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冷やし系少女と中間テストの不安

お待たせいたしました。今日も短めです。


前回までのあらすじ


新学期になり、文化祭の準備に取り掛かり始めた。学園の暗部の話を聞いたりいつの間にか水月が知らない女子生徒に入れ替わっていたりその女子生徒に逃げられたり……そしていよいよ文化祭に向けた最初の会議が!?

 会議のため、書類を取りに部室へ寄ると、水月が片足立ちで手をゆらゆら揺らしながらふらふら部屋中を動きまわっていた。ここにいたのか。


「ふわふわり〜ぷかぷかり〜はい、先輩」


 ピタッと動きを止めて俺を指差す水月。


「なに?」

「私の名前を呼ぶんです」

「はあ?……くらげちゃん」

「……もう一度」

「くらげちゃん」

「………………………」

「あれ?」

「…………………」

「くらげちゃん?」


 返事がない。ただのくらげのようだ。


「…………」

「もしもーし?くらげちゃ〜ん」

「だめですね。全くふわふわした気持ちになりません」

「意味がわからないんだけど?」

「先日、記留さんに『あにそん』なるもののデータをお借りして視聴した曲の歌詞にあったのです」

「ほう」


 あの忍者少女ね。俺も『らいとのべる』とかいうのを勧められたな。時間がなくてまだ読めてないけど。


「なんだかふわふわ言った後に『貴方が名前を呼ぶ、それだけで宙へ浮かぶ』らしくて」

「ふむふむ」

「彼氏であるところの先輩にふわふわしてから名前を呼ばれたら本当に宙に浮かぶのかを検証しようと思ったわけなのです」

「物理的に?」


 空中にゆらゆら浮かぶ水月を想像した。何それ可愛い。


「この場合は精神的にですね。ですが、全く心が沸き立ちません。明鏡止水まっしぐらです。謝罪を要求します」

「意味がわからないな」

「名前を呼ぶだけで私をふわふわぽわぽわな気持ちにさせられない先輩は圧倒的に恋人力が足りないと思います」

「んな無茶な」


 そして恋人力ってなんだ。


「もう一度お願いします」

「くらげちゃん」

「…………屑」


 ゴミを見るような目で吐き捨てるように言われた。


「なんだよっ、いくらなんでも理不尽過ぎるぞ!あとなんだよ恋人力って!?」

「さえずらないでください鬱陶しい」


 にべもなく切り捨てられた。


「ひどい!くらげちゃんがひどい!恋人なのに!俺は彼氏なのにっ」

「……ふう。全く、今回だけですよ?」

「なんで俺が悪いことした体になってるの!?そもそも歌詞は『貴方が名前を呼ぶ、それだけで宙へ浮かぶ』なんだろ?つまりは何気ないただの呼びかけが心を天に運ぶってことでしょう!?呼ぶ側関係ないじゃん!呼ばれる側の問題じゃん!」

