いきものぐるいのしにものがかり
(なるほど、こいつァ確かにポンコツだな…)
子飼いの竜・ラグーンの背中で、祐介の戦いぶりを観察しながら、エミリアは内心舌打ちをした。
先程から眼下で繰り広げられているのは、戦いというには余りにおこがましい、竜による一方的な暴力行為だった。
「はぁ…はぁ…ちくしょう…届かない…!」
もう何度目かも分からないくらいに吹っ飛ばされた祐介が、ヨロヨロと瓦礫の山から這い出してきた。その格好は最早ボロボロで、既に体力を使い果たしているのが見て取れる。だらんとぶら下がった彼の利き腕である右腕は、脱臼して使い物にならないのだろう。腫れ上がった左の瞼が目を塞いでいて、見ているだけでも痛々しい。あちこちに擦り傷を作り、ところどころ血が滲んでいる。適当に選んだ目の前の勇者候補は、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
「う…うおおおおおお…!!」
祐介が、頼りないか細い鬨の声を上げ、またもやラグーンに向かってきた。彼には学習能力というものがないのだろうか。もうそろそろ、自分と相手との力量の差に気づいてもいいだろう。折れた剣に扱いなれない時止めの能力、何よりそのボロボロの体で、まだラグーンに勝てると思っているのだろうか。
「うおおおお…ぉおおおおわあああああ!!?」
ラグーンが面倒臭そうにしっぽを払った。それだけで祐介は、風圧に押し戻されまたもや瓦礫の山に頭から突っ込んでいった。
(前に喰った奴の方がマシだったなー…)
ピクピクと痙攣する祐介を眺め、エミリアは退屈になって欠伸をした。さっさと諦めればいいものを。私がみたいのは、「自分こそが主人公だ」と勘違いして驕った若者が、無力さを突きつけられ恐怖に歪むその顔なのだ。その点でも前の勇者候補の方は最高だった。
ガラリ、と音を立て、祐介がまたその体を起こした。
「待ってて…! 今助ける…!」
「あー、もういいですよ勇者様!もう、限界でしょう?」
エミリアが竜の背中から叫んだ。あの異世界人は未だにエミリアが竜に捕まったと勘違いしているらしい。その姿は滑稽を通り越して最早哀れだった。
「(…もういいぞラグーン。喰っちまえ。種明かしもめんどくせえ)」
「(分かった)」
エミリアは小声でラグーンに命じた。
「うわああああ!!」
叫び声を上げ性懲りもなく向かってきた祐介に、ラグーンが口を開いて牙を向けた。慌てて「五秒」止めようと、祐介がペンライトをかざす行為も時すでに遅し。二秒後には彼はラグーンの口の中で無残に尖った歯牙に突き刺されていた。
血まみれになったラグーンの口から、切り離された祐介の足がボトリ…と地面に落下した。
「退屈だったなー。次はこんな弱い奴じゃなくて、もっと強い奴を探さなきゃな」
ラグーンの頭に肘を乗せ、ゴロンと寝転がったエミリアは、深くため息をついた。全く、さっきのやつはとんだ外れだった。あんな奴を喰っても、魔力は回復しないだろう。やはり強い魔力を手に入れるには、こんな辺境な世界ではダメだ。
「なぁラグーン。ん…?」
エミリアが、いつもそうするように、ラグーンの頭を撫でようとした。その瞬間。
「な…っ!?」
突然、エミリアのいる竜の頭のその内側から、折れた刃が飛び出してきた。




