プロローグ―アスクの旅立ち前日―
宜しくお願いします。
とある剣道場内。
神前には二人の人物がいた。
神前側の人物は30代半ばの無精髭の男性。テュール・グロア。
七分袖がゆるくなった深い青のVネックシャツに、下もダボダボの灰色のズボン。
髪は茶色で、染めているというよりも色褪せている感じがあり、そのせいか全体的に疲れているような印象を受ける。
そのテュールと対面しているのが、10代半ばの少年。アスク・スヴァット。
少々乱雑に切られた黒色の髪。服も上下が黒となっていて、アスクの着ている服は元々テュールのものなのか、印象としてテュールよりだらしなく感じる。しかしまだ若いからか、顔だちは少年さが出ていて、こうして比べてみているとテュールほど緩んだ印象は受けない。
そんな二人が剣道場で何をしていたかと言うと、竹刀での模擬戦とかではなく、両刃真剣の試合だった。
とは言っても、決して殺し合いなどではなく、剣は寸止めというルールでの試合だ。
今はそれが終わって、正座で見合っているところだ。
試合が終わって最初に口を開いたのは、疲れている印象を受けるも、試合後のせいか高調しているテュールの方だった。
「アスクぅ」
「・・・」
「お?どうした。疲れたかぁ?」
「その情けない喋り方どうにかしてください。師匠の試合後の癖ですよ」
「・・・」
テュールの間延びした口調にため息を付くアスクだが、テュールから返事はなかった。
どうしたのか、とアスクが口を開こうとすると、テュールは一度目を瞑り、目を開ける過程で静かに剣道場の窓から外に目を向けた。
アスクもそれにつられて外へと目を向ける。
外は夕空に星が一粒淡く輝いており、間もなく日が落ちるというところだった。
二人して外に目をやること数秒。テュールがふと呟く。
「今日も綺麗だなぁ」
呟いた直後に(ガラにもないことを言ったな)と苦笑いするテュールだが、アスクは馬鹿にしたり、笑ったりはしなかった。
テュールの、アスクへの評価としては「俺のことを師匠と思っているのか疑わしく、時々毒を吐く」というもので、たまにテュールがロマンチックなことを呟くと鼻で笑われたりもするのだが・・・
「師匠」
「んー?」
アスクは外を向いたままテュールのことを呼んで、改めてテュールと向き合う。
それにちゃんと、テュールも向き合う。
「いままで、ありがとうございました」
唐突に、アスクが頭を下げそう言った。
今日をもってこの道場を離れ、アスクは剣士となる。
アスクは、この日を待ちわびていた。
3年前に戦争によって剣士である両親を亡くしたアスクは、テュールのところに「剣士になりたい」と弟子入りを申し込んだ。
この3年間は、アスクにとって有意義なものだった。
最初こそ辛くて、弱音を吐いた時期もあったが、あの時の思いを忘れてはならないという一心で諦めずにアスクはここまで頑張ってきた。今日がその集大成。
最後の試合では(5年前は一流の剣士だった)テュールに圧勝して、いよいよ正式に剣士になる。
(そうだ、この日を待ちわびていたんだ)
何度も心の中で繰り返すアスク。
「お前も明日にゃいっぱしの剣士になるのか。まぁ俺を負かしたんだ。自信持てよ?」
「師匠の全盛期には遠く及びません」
「そりゃそうだ! 師匠でいられなくなっちまう!」
はっは!と大きな声で笑うテュール。そんな師匠に微笑みを返すアスクは、
「いつか・・・追い抜きますよ」
強く言い放った弟子に、テュールは笑っていた声そのままに「おうよ!」と答えた。
「俺もたまにはそっちに顔出すからよ。成長止めるんじゃねぇぞ?」
「はい」
アスクの返事を受けたテュールは傍らにあった剣を持ち立ち上がる。
「期待してるぜ。剣士、アスク・スヴァット!」
「はい!」
「お前はこれからがスタートだ・・・」
次に出る言葉は、互いに知っていた。
テュールの昔話に出てくる、一流の剣士だったテュール以上の、達人級の剣士の言葉。
テュールはにっ!と白い歯を浮かべ、
「希望を活かし続けろ!」
アスク・スヴァットの物語はここから。この言葉と共に始まる。
結構長編になるかと思います。
アドバイス等あればなんなりと。
前書きにも書きましたが、改めて、よろしくお願いします。