職場へ
翌日。1月19日。時刻は昇りの午の刻。
斜陽が古びた道場を照らすも、気温の低い中でアスクはテュールと別れを告げた。
三年間はテュールと共に暮らしてきたが、これからは一人暮らしとなる。
テュールからいくつか日常について教わったアスクであったが、基本的には自分でこれから過ごすこととなるのだ。
故に、今日中に宿を見つけて宿代を確保しなければならない。
のだが・・・
アスクは外を1人で歩くのは初めて。テュールの道場付近のマップは頭に入っているが、それから出るともはやアスクにとって未知の世界だった。
朝、道場を出て街中を歩くこと数十分。
アスクは天を仰ぐ。
(わかんねぇ・・・)
(地図くらい渡してくれてもいいじゃねぇか!)と脳内で地団太を踏むアスク。
気分は沈み、上に向けていた視線が地面に向かう。
アスクは深くため息を吐いて、周辺を見渡す。
仕事に向かう人が増えてきたのか、街が賑わい出す時間帯で通りは徐々に活気付いてきた。
そこでアスクの頭上にキランッと豆電球。
(剣持ってるやつに付いて行きゃいいんじゃねぇか!?)
妙案を思いつき、アスクは身の丈ほどある大剣を背負った男性をついて行くことにした。
かと言って、ついて行くのに不審がられても面倒なため、アスクはあくまで自然に男性について行く。
しかし尾行なんて行為は初めてのアスクは逆に周囲に怪しまれそうな行動をとっていたが、そもそも男性の方はつけられているなんてことは思わないのか、後ろを見る素振りはない。
ついて行くこと約5分。
アスクの予想通り、男性の目的地はアスクの目的地と合致していた。
アスクが宿代と食事代を確保する場所・・・
「ここがコネクションか・・・」
【connection】と横文字で彫られている鉄製の看板を眺めるアスク。
その文字の羅列はアスクに理解できないが、剣士になる身として知っていて当然の場所だ。
その間にも、剣士たちは【コネクション】を出入りする。
すると少し汚れた布を持ってコネクションから出てきた一人の少女が歩みを止めた。女の子はアスクを見る。
赤い制服を身に纏った黒く長い髪の少女は、アスクと年は同じくらいだろうか。
アスクも見られていることに気づいて、苦笑いを浮かべる。
「えっと、なんですか?」
アスクが口を開くと、同い年くらいの少女はニコッと笑みを浮かべる。
「コネクションになにか御用ですか?」
「えっ」
「私、ここの受付をやっている者です。良ければ中を御案内しましょうか?」