冷やし系少女と写真撮影
「次こっち向いて!」
パシャ
「今度は腕を組んで斜に構えて!そうそういい感じ!!」
パシャパシャ
「次は後ろ向いて『見返り美人図』みたいな感じで!あ、合切袋は右手に持ってね」
パシャパシャパシャ
「最後は眼鏡を外してこっちを睨んで!!」
「「「「「「キャーーー!!!」」」」」」
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!!!!
…………どうしてこうなった。
20分ほど前のこと。
るんるん気分で鼻歌を歌い、カランコロンと軽やかなステップで水月の家に到着。
インターホンをポチッと押して、「はーい、涼白でーす」と水月のお姉さんが出たまでは良かった。
名前と来意を告げた途端、何故かインターホンの向こうが騒がしくなり、門の前で10分ほど待つように言われた。
10分後「入っていいよー」という間の抜けた声とともに水月の家の門が解錠された。
ここで少し補足しておきたいのは、水月の家がそれなりに広いということである。
「それなりに」は過小評価だ。水月の家はものすごく大きい。大豪邸である。
なんでも江戸時代より前から存在していた武家屋敷が時代とともに様々な人の手に渡り、改築に改築を重ね、明治に入り、それを気に入ったとある貴族が購入。武家屋敷の面影はそのままに、潤沢な資金力で全体を住みやすく大改造。その貴族の孫娘が水月の曾お婆さんに当たるらしい。
そんなどうでもいい設定はさておき、門をくぐって庭を抜け、飛び石に従って屋敷の玄関までたどり着いて玄関の引き戸を開けた俺を襲ったのは可愛い浴衣姿の水月でも、合法ロリな水月のお姉さんでもなく、視界を白く染める光の奔流だった。
カメラのシャッターが謝罪会見のようにひっきりなしに切られ、突然のことに頭が真っ白になってその場に立ち尽くしてしまった。
「キャーーーー念願の浴衣よ!」
「白地に黒墨の昇り竜!!さすがのセンスね!!」
「何枚撮ればいいのかしら?」
「メモリ一杯に決まっているでしょう?あればあるだけ売れるんだから!!」
「ねえ三脚!誰か三脚持ってきてない!?」
「ひーくんこっち向いて。まぶしくても目をしっかり開けてね?」
「先輩呆けていないで、下駄脱いで上がってください」
訳が分からないまま、玄関から廊下、廊下から客間へと俺はされるがままに連れられて、ポーズを取らされ表情をつくった。
そして冒頭に時間は戻る。
「どういうことなのか説明してくれ」
客間のソファに座り、向かいに座る7人の少女、もとい6人の少女と1人の幼女に向かって問いかける。
「ちょっとひーくん?幼女ってなにー?わたしちっちゃくないよっお姉ちゃん今年ではたちだもん!」
そう言ってぷくーっと頬を膨らませるのは、今年で20歳なのに身長138cmの合法ロリ、水月のお姉さんこと如月さんである。
「如月姉さんはお子様でしょう?今だにファミレスに行くとお子様ランチを頼むじゃないですか」
「だってだってはんばーぐとナポリタンがあるんだよ?他にもタコさんウィンナーとか好きな食べものがいっぱいあるんだもん!それが一皿で食べられるんだよ?頼まないという選択肢はないよっ」
「お子様ランチを頼めるのは12歳までですよ?それを頼む如月姉さんは子供です」
「むううううーー…うう……水月ぃー、ひーくんがいぢめるよぉー」
ブワッと目に涙を溜めた如月姉さんが横にいた水月に抱きついた。打たれ弱すぎ。
水月は飛びついてきた如月姉さんを受け止めて、よしよしと頭を撫でる。
姉が妹に抱きつく、という構図のはずだが、幼い妹が姉に慰めてもらっているようにしか見えない。
「安心して下さい。水月はお姉ちゃんの味方ですよ」
「水月ぃー……わたし大人だよね?お子様なんかじゃないよね?」
「お姉ちゃんは大人です。好きな食べものは甘口カレーとハンバーグという子供舌、夜の9時には眠くなって、寝る時にはくまさんが手放せない幼稚園児みたいな大人です」
「そうそうわたしは子供舌ですぐに眠くなる幼稚園児みたいな大人…?……ふぇえぇん!おかーさーん!水月がお姉ちゃんをいぢめるよぉー」
上げてから思い切り堕とされた二十歳の幼女は泣きながら客間から走って出て行った。
「言い過ぎだろ。如月姉さん泣いちゃったじゃないか」
「先輩が始めたことに私は乗っかっただけです」
「そ、それは置いといてだ……この茶番はなんだ?」
「逃げましたね?まあいいですが。実は前々よりここにいらっしゃる神振先輩と折土先輩、記留さん、都裏さん、高田先輩が先輩の浴衣姿を見たいと強く希望していまして、先輩の浴衣姿を独り占めするのは些か心苦しかったので、このような場を儲けさせて、失礼、設けさせて頂きました」
「?…何か今の言い方不自然じゃなかったか?」
「何も問題ないです」
「……そうか。それでこのメンバーがいるわけだな?全員茶道部だから何があったのかと思ったよ。その……なんだ、俺なんかの浴衣姿を見たいというのは、冥利に尽きるというかなんというかありがたいお話だな。理解はできないが」
「先輩はもう少し色々と自覚すべきです」
「自分のことくらいは把握しているつもりだが?」
「……はあ」
水月の目の光が消え、心底呆れたような顔をされた。解せぬ。
「茶道部の面子がここにいる理由は分かった。だがなぜ水月は普段着なんだ?」
そう、今日水月が来ているのは浴衣ではなく部屋着だった。精緻な刺繍があしらわれた白いワンピース姿で、ほっそりした体型と無表情だがとても整った顔立ちである水月が着ると非常に愛らしく、これはこれで素晴らしいのだが、今日は浴衣姿の水月を見たいのだ。
「約束ですからこれから浴衣を着るつもりですが、先輩の好みがまだいまいち掴めていないので、今から色々着てみて先輩に選んで頂こうかと」
むむ……つまり水月の浴衣ファッションショーを見れる訳かマーベラス。期待が高まりますな。
「そういうわけで私は準備をしてきますので、その間他のみなさんとゆっくり歓談でもしていて下さい」
そう言って水月は客間の襖を開けて部屋を後にした。
今回もまた引っ張ってしまった……次……の次こそは。