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冷やし系少女と雪ん子

尻切れトンボになっていたようです。

不快な思いをした方、申し訳ありません。

修正いたしました。

「ねっ君、やっと浴衣姿見せてくれたのね」


 そう言ってお茶菓子のカステラに手をのばすのは、3年の茶道部部長、神振(かみふり)梨亜(りあ)先輩。

 彼女は高身長かつグラマラスで茶髪美人、ちょっときつめに見られがちなお姉さんだが、実はとても面倒見が良く、少々危なっかしい所もあるため女王というよりは支えてあげたくなるタイプというのが茶道部員の暗黙の了解である。


「やっと?夏の浴衣茶会の時に浴衣着ていますけど?」

「あれはお茶会に合わせた大人しめの浴衣でしょう?あれはあれで良かったけれど、やはりねっ君の趣味全開の浴衣姿が見たかったのよ」

「お見苦しいものをすみません」

「全然そんな事ないわっ!それに白の浴衣なんてなかなか着られるものではないのよ?派手な上に汚がつくのが気になって敬遠されがちの色なのよ。だから白を迷いなく選んだねっ君は凄いわよ」

「一般的ではないということですか?」

「滅多に見ないわね」

「なんてこった……」


 祭りなんて小さい頃に近所のお祭りに一回、あとは田舎のお祖母様の家の近くの神社でやっていたのに毎年参加してたくらい。

 小さい頃のはよく覚えていないし、お祖母様の所のはみんな大体白装束・・・だったから、白が一般的なんだと思っていたのだけれど、どうやらそうではないらしい。


「まあねっ君だから仕方ないわよ」

「そうね、スミだもんね〜」

「…ボクもみっちゃん先輩に一票です」

「わたくしも右に同じく」

「あたしも同感ね」

「ひどい」


 みっちゃん先輩に続いて他の皆も『俺=普通じゃない』認定をしてくる。

 みっちゃん先輩だけでなく、今日ここにいる他の人も茶道部の中でもかなりアクの強いメンバーなのであまり人のことを言えないと思う……絶対に口に出さないが。一人でもそうだが、特に女性が三人以上集まったら余計なことを話してはいけない上手い聞き役に徹しろ、というのがお祖母様の教えである。

 そんなことを考えていると折土おりつち先輩がニヤニヤしながらこちらを見てきた……嫌な予感がする。


「さてさて……今日は折角だから、スミの持ち物検査でもしましょうかね〜」

「何が折角なのかわかりません」

「まあまあ良いではないか良いではないか」


 茶道部3年、折土(おりつち)美守(みもり)先輩。


 短く切った黒髪に黒眼鏡の才女で、学校ではりあちゃん先輩に並ぶ美少女であり、服装から何から何まで校則違反は絶対にしないまさに委員長キャラ。ただし、それは外見のみで……眼鏡は伊達だし、校則違反をしないと言っても、重箱の隅をつつくようにギリギリを見極めたグレーゾーンの違反はしょっちゅうである。


「その合切袋ちょっと貸してミソ」

「嫌です」


 いくら先輩が美少女であろうと騙されない。


「ちょっとでいいから〜、ね!?」

「絶対に嫌です」

「お願い!ほんのちょびっとの間だけ!」

「断固拒否します」

「お〜ね〜が〜い☆」

「猫撫で声で言っても無駄です」

「どうしても……だめ?」

「………駄目です」


 見た目は黒髪眼鏡の美少女の上目遣いは反則だと思う。だが耐えた。俺は屈しないぞ!


「……ちぇっしょうがないなぁ〜」


 断固とした俺の態度に折土先輩はようやく諦めてくれたようだ。いつもはここから必殺の泣き落としが来るのだが今日はそこまでしないようだ。良かった。


「……ふう」

「紀子」

「…隙ありです、ネツ先輩」

「っっしまった!」


 俺が気を抜いた隙を突いて折土先輩が短く名前を呼び、彼女の横にいた小柄な少女が瞬時に間合いを詰め、俺の手から素早く合切袋を奪い去った。そして恭しく折土先輩に献上している。


