冷やし系少女は今日もヒヤッと背後から
夏だな暑いな涼しいお話が読みたいと思って書いてみました。
一応日常モノのつもりなので事件とかハラハラドキドキする展開は少ないと思います。
勢いとノリで書いたので裏設定とかないです。
なので左団扇で気軽に楽しんで貰えれば嬉しいです。
カツーン、カツーン、カツーン………
時刻は午後五時半。
いよいよ夏本番というこの季節だが、昨今の節電推奨の影響で電灯が最低限しかつけられていないこともあり、放課後の学校の廊下は薄暗かった。
室内系の部活はあらかた活動を終えて下校しているため、時折グラウンドからかけ声が遠くから聞こえてくる以外は他に物音は聞こえない。校舎内には自分の上履きの音だけが孤独に響き渡っていた。
「はあ〜、やっと終わった」
今日提出するはずの数学の課題を忘れてしまって、放課後提出するために代わりのノートに解いていたら、思いのほか遅くなってしまった。
課題はそれなりの量があったので、数学担当の教師は明日でもいいと言ってくれた。だが、今日中に提出しないと内申に響くかもしれないし、何より提出せずに帰るのは何となく気持ちが落ち着かないので、放課後居残って課題を仕上げることにしたのだ。
カツーン、カツーン、カツーン………
人っ子一人いない薄暗い学校の廊下はどことなく不気味な空気が漂っている。トイレの前の鏡や無人の教室、廊下の角など、誰もいないと分かっていても、何か出てくるんじゃないかと考えてしまう。些細な物音にもつい過敏に反応し、見なければいいのについつい鏡や教室の中に目が行ってしまう。
ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン
「うおっ」
右太ももに突然感じた振動。無駄に神経を尖らせていたせいで驚いてビクッとなってしまう。だがなんてことはなかった。振動の正体はただの携帯の着信を知らせるバイブレーションである。
「びっくりしたぁ。誰からだろ」
ちょっと焦ったが、大丈夫。電話に出るため右ポケットから携帯を取り出し、通話ボタンをタップしようと指を走らせた俺は、なんとなく確認した電話の主を見て凍りついた。
『080ー1X3XーXX20』
着信アリ。
なんとかかってきたのは自分の電話番号からだった。
「…………」
金縛りにでもあったかのようにその場から動けない。
「み、見間違いだ」
そう自分に言い聞かせ、再度携帯の画面を確認する。
『080ー1X3XーXX20』
やはり自分の電話番号からで間違いなかった。
「…………」
出るべきか、無視してそのままやり過ごす方が良いのか。
出ない方がいいと思う自分と、怖いもの見たさに通話ボタンをタップしようとする自分が脳内でおしくらまんじゅうをしている。
正直出たくない。本当にあの映画のようになるかもしれないから。
でもあれはあくまで創作物だ、現実に起こるはずがない。でも本当だったら?
しばしの逡巡。
最終的に自分が下した判断は緑色のボタンをタップして、携帯を右耳にあてることだった。
「も、もしもし?」
『ザー…ザー…………ザザザザ……ザー』
電話の向こうから聞こえてきたのはテレビの砂嵐のようなノイズだった。
まるであのホラー映画の再現のような状況に、全身が液体窒素を流し込まれたように凍りつき、そこから一歩動くことも指一本動かすことも出来なくなる。
しばらくその音を聞いていると、ノイズに混ざってかすかに声のようなものが聞こえてきた。
『ザザザ…わ…ザー……し…ザザザザ…い…ザ……んザザ……』
断片的に聞こえていた言葉は徐々にはっきり聞こえてくる。
『ザ……わた…ザー……りー……んよ…ザ…い…ザザザ…なたの…ザー』
どうやら携帯の向こうから聞こえてくるのは若い女の声のようだった。
『ザ…わたし……りーさんよ…ザー…いまー……なたの…ザ…ちかく…ザザザ……るの…ザー』
りーさん、と言ったのだろうか。
『ザ……わたしめりーさん……ザー…いまー………なたの…そば…ザザザザ…にいるの…ザー』
「…………」
めりーさん…………メリーさん。今確かにそう聞こえた。興味本位で読んでしまった都市伝説の本の一節がサッと頭をよぎる。背筋がゾクッと震え、嫌〜な汗がつーっと背中をつたって下に落ちていく。
『わたしメリーさんよ。ザザザ………今あなたのそばの…ザ……教室にいるの』
有名な都市伝説の一つ「メリーさんの電話」。
メリーさんと名乗る少女から立て続けにかかってくる電話。回を重ねるごとに少女が知らせてくる居場所はだんだんと自分に近づいてゆき、そして最後には…………
「わたしメリーさんよ。今あなたの左隣にいるの」
携帯をあてている反対側の耳元から囁くように透き通った少女の声が聞こえた。
「うわあああああ!!!!」
恐怖が限界に達し、叫びながら頭を抱えて床に蹲る。
「あああああああ!!!!」
「先輩」
「来ないでくれぇぇえええ!!!!」
「先輩!私です!」
「まだ死にたくない!最近やっと彼女が出来たんだ!浴衣でデートをするまで俺は死ねない!!」
「ふえっ!?せ、先輩!あ……いや、とにかく落ち着いて下さい。私です。涼白水月です」
「あああぁぁ……え?」
果たしてそこにいたのは
「………くらげちゃん?」
可愛らしいひとりの少女だった。
お読み頂きありがとうございました。
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