃する。


 アスクは話を聞けと言わんばかりに、大剣を持つ男性へゴブリンを投げ飛ばす。


「ふん!! おれっ! ほう・・・?」


 序盤は顔を険悪にしてゴブリンを倒していた男性だったが、飛んでくるゴブリンや倒れ込むゴブリンを倒している内に、頭を冷やしたらしく、

「なるほどなぁ・・・」


「・・・なんだよ!?」

 意味ありげに呟く男性に、疑問を抱くアスク。

 間もなく戦闘は終了し、アスクと気のいい男性は息をつく。

 対して大剣使いの男性は自分の得物を見て、うんと頷き大剣を背中に装着する。


「あんた・・・」

「あ?」


 背中に大剣を携えた男性を見て、アスクはふと思い出した。

(そういえば朝、コネクションに行く時に・・・)

 アスクの思考はそこで途切れた。


「バッカなんかー!!!??」

「!?」


 いや、切断された。


「武器も持たずになにしてんじゃー!!??」

「うるせっ」

「武器も持たずにっ」

「さっきも言ったろうが!!」

「忠告も聞かんとは!」

「今すぐに直せる事柄じゃねぇだろ!っつーか、会ってすぐごちゃごちゃ言う方がどうかしてるよ。っつーか!喋り方どうにかなんねぇの?」

「親の名残やて」

「変なの・・・」

「んなにぃ!!??」

「はっはっは!面白いなお二人さん」


 感情の起伏が激しい男性に反論をすることすら馬鹿馬鹿しくなってきたアスク。

 男性は腹を抱えて笑い出し、アスクは「なんなんだ・・・」とむしろ思考が冷静になる。

 そしてその上で先行した考えは。

 二人に助けられた。という事実だった。


「あーなんだ・・・」


 とりあえず口を開いたものの、先の会話からの感謝はちゃんちゃらおかしいことを自覚しているアスクは、その先の言葉に詰まる。


「どうしたのさ?」

「どうした」

「えっと・・・」


 アスクは観念して口を開いた。


「ありがとうな。助かった」

「ほぅ・・・」


 大剣使いの男性は、アスクの態度を見て考えを改める。


「それなりの礼儀はあるようだな」

「えらいねぇ」

「まぁ当たり前のことだしな」

「感謝。礼儀は第一印象の基本だろうからの」

「スキールいつも言ってるからな」

「はぁ・・・」

「それより」

「?」


 どうやら、「それより」ということは第一印象の礼儀よりも重要なことが男性にはあるようだ。

 それは、アスクにとって『まだ』無縁だと思っていたことだった。


「ヴィース。今日は助かった」

「おうおう良いってことよ。俺はお邪魔みたいだし先帰るぜー」

「おう」

「いいのかよ?」

「あぁ。して、お前さん仲間はおらんのか」

「ん?まぁ。コネクション入いりが今日初めてだからな」

「む、そうなのか。そうかそうか」


 ヴィースと呼ばれた男性を見送り、スキールと呼ばれていた男性はこんな話を持ち込んできて意味ありげに首肯する。もちろんアスクに意図は理解ができない。アスクはスキールが何を考えているのか読もうとするが、そんな時間はなく、すぐにスキールが思ってもみなかったことを口にする。


「なら、俺と仲間にならんか!?」

「えっ」


 急に顔色を変えた男に、少々引くアスク。


「俺の名前はスキールニル・レード。俺のことはスキールでいい。どうだ?パーティだ」

「い、いやいやいや」


 スキールと名乗った男性は言葉でぐいぐいとアスクを押すが、アスクはそれを制止させて、話を整理させようと勤しむ。


「まだ初対面だぞ?」

「先の戦闘。戦いやすかった。それじゃだめか?」

「いきなり結論かよ・・・話聞けよ・・・」

「俺ならお前にいろいろ。例えば武器のこととかコネクションのこととか教えられるしな」

「そ、それは・・・」


 それを言われ、アスクは口を(つむ)ぐ。

 確かに初心者同士がパーティを組むよりも、今後のことについて固まりやすい。


 しばし思考し・・・アスクは一つの結論を出す。


「パーティに誘われる方は俺だ。だからほんの少しの条件を出してもいいか」

「その条件による」

「たいしたことはない。『これはまだ仮のパーティ』ってことだ」

「ほう。本当の仲間になるにはどうすりゃいい」

「一か月後に結論を出す。それにもし、俺に不満があるのなら、あんたは俺を仲間から外してもいい」

「初対面なのに随分な条件出すじゃねぇか。俺にしてもお前にしてもな」

「互いに命を預けるんだ。当然だろう」

「確かに。よし乗った。一か月以内にお前が納得できるようなアクションを起こせばいいんだな?」

「話が早くて助かる。俺も相応の努力をする。スキールって言ったか・・・?俺はアスク・スヴァットだ。よろしくな」

「あぁ。伝説の始まりだな」

「自分で言うなよ」

「アスクが言うか?」

「そういう問題じゃねぇ」


 この短時間で意気投合(?)。



 伝説の始まり・・・かもしれない。

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