~休み時間~
~休み時間~
チャイムが鳴ると一瞬私の視界に入るように委員長が歩いてきて外に出て行った。
教室を出る一瞬だけ委員長が私と目があった。
何とも言えない恐怖が私にはあった。逃げたいと思った。
だが、席にリムトが走ってきた。
「佳ちゃん、ばっちしついて行くからね」
その後ろにはなぜかやる気を出しているみりあもいた。
「それじゃ、行きますか」
そう言って私は時計塔に向かって歩いて行った、
ちゃんと後ろにみりあとリムトが付いてくるのがわかる。
時計塔に向かうときに空が徐々に怪しくなってきているのがわかった。
あれだけ厳しかった日差しが雲で隠れてきている。膝が痛くなってきてもいる。雨になるとどうしてもうまく膝が動かせなくなるし、痛くもある。
頓服で薬をもらっているけれど、あまり薬に頼ることもしたくない。
どうしてか負けた気分になるからだ。でも、あまりにひどいときはそうも言ってられない。
みりあに心配をかけてしまうからだ。だからこっそり見つからないように薬を飲んでいる。
時計塔の入り口に委員長がたっていた。
「遅いわね」
そういうといきなり委員長は歩き出した。時計塔をぐるりとまわるような形で歩くとその先に中庭のようなところがあった。
「こんなところがあったんだ」
ぼそっと声が出た。整理された花壇にベンチ。学校にこんな場所があることを知らなかった。
「いいところでしょう。落ち着くにはいいところだわ」
委員長はそういいながらベンチに座った。確かにあまり人もいない空間。落ち着くにはいい環境だと思う。
だが、空の雲行きが怪しくなってきているからかもしれないが私はまったく落ち着かなかった。いや、理由はわかっている、横にいるのが委員長だからだ。
私はずっと私を見上げている委員長の目線から逃げるようにベンチに座った。横に委員長がいるが私はなぜか目の前の花壇から目が離せなかった。
「で、何を聞きたいの?」
委員長と距離を取るつもりでベンチの端に座ったはずなのに気が付いたらすぐそばににじり寄ってきていた。
逃げ場がない。
ベンチにある肘掛が私の逃げ場をふさいでいた。私はあきらめることにした。そして知りたいことを伝えた。
「今回のことの全部を知りたい。断片的でなくすべてを」
そういった後、委員長は少し上を向いて話し始めた。
*****************************
「茜、聞いた?」
なぜかクラスのみんなは私のところに情報を持ってきたがる。
不思議なものだ。
中学受験をして、気が付いたら委員長という役職についていた。
中学では3年目だ。小学時代からを入れると9年目にもなる。
向いているのか、向いていないのか私にはわからない。
私は私以外の委員長を知らないからだ。
立候補をしていたわけではない。けれど、周りからも教師からも「委員長は神足」というイメージらしい。
どういうイメージなのか私にはいまだにわからない。
ただ、目力についてはよく言われる。たまに言われるのは「機嫌悪いの?」とか「怒っているの?」とか言われる。
何もなく普通の顔をしているのに言われることが多いのでいわれることで「機嫌がわるく」なることはあるけれど、私はそんなに不機嫌な顔をしているのかしら。
私には何の自覚もないのだけれど。
で、そうそう私のところにやってきた女の子がいた。
彼女は柚木美紀。「き」が二つも名前に会ってフルネームで呼ぶとちょっと面白そうと思いながらできずにいる。
「どうしたの美紀?」
私は心の中で柚木美紀と呼んでみながら美紀に目を向けた。ちなみに、それまで目を向けていたのは小説。小説といっても本じゃない。携帯で読んでいた。書いている人は私と同い年とプロフィールに書いてあった。