「ち……気づいてしまいましたか」

「ひどいよぉ〜今日はくらげちゃんが一段とヒドイ。もうぼくおうちかえる」

「だめです。今日は文化祭前の大事な会議ですから」

「いーやーだぁーかえるのぉー」

「引きずってでも連れて行きますので」

「いやぁあああ〜」


 今日も俺の彼女が冷たくてひどい。





(:]ミ(:]彡(:]ミ(:]彡(:]ミ(:]彡(:]ミ





「それでは茶道部文化祭出し物会議を始めま〜す」

「イエイ☆」


 司会進行は見た目ドSの癒し系こと神振先輩と、外面優等生だが本性は問題児な折土先輩である。


「さてさて〜文化祭があと一ヶ月と近づいてきましたが、今年も当然コンテストはあるわけで……」


 このゆるい感じの癒し系が神振先輩。


「賞を取るためにどんな出し物がいいのかみんなに意見を出してもらうYO☆」


 このノリの軽いアイドルみたいなのが折土先輩。

 この口調は茶道部内限定である。普段はです・ます調の敬語。先輩のクラスで会った時は誰だか一瞬分からなかったな。


「一応ねっ君に仮の案を元に場所取りをしてもらったんだけど、なんと今回は!ねっ君の頑張りで中央通りの芝生の広場を取ることができましたぁ〜」

「拍手だゾ☆」


 折土先輩の言葉でわっと拍手が起こる。慕われてるなぁ。

 そうそう。今回は早めに企画を練って提出したので、なかなか良い場所が取れた。

 目立つ位置にある上に他の野外の屋台を設置する場所からはある程度の距離があるから、あまりうるさくないしお茶会やるにはぴったりの場所なのだ。

 今年は外で色づき始めた紅葉を見ながらのお茶会を出来ればと思っている。


野点(のだて)よ野点!お外で優雅にお茶会できるわよ!さすがねっ君惚れ直した!」

「雨天だとアウトですけどね」

「んもう〜ねっ君は始まってもいないのにネガティブ禁止!!」

「はいはいすいません」

「…ネツ先輩は安定のフラグ折り職人ですね」


 記留がなんか言っているがよく分からん。 ふらぐ?旗のことだろうか。つまりは旗を折る職人……ってなに?(はた)る職人なら分かるんだが。


「…ネツ先輩、秋葉原といえば?」

「山手線と中央総武線が通る電気の街だろう?」

「…じじくさ」

「ひでえ。記留といいくらげちゃんといいなんで俺を老人扱いするかね?今をときめく男子高校生だというのにな」

「…(笑)」

「その顔はなんだ」

「…馬鹿を見る顔」

「よし、今月末の中間は助けてやらん」

「…ネツ先輩イケメン。色男。優しくて頼り甲斐があるインテリ」

「以後気をつけたまえ」

「…御意」


 少し脅すと大人しくなった。褒められて嬉しくなったから許したわけではないぞ。


「あの〜熱墨先輩、私も中間の勉強をお願いしたいのですが」


 右隣にいる一人の茶道部員、一年の山泣(やまなき)がお願いしてきた。どうしようか。まあ、教えるのに一人も二人も変わらないしな。

 

「構わないよ」

「ほ、本当ですか!?」

「お、おう」


 物凄い勢いで詰め寄ってくるので少々たじろいだ。なぜこんなに喜ぶのだろう。中間が不安だったのかな。


「え……山泣さん抜け駆け」

「で、でも今なら…」

「熱墨先輩に教えてもらえるチャンス」

「もしかしたら和服で優しく……」

「和服姿のカゲ様が手を伸ばした時に袖が垂れてそれを手で持ち上げたり…萌え」

「いつ行く?」

「「「「今でしょ!」」」」」


 何やらこそこそと山泣の横の一年の女子部員達が喋っていたかと思えば、そのうちの一人、雉下(きじもと)がこちらに来た。


「カゲさ……熱墨先輩。私達も中間テストが不安なので教えていただけないでしょうか」

「それは、雉下だけ?それとも他の女の子達も?」

「わ、私の名前を覚えてくださったのですか!?」

「え……あ、いや。鳴いて撃つと書いて、雉下鳴撃(なげき)だよな?茶道部員の名前くらいは覚えているよ」

「感激ですっ!!」


 なんか名前を覚えていただけなのに雉下の笑顔が眩しい。俺はそんなに出来た人間じゃないぞ。


「そ、そうか。それは何よりだ。それより人数を聞きたいんだが」

「あっ、す、すみません!ええと…私と世兎(せと)さん、湯々本(ゆゆもと)さん、時流(ときながれ)さん、布枕(ぬのまくら)さん、未続(みつづき)さんの六人なんですが……」

「了解。それくらいなら大丈夫だ。問題はどこでいつやるかだが……」

「…ネツ先輩。我が家に招待」

「記留の家か、いいのか?」

「…言い出しっぺ。十人くらい問題ない」

「分かった。じゃあ今週末に記留の家で勉強会をやろう」

「「「「「「「やった!」」」」」」」


 というわけで、急遽勉強会が決まった。皆相当喜んでいるようだ。きっと次の中間がすごく不安だったんだろう。文化祭の準備と並行するのは大変だしな。

 後輩のテストへの不安を少しでも解消出来るなら、勉強を教えるくらいはお安い御用である。


「…ネツ先輩一級フラグ建築士」

「ん?どういう意味だ?」

「…これ以上は水月に怒られるから黙秘」

「水月?水月がどうして……」


 そこで背後から強烈な殺気を感じて俺は絶句した。


「先輩?」


 透き通るように綺麗な声に絶対零度の冷たさを感じた。恐ろしくて振り向けない。


「先輩?こちらを向いていただけますか?」

「は、はい……」


 振り向いた先にいたのはもちろん水月だ。

 その顔はいつものごとく無表情だが、なぜだろう。水月の背後に日本刀を持った般若が見える。相当お冠のようだ。


「先輩。後輩のテストの心配をする心意気は非常に立派だと思います」

「あ、ありがとうございます」

「ですが。重要な会議の途中に騒ぐというのはどういう了見なのでしょう?」

「い、いやこれは記留が……」


 そう言って記留の方を見れば、とても綺麗な姿勢で前を向き、熱心に会議に参加する姿勢を見せている。


「先輩?」

「あ、そうじゃなくて、山泣や雉下達もだな……」


 隣の山泣もその横の雉下達も、いつの間にか自分の席に戻ってきちんと会議に参加している。う、裏切りだ!


「先輩」

「ひゃ、ひゃいっ」

「少し外でお話ししましょうね?」


 その後どこかの廊下で正座し、後輩に怒られる男子高校生の姿があったとかなかったとか。


 




2/19名前修正


雉下歌織→雉下鳴撃

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