「…美守姉様どうぞ」

「よしよし、紀子は偉いなぁ」

「…有り難き幸せ」

「くそ、油断した」


 只今の窃盗犯にして折土先輩の忠実なる右腕が茶道部1年、記留(きとめ)紀子(のりこ)である。

 折土先輩とは従姉妹同士でご覧の通り先輩のことを女神のように崇h……じゃなくて姉のように慕っている。

 先ほどの撮影会では混乱に乗じてかなり際どいショットを撮ろうとしていたなかなか油断のならない少女である。


「うふふ…さてさて〜?スミの持ち物をミモリンがちぇっくシちゃうゾ☆」


 ご丁寧にウィンクまでしてくれた。

 うざい。うざすぎる。折土先輩は人を茶化したりイライラさせることにかけては一流だな。顔が可愛いから尚更ウザい。もちろん絶対に口に出さないが。


「ねっ君の持ち物!?わたしも気になるわ」

「でしょでしょ〜?」

「…ボクも見たいです美守姉様」

「わ、わたくしも少々気になります」

「じゃあ、あたしも一緒に見ます」


 そう言ってわらわらと女子達が俺の合切袋を持った折土先輩のもとに集まる。


「……特に面白い物は入ってないぞ」


 なにも変な物は入っていない……はず…多分多分23歳。





「第3回!ドキ☆ドキ!?スミの持ち物検査〜ドンドンまふまふ〜」


 わーっ、と折土先輩のタイトルコールに続いて拍手が起こる。色々突っ込み所の多いタイトルだな。


「それを言うならドンドンぱふぱふ、じゃないんですか?」

「細かいことを気にしていると男が廃るゾ☆」

「はあ……じゃあ第3回とかいきなり数字が飛んでいるのも気にしないことにします」

「あ、それは間違ってないYO〜?スミの持ち物検査をやるのはこれで3回目ダカラ☆」

「は?」

「まあ前回と前々回はスミ抜きでやったから知らないのもしょうがないんだけど〜」

「はあっ!?い、いつのことですかそれは!」

「スミが新歓のお点前やってる時に水屋にいた部員皆と。あとは〜靖国の時にスミが挨拶まわりしている時にその辺にいた娘達を集めてやったゾ☆なかなか盛り上がったんだYO?」

「なっ……」

「まあまあ細かいことを気にしていると男が廃るゾ☆」


 次からは荷物を目の届く所から離さないようにしようと誓った。




 さて俺の合切袋(タテ25×ヨコ18くらい)は黒地に黒い漆で龍の模様があしらわれていて、一見すると地味だがよく見ると派手な柄、というこだわりの逸品である。

 だが大きさを示したように、それほど大きくないため、今回持ってきたものは少ない。


「どれどれ〜?おおっ、まずは財布だァ!がま口というのがなんとも憎いゾ☆」

「ねっ君のがま口は蜻蛉とんぼの柄かしら。なかなか可愛らしいわね」

「…和で統一、75点」

「これががま口というものですか……どうやって開けるのでしょう?」

「いくら入っているのか気になるわね」


 三者三様もとい五者五様の感想を頂いた。

 楽しそうだな。たかだか、財布一つだぞ……


「ねっ、スミ☆スミ!中身見ていいかナ?」

「びた一文抜き取らないならいいですよ」

「んもう、信用ないな〜、それじゃあ許可も出たことだし☆お財布の金額ちぇぇ〜っく!レッツオープン!」




「「「「「おおぉ〜………お?」」」」」

「ん?」

「みっ君」

「……なんでしょう?何か変な物が入っていましたか?」


 りあちゃん先輩はがま口から出した小箱を掲げた。


「これ、裁縫セットよね?」

「……確かにがま口に入れておきましたが何か変でした?」

「何に使うつもりなのかしら?」

「くらげちゃんの浴衣が解ほつれたりした時に修理するためです」

「「「「「…………」」」」」


 俺が答えると、なぜか沈黙する一同。


「なんで皆黙るの?」

「き、気を取り直して次いくヨ〜」

「「「「お〜」」」」

「??」


 結局なんで皆が黙ったのか分からずじまいだった。


「さてさてお次は〜こちら!これは……充電器カナ?」

「いえ、これは護身用のスタンガンですわね」

「「「「……え」」」」

「カゲロウ様、これを入れたのは何故でしょうか?」

「あ〜それはくらげちゃんに害を及ぼす不貞の輩が現れた時のための撃退グッズだな」

「あら、確かに夏のお祭りは失礼な殿方が増えますから、必要かもしれませんわね。わたくしの場合はハクアがみな撃退するので大丈夫ですが」



 茶道部1年、都裏(みやこうら)飛鳥(あすか)

