この時の勇者の心情を答えよ
静まり返った夜の街。人のいなくなった住宅の屋根に寝転び、エミリアはぼんやりと空の「星」と呼ばれるものを眺めていた。こんな景色は故郷にはなかった。中々綺麗なものだ。
「…何故彼を助けた?」
「…あら。帰ってきたのね、最強生物様」
ふとどこからともなく声が聞こえた。ラグーンだ。魔法の力で人間の姿になった彼は、不機嫌そうに長い黒髪を後ろにかき分けながら、エミリアの横に腰掛けた。
「今までずっと、餌にしてきたはずだ」
彼の静かな言葉から、苛立ちが見え隠れする。どうやらあんなに弱い勇者もどきに一杯食わせられたのが、よっぽど気に食わなかったらしい。エミリアは起き上がってラグーンの顔を覗き込んだ。
「ねえラグーン、面白そうじゃない?この世界からは、沢山の自称勇者たちが異世界へ転生していったらしいわよ。ここで待ってれば、色んな世界からへなちょこどもが、異世界の怪物たちを引き連れてきてくれるかも…」
そいつらを喰って魔力にすれば、いずれは兄さんにも勝てるかもしれないわ。
「だが…あいつを生かす理由はない」
そう言って顔を逸らそうとするラグーンの傷跡を優しく撫で上げ、エミリアは妖艶に笑った。
「嫉妬してるの…?」
「…してるさ。お前を守る役目は、俺だけでいい」
瞬く星空の下で、二人はそっと口づけを交わした。
「祐介様!起きてください!祐介様!」
「へぁ!?」
突然の大声に、祐介はベッドからずり落ちた。いつの間にか、部屋の中に昨日助けた謎の少女、エミリアが入り込んでいた。
「んなあっ!? ななな何!?」
祐介は下着姿の自分に気づき、慌ててズボンを探した。寝込みを襲われては勇者もどうしようもない。一体彼女はどうやって自分の家がわかったのだろうか。
いやそれより、昨日何があったのか。どうやって帰宅したのかさえ、祐介にはさっぱり分からなかった。途中やけくそになって、竜の口に飛び込んでいったところまでは覚えている。恐らくあれで、死んだと思った。その後の記憶が曖昧だった。自分が生きているのが、そして寝るときにズボンを履いていないのが不思議でならなかった。
「そんなことより! 見てください窓の外!」
「そんなことよりって…」
エミリアが部屋の中で、窓ガラスの向こう側を必死に指差している。祐介はズボンを履き、顔を赤らめながらヨロヨロと窓の外を見上げた。
昨日までどこまでも広がっていた青い空と白い雲が、鋼鉄の円盤に埋め尽くされていた。
あまりの光景に祐介はあんぐりと口を開けた。
「な……?」
「また異世界から新たな敵がやってきたみたいです!さあ勇者様!いざ参りましょう!」
「………」
嬉しそうに横ではしゃぐエミリアを祐介は呆然と見つめ返した。彼女の目は、尊敬と期待の眼差しで彼を貫き、キラキラと輝いて見えた…。




