コネクションカード
仕事中だったのか、少女は「少々お持ちください」と言って看板の手入れを数秒で終え、アスクをコネクション内に案内した。
黒く綺麗な髪を下した同い年くらいの少女に声をかけられ、思わぬ形でコネクション内に入ることのできたアスク。
中に入っての感想は・・・
(思ったよりも広いな)
・・・案外あっさりしたものだった。
それもそのはず。テュールもコネクションに所属していて、時々アスクに話していたのだ。
逆に言うと、(コネクションは広いぞー)と何度も聞かされているアスクでも、あっさりではあるが広い。という感想を抱くくらい、コネクションは広いのだ。
まず入ってすぐのエントランス。
ドーム型になっているコネクションは、入ってすぐのエントランスがコネクションのフロアの中で一番広くなっている。
故に入ってすぐがメインフロアだ。
床や数多くのベンチ・机は木造で、そこに剣士たちが集つどって作戦会議をする者、朝だというのにお酒を飲んでいる者がいた。(ちなみに二階は剣士・魔法師の訓練場)
ここには剣士の他に魔法を使う魔法師もいて、剣士・魔法師は若い者から10歳前後。ベテランは50歳の人と、幅広い。
アスクは17歳でとても若い部類。「将来有望」な人間だ。
このコネクション職員の少女は、そこまで考えているのかわからないが、少しはそのような意図はあったかもしれない。
エントランスを奥まで行くと、突き当りにカウンターがあり、そこにはアスクをここまで案内してくれた少女と同じ制服を身に着けた女性たちが、仕事をしに来た剣士を一人一人捌さばいていた。恐らくこの人たちが受付の職に就いている人たちなのだろう。
(っつーことは・・・俺の目の前にいるこの人も同じ仕事を持っているはずだけど・・・なんで外を歩いてたんだ?)
アスクがそのような考えを巡らしていると、アスクと自ら受付の職に「就いている」と言った少女はカウンターの向こう側に行き、「少々お待ちください」とアスクに言って、受付の人専用と思われる部屋へと姿を消す。
アスクは改めて後ろを振り返り、辺りを見渡す。
目に入るのは先ほど見た剣士・魔法師。それらに囲まれる机や椅子。その他にはエントランスを照らすランタン。剣士・魔法師が受ける仕事が張り付けられている提示板などがあった。
アスクが見えたものはそれまでで、すぐに後ろから声をかけられる。
「お待たせしました」
「早かった・・・っすね」
「はい、これを取りに行っただけなので」
一応初対面だからか、アスクは慣れないながらも敬語で返事をする。
受付嬢の少女は「これ」と言って、手に持っている物をアスクに見せた。それは、薄型のノートパソコンだった。
用途はわからないが、このコネクションの剣士・魔法師メンバー全ての情報が収められているとアスクは予想する。
受付嬢の少女はカウンターの『関係者以外立ち入り禁止ゾーン』の手頃な椅子に腰かけ、ノートパソコンをカウンターのテーブルに置く。
アスクは残念ながら、その場に椅子がないので立ったままだ。
受付嬢が少しだけノートパソコンをいじると、「あ、」と声を出して、パソコンの液晶から目を離してアスクを見上げる。
「すみません。聞いておりませんでした。コネクションにはどんな御用でしょうか?」
アスクはコネクションの入り口で、受付嬢に「コネクションになにか?」と言われ、「あ、はい」と成り行きでこの中に入ってきたので、互いに交わした言葉は少なかった。
(俺の方から言うべきだったな)と少し反省するアスクは、頭を掻いてぎこちなく喋り出す。
「あ、えっと・・・剣士志望で・・・」
「【コネクションカード】はお持ちですか?」
「いや、無い。・・・です」
「剣士志望、となりますとコネクションカードは必須になりますが」
「今から作ることって?・・・できますか」
「はい。可能です。作成しますか?」
「うん。よろしく。・・・お願いします」
素が見え隠れするアスクの口調を気にも留めず、受付嬢は話を淡々と進めていく。
その会話中に出てきた用語。コネクションカードをアスクも知っていた。
コネクションカード。通称『コネカ』。
受付嬢の言った通り、これは剣士・魔法師には必須のアイテムである。
簡単に言うと、アスクがコネクションに配属するにあたっての証明書である。
そして、コネカの用途はそれに終わらない。