なんだかテストで点をとることでなく、こういう誰かに何かを伝える才能こそが学校で得られたらいいのにと思うけれど、実際そんなうまくいくことなんてないのだから仕方がないことだと思っておこうと思った。
ただ、小説に感化されて私も何かを書き始めたのは事実だけれど。
うまくかけていないことだけがわかるのが残念なことだ。
柚木美紀が話しを続けてきた。
「また、あいつの被害者がでたんだよ。ホント、あいつまじで最悪だわ。このままだと学年の女子全員に告白するんじゃないかな」
そうなんだ。私には近寄ってすらこないけれどね、あいつ。
近寄ってきても「何か?」と一言で返すと思うけれど。
「で、今回の被害はだれで、どんな感じなの?」
私は空を見上げながら柚木美紀に聞いた。前は告白してフラれたけれど照れ隠しだと思って付きまとっていた。
話を聞けといって引っ張ったあげく、「やめて」と叫んだ女の子に殴りかかった後、階段から突き落としたのだった。
はじめは手を引っ張るとか暴言レベルだったのに、最近は病院行になることが大半だ。
一体何がそこまで駆り立てるのか知りたいくらいだ。
まぁ、知りたいといってお近づきになったら、気があると思われて付きまとわれ、挙句の果てに逆切れされるという結果が待っている。
柚木美紀が顔を近づけて小声で話してくる。
「それが次は高等部の人らしいのよ。名前は確か喜勢っていったかな。あいつ高等部に書類持って行った時に2年の生徒会長に一目ぼれしたらしく、そして迫った挙句に今度は突き落としたらしいの、屋上から」
「え?」
私は一瞬頭が真っ白になった。高等部の生徒会長、喜勢さんは私が憧れる人だ。
美人で、頭がよくて、誰にも優しい。優しいからあいつの餌食になったなんて考えたくない。
そんな理不尽なことが許されてたまるものか。
「でね、話はまだ続きがあって、その病院に搬送されたけれど意識不明なんだって。でも、学校は大事にしたくないみたいで事故として処理をするみたいよ。そのことはどうも変わらないみたい。それに意識を失う前に生徒会長が言ったみたい」
「なんて?」
「大事にしないように。私の愛した学校を守ってほしい」
私はその言葉を胸にしまった。
彼女の愛した学校は守る。たとえどんなことをしたとしても。
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委員長は空を見上げながらそう話した。
「そう、これが前段階で知っておくべきことよ。それからクラスみんなを巻き込んで更なる被害者をださないようにって話をしたの。特に高等部に上がって、外部生は何も知らないから」
黒い雲がどんどん増えてきた。私はなぜか空を見上げていた。
委員長の話しはわかるけれど、本題が見えない。
まだ、みりあに被害はない。いや、私が知らないだけなのだろうか。委員長がいう。
「天野の被害者は生徒会長だった喜勢先輩だけじゃないの。ほかにも被害者はいるの。一人は願書を持ってきたときに話したことがある女の子。結局この子はうちの高校には入学しなかったってきいたけれど、車道に突き飛ばされそうになったり、襲われそうになったって聞いた。それが原因かわからないけれどうちの高校に入学してこなかったらしいわ。この件は私が止められなかった案件なの。それ以外は未然に防いだわ。どこか天野が旅行にいったときもなにかあったみたい。これも止められなかった案件ね」
なんだかしっくりこない。いや、なんでみんな問題にしてこなかったのだろう。被害を受けているのに加害者に何もしない。
「なんで天野に対して誰も訴えでないんだ?」
私は素朴な疑問をぶつけた。そこまでエスカレートしているのならばストーカーなんてものじゃない。立派な犯罪だ。なのに被害者が泣き寝入りするのはおかしい。それとも何か背景があるのだろうか?