 西洋人のクォーターで、彫りの深い派手な顔立ち、きりりとした眉毛、つり目に鋭い眼光、地毛は茶髪の縦ロール、貴族のような言葉遣い。

 容姿は十分に美少女のカテゴリーに入るのだが、なんというか見た目が悪役令嬢そのままなので、可愛いのに初対面の人間には必ずと言っていいほど怖がられ、本人はそれがコンプレックスらしい。


「撃退グッズなら、都裏グループの技術開発部が新作をテストしたいと言っていたので、カゲロウ様にご協力をお願いしたいのですが」

「それは構わないけどいいの?」

「はい。この間もとても参考になるご意見を伺えたと喜んでおりました。今度の新作も是非カゲロウ様にモニタリングをお願いしたいとのことでした」

「そうか。じゃあ喜んで協力させてもらう」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

「……もういい〜?そろそろ先に進みたいんだけど〜」

「折土先輩、ちょい素に戻ってます」

「やばっタイヘンッ、ミモリンうっかりしていたゾ☆」

「無理に戻さなくていいです」

「スミ☆スミったらおかしなこと言うんだね〜?ミモリンはこれが平常運転だゾ☆」

「はいはい」

「うう…スミ☆スミが冷たい!けど、次どんどん行くYO!」

「「「「お〜」」」」

「お次はコチラッ!これは……絆創膏かぁ〜、なんか拍子抜けだナ☆」

「無茶言わないで下さい……」

「他は鍵とかぁ……面白くなぁ〜い。あっ!アレがないよスミ☆スミ!」

「あれとは?」

「アレだよア・レ☆男の子の必需品でしょォ〜」

「わからないです」

「教えてほしいぃ〜?」


 また折土先輩がニヤニヤしている。これは聞かないのが吉だろうな。


「結構です」

「まあまあそんなこと言わないでさぁ〜」

「絶対に聞きたく…」

「彼女持ちの男の子の必需品と言ったらゴムに決まってんじゃん!!」


 食い気味に折土先輩はとんでもない爆弾発言をかました。


「な……」

「「「ちょ//////」」」

「?」

「水月ちゃんのことを大切に思ってるならぁ〜ちゃんと常備してないとだめだゾ☆」

「ミモリ様……ゴムとはなんでしょう?輪ゴムのことでしょうか?」

「んん〜?アスカきゅんは知らないのかナ〜?それじゃあ、おネーサンが教えてあげるゾ☆!ゴムっていうのはね……」

「ストップです折土先輩!!!!」

「!?ムガムニャムー!!!」


  純粋なお嬢様の脳内汚染をすんでのところで止めたのは、同級生の高田だ。

 口を塞がれた折土先輩はジタバタ暴れたが、素早く反応した他の2人にも手や足を抑え込まれて身動きが取れないようだ。


「なんだったのでしょう?」

「飛鳥は知らなくていいのよ」

「でも気になりますわ」

「今度機会があればきちんと話すから」

「そうですか…では宜しくお願い致しますわ、トウリ様」


 お嬢様の性教育も、高田に任せておけば安心だな。

 折土先輩は色んな意味でいらんことまで教えそうだし。

 ピュアな都裏を守るためにもここは高田に任せるべきだ。




 茶道部2年、高田(たかた)(とうり)

 俺と同じクラスの委員長で、肩まで伸ばした髪を金髪に染めた、一見ギャルのような見た目の派手な女子だが、真面目で優しい性格のクラスの人気者であるが、人使いが荒く、使える人間はとことん使い、馬車馬のように働かせようとするので、少々苦手。