証明書としての使い道以外に、もう二つの用途がコネカにはあるのだ。
一つ目は電子マネー機能。
単位は『sild』
仕事をこなすとその仕事に応じて給料・報酬が入るのはどこの世界でもそうだろう。剣士・魔法師も同様で、仕事をこなすと報酬が手に入る。だがそれは現金ではなくコネクションの受付の人にコネカを渡して、報酬分がコネカにチャージされるのだ。
二つ目はコネカの特別仕様。【bloodexperience】(以後bloodEXP)なるものだ。
直訳で『血の経験値』。剣士・魔法師は呼びやすく、『経験値』や略して『EXP』と呼ぶ場合が多い。
この街の外にはモンスターが徘徊していて、それを倒すのが剣士・魔法師の仕事だ。そして剣士はモンスターを切った分だけ、魔法師はモンスターに魔法を当てた分だけモンスターは血を流す。【bloodEXP】はその流れた血の量によって数値が上がっていき、桁ごとに剣士・魔法師のランクが割り振られる。
ランクは経験値の数値が1桁でランクG。2桁でFと上がり、ランクがAを超えるとS・S2・S3と上がっていく(現在はランクSが最高ランク)。
加えてランクが上がるごとにその人自身の身体能力も徐々に上がっていき、ランクSにまでになると大剣を二本振り回したり、軽い装備で固めて一歩で数メートル跳躍することができ、移動能力が向上するのだとか。
要するにコネカは、今後の剣士生活として証明書という意味でも、強いモンスターと戦う上で必須となってくるのだ。
受付嬢はアスクの言葉を聞いて、カウンターの棚からクレジットカードほどの透明な板と、針を取り出した。
「この透明な板の上に血を垂らしていただけますか?二滴ほどお願いします」
アスクはそれに無言で頷き、左手の親指を針で刺す。
言われた通りに血を垂らして、アスクは傍観に徹する。
受付嬢は板の上に手をかざし、魔法を唱える。
すると二滴の血は徐々に広がっていき、やがて透明な板を色付ける。
それを見て、アスクは「おぉ」と感心の声を上げる。魔法を間近で見るのはアスクにとって初めてだったから。
数秒後にその板が光ったかと思うと・・・
「これでコネクションカード完成になります。指に治癒もかけますね」
続いてアスクの指がほんのり緑に光り、瞬く間に傷口が塞がっていく。
アスクは調子を確かめるように手をグ、パと。
カウンター台に置かれた物は、真っ黒のカードに真っ白の文字が刻まれた手のひらサイズのカードだった。
「それではお名前と性別、生年月日を聞いてもよろしいでしょうか?」
受付嬢はノートパソコンのような機材を操作しながらアスクに聞く。
「大丈夫ですけど」と疑問交じりに答えると、受付嬢は機材の横のトレーを出し、そこに先ほど出来上がったコネカをパソコンに挿入する。
アスクは受付嬢に聞かれたことを答え、それからまた数秒。
パソコン横のトレーからコネカが出てきて、それを丁寧に持ち受付嬢はアスクに手渡す。
重さもクレジットカードほどだが、黒いカードなため寒色のせいか思っているよりほんの少し重く感じる。
カードを見るとアスクが受付嬢に伝えた通り、名前や生年月日が載っていて、逆にその他の欄は空欄だった。
(ま、当然か)
まだコネカは発行したばかりで、お金も経験値も入っているはずがない。
もう一つパーティーメンバーという欄があるが、それは仲間が出来た時の機能。コネクションに来ること自体はじめてなアスクにはまだ使わない欄だった。
「頑張っていきましょうね」
「え?」
唐突だった。
アスクがコネカを見ているときに、唐突に受付嬢の少女が笑ってアスクに言う。
「? アスクさんは剣士になったのですよね?」
「あ、あぁ。そうだな・・・ですけど」
「はい。ですから私もアスクさんのサポートをしていきたいと考えています。ので、一緒に頑張っていきましょう」
「・・・そう、ですね」
「はい!」
ここまで同年代の少女と話すことがいままでなかったアスクが苦笑いを浮かべる。そのぎこちない笑みを受付嬢は営業スマイルで応えた。
―――――
【コネクションカード】
氏名:ask・svart【G】
性別:man
生年月日・年齢:4月17日,18歳
【パーティメンバー】
氏名: 氏名:
性別: 性別:
氏名: 氏名:
性別: 性別:
【bloodEXP】
0
【sild】
0sild