私はそう思った。だが、委員長はこういった。
「喜勢さんの事件ともう一つくらいなの。大きな事件になったのは。でも、喜勢さんの件は喜勢さん自身が訴えてない。ひょっとしたらもう示談がすんでいるのかもしれない。もう一つの件も被害者が訴えてないの。だから」
答えになっていないと思った。意識不明の重体になっているのに親が何もしない。そういう家族もあるのかもしれない。私はこのまま話していてもらちが明かないと思った。
「ところで木田ってこの件に何か関係がある?」
木田の名前を出したのは今朝のメールがあったからかもしれない。いや、今日何度か見ていて思ったあの妙な目つきと残忍な笑い顔があったからかもしれない。
だが、私のなんとなくのセリフに委員長は絶句していた。委員長が話す。
「ええ、そうね、うん。確かに関係しているよ。それがどうかしたの。だって中学時代から天野たちの行動を、そう、みんな見てきていたんだもの」
明らかに動揺しているのがわかった。
ぽつり、ぽつり。
雨が降ってきた。だが、委員長は何も言わず黙っていた。
後ろの窓が大きな音を立てて開いた。
そこに立っていたのは大きな体をした海馬部長だった。
「あ~、盗み聞きするつもりはなかったんだが喜勢の名前が聞こえたから聞いてしまったんだ。だが、お前何をどこまで知っている?そして、かわいい後輩にそんな真実じゃないことをおしえるなよ。そこまで知っているということは今言ったことは事実であっても真実じゃないって知ってるんだろう?」
委員長は海馬部長を見つめると「そうね。副会長だったあなたは知っていますものね」と言って走り出した。
海馬部長が言う。
「ちゃんと話してやるから部室にこい。それとそこにいる二人もだ」
生垣のあたりががさがさと揺れた。そこにはみりあとリムトがいた。
座っていたベンチのすぐ近くに隠れていたのだ。ここまで近くにいたなんてまったく気が付かなかった。みりあがいう。
「もうすぐ授業ですよ」
だが、海馬部長は胸を張ってこういった。
「お前らが授業をさぼったって支障ないだろう。文句がある教師がいたなら来週の実力テストで上位にいけばいい。高坂も3位くらいにはなれよな。そうしたら一つくらいお前のわがままをきいてやる」
リムトの成績はずっと平均点しかとってきていない。
まるで狙っているかのように全科目平均点だ。それが3位なんてどれだけ無茶なことを言っているのだろう。
私はそう思った。リムトはいう。
「じゃあ、もし3位になれたら海馬先輩を小説に書かせてもらいますよ」
海馬部長が言う。
「なら、問題ないな。お前らの次の授業はなんだ?」
みりあがいう。
「次は化学です」
海馬部長が言う。
「なら、好都合だ。ちょっと花音にメールしておくわ。化学の恩田先生にお前らが授業にでないことを伝えるようにって。文句があるなら次の実力テストの結果をみてから言えってね」
言いながら海馬部長は携帯を取り出していた。
「花音先輩はもしかしてずっと部室にいるんですか?」
私はなんだかそんな予感がした。海馬部長はこう言う。
「あたりまえじゃないか。花音が授業に出なくても問題はないからな。あいつもそういうやつだろう」
言ったすぐにメールがくる。私だけじゃない。みりあもリムトも同時に来た。差出人は部活アドレスだった。
「恩田先生に伝え済み」
それだけだった。
一瞬未来から来たメールかと思ったがただの事務連絡。花音先輩はいまだによくわからない人だ。
一度部室をのぞいたらいつも持ち歩いているピンクのウサギに話しかけていた。あのぬいぐるみはいったい何なんだろうと思う。
体育の授業でも背負っているし、プールの授業のときはプールサイドにおいている。
しかもかなりの頻度であらっているのだろうか汚れているときはほとんどない。
パソコンに向かっているときは机と自分の間にぬいぐるみを挟み込んでいる。その時の向きもいつも同じだ。ウサギは花音先輩と同じ向きをむいている。
海馬先輩から聞いたことがある。あのぬいぐるみは花音先輩の友達のものだったらしい。その友達は転校した際にあのぬいぐるみを渡したらしいんだ。けれどその友達は転校先でなくなったらしい。
そのころかららしい。あのぬいぐるみをずっと持ち歩いているのは。そして、もう一つ、その友達の名前が「花音」という名前だったということも。
そのことを知ってからは誰も何も触れない。いや、触れられないのだ。
私が母親のことに触れられないのとおなじようなものだ。いや、両親が私に触れないだけなのかもしれない。どうでもいいことだ。
部室につく。扉をガラガラっとあけるとそこにはパソコンに向かい合っている花音先輩がいた。
何か独り言を言っているのがわかる。多分うまくいっていないのだ。そして、その横には柿崎先輩もいた。珍しいと思った。
この人も科学研究部のしかも副部長だがそこまで熱心に何かをすることなんてなかった。柿崎先輩が言う。
「ホントにこのメールはこのパソコンから送られていないのね」
柿崎先輩の質問にこくりと首を頷くことしか花音先輩はしなかった。
ちょうどそのときにチャイムがなった。6時間目のはじまりだ。だが、誰もこの部室から動くものはいなかった。
確かに授業をまともに聞いていることなんてない。まぁ、ノートは誰かに見せてもらえばいいか。
なんて思っていた。




