岩船方面の戦い 1
羽前国 置賜郡 空巣城
「天堂寺は佐渡に松平清康が四百、蒲原に南條十郎左衛門が千五百の兵で攻め入ったようです」
「ふむ、三年間「佐渡に攻め込む」という噂を流してから佐渡に見せかけの軍勢を送り、油断した蒲原にほぼ全兵力で攻め込む、か。天堂寺義重は中々の知恵者のようだな」
羽前置賜十八万石の大名 黒野義秀は報告を聞き、隣国の大名の評価を上方修正する。
「岩船郡に残っている兵力は?」
「三百です」
(三百の兵が全員火縄銃を持っていたら厄介だが…………このチャンスは逃せんな)
義秀は天堂寺が代替わりしてから初めて訪れたチャンスに目が行きすぎて近くにいる脅威を忘れていた。
「皆の者、戦の支度をせよ!これより我々は岩船郡に攻め入る!」
黒野義秀は置賜郡のほぼ全兵力五千で三百の兵が立て籠もる羽前と越後の国境に最も近い城 白銀城に攻め込む。
岩船郡 白銀城
「殿、大変ですぞ!黒野義秀が五千の兵を率いて攻め込んできました!」
十郎左衛門も清康もいない天堂寺家を義重と共に纏めている義重の従兄弟 天堂寺義和が慌てた様子で義重に報告する。
「安心せい、義和。五千の兵で攻めてきたのならば黒野が滅ぶだけじゃ。あちらは本拠を空にしておる。その隙を我らと同盟を結んだ白河が逃すわけがなかろう」
「し、しかし、三百の兵で五千の兵を防げるのでしょうか?」
「その点も問題ない。白銀城には大筒が四門運び込まれておる。総大将に向けて一発撃つだけであちらは迂闊に近寄れまい。そうして時間を稼いで白河に置賜郡を攻め込ませ、焦った黒野軍に残り三発を撃って全軍で襲いかかれば退却するしかあるまい」
「な、なるほど」
義和は納得して去って行く。
羽前国 村山郡 白河城
白河城の奥の部屋で三人の男が酒を飲んでいた。
「まったく、天堂寺のお陰で大儲けですなー」
「左様ですな。火薬も安く買え、上手くいけば置賜郡まで手に入る」
「ガハハハハハハハハ」
羽前村山三十四万石の大名 白河重和は二年前に天堂寺から来た「火薬を安く売るから天堂寺と同盟を結んで欲しい」という手紙に即答で了承していた。
酒を飲み干した一人の男が立ち上がる。
「では、そろそろ置賜郡に攻め込みますかな?」
「そうですな。どれだけの兵で攻め込みましょうか?」
「七千にしておきましょう」
「そうですな」
そんな会話をしながら酒盛りしていた三人、白河家の三鬼将は自らの主君のいる部屋を目指す。