 それにしても、なぜこんなに見た目と中身が一致しない系女子が俺の周りに多いのだろうか。

 普通の女の子はいないのだろうか……


「先輩、そんなものは幻想です」

「おわっっ!!!ってくらげちゃんか……頼むから背後から気配を消して脅かすのはやめてくれよ」

「可愛い彼女の存在を可愛い女の子達と乳繰り合って忘れている先輩が悪いのです」

「可愛い彼女は置いておくにせよ、乳繰り合っているというのは酷い誤解だ言いがかりだ」

「そうですか……時に先輩、なんで後ろを振り向かないのですか?」

「心の準備」

「心の準備?」

「くらげちゃんを見て理性を飛ばさないようにする準備」

「先輩は発情期のオオカミさんなのですか、不快です不潔です気持ち悪いので一生振り向かないで下さい」

「軽いジョークだ。くらげちゃん」

「つまり私の姿を見てもなんの情動も湧かないと?失礼ですね傷つきました絶好してください」

「ああ言えばこう言う……」

「ふふふ……先輩を虐め…からかうのは楽しいです」

「今不穏な声が聞こえた気がするが」

「空耳でしょう」

「振り返ってもいいか?」

「ばっちこいです」

「どれどれ……!!!!」


 そんないつも通りのやりとりの後、俺は背後にいるであろう水月を見るべく振り返った。

 その姿を視界に入れた途端絶句した。

 律詩じゃなくてZEKKUした。

 そこにいたのは紛れもない天使だった。


 白い雪の結晶があしらわれた藍色の生地に薄い水色の帯を締めたその姿はお人形さんのようで非常に愛らしい。

 結い上げた髪を白い花の簪かんざしで留め、雪原のような白い首筋が際立っている。


「どうでしょう先輩?」

「……」

「先輩?」

「……」

「もしもし?」

「……」

「もしもし消防署ですか?救急車の手配を……」

「ちょっと待て!」

「あ、戻ってきた。可愛い彼女が感想を求めているんですから褒め言葉の百や二百は言って下さい」

「流石にそこまでは言えない」

「この甲斐性なし」

「意味が違うからな!!っとそうじゃなくて…あ〜、なんというか…その……」

「煮え切りませんね。男ならズバッと行きましょう」

「男らしすぎる。そうだな……なんというか似合い過ぎてて絶句した」

「なんもいえねぇー、ですね」

「まあ、そういうこと」

「それから?」

「雪ん子みたいで可愛いぞ」

「!!」

「はあ〜、雪ん子とか……熱墨さ〜もう少し言い方があるでしょう?」


 高田が呆れたように言った。


「でも、ミツキ様は満更でもないようですわよ?」

「え?流石にあの言い方は……!!」


 そう、水月は照れていた。

 白い肌をピンクに染めて、普段は無表情で引き結んだ口元をぴくぴくさせてにやけそうになるのを必死に抑えていた。

 ……めちゃくちゃ可愛い。もっと水月が恥ずかしがる顔が見たい


「ここは和室だし、随分可愛い座敷童がいるなぁ〜と思ったくらいだよ。可愛いかったよくらげちゃん」

「………」

「「「「「うわぁ〜」」」」」


 外野はドン引きしているようだが関係ない。

 水月にどんな言葉をかければ一番喜ぶか分かっているのは俺だ。

 事実、顔をさらに朱色に染めた水月は俺に背を向けてぷるぷる震えてる。

 ……可愛すぎて後ろから思い切り抱きしめたい衝動に駆られるが、他の人の目もあるのでぐっと我慢する。

 しばらくぷるぷる震えていた水月は、ふーと大きく息を吐くと、こちらに向き直った。

 いつもの無表情だ。


「今日の先輩はずるいです不意打ちです」

「そうか」

「……ですがすごく嬉しかったのもまた事実なので今日はこの格好でデートしてあげます」

「それは嬉しいな」

「泣いて喜んで叫んでもいいんですよ?」

「うるさくしそうだから今は遠慮しておく」

「では後ほど泣いて叫んでくれるのでしょうか?」

「善処する」

「ではお祭りの時間が無くなる前に出発しましょうか」

「そうだな」












「私たちなんだったのかしら」

「見せつけてくれるよねぇ〜」

「…添え物」

「ミツキ様可愛かったですわ!」

「ご馳走様でした」


 残された茶道部員たちは水月の家で美味しい夕ご飯をいただいて満足して帰ったという。
















「そういえばくらげちゃん、浴衣ファッションショーは?」

「脱ぎ着が面倒だったので取りやめです」

「さいですか」




 


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