~HR~
~HR~
学校につくとすぐにみりあが私の手を引っ張って職員室に連れて行こうとする。
横でリムトも笑顔でついてきている。リムトが言う。
「でも、実際俺が先生に言ったって信じてもらえないだろうな。どちらかというと平凡な成績に目立つ生徒でもない。その点目の前には学年1位と2位の成績優秀者がいる。先生って不思議と優等生の意見はちゃんと聞くんだよな」
リムトだって目立っていないわけじゃない。
確かに成績は狙ったかのように平均。運動は得意な方だが、リムト自身がそこまでやる気になっていないだけだ。実際中学の時に陸上をしていて、大会にも出ていたから運動神経はいいほうだと思う。けれど、これだけはわかる。リムトはもう本気で陸上をすることはないだろう。リムト自身は何も言わないがそれはよくわかる。
中学時代のリムトを知らない人からみたら、成績も平凡で、運動神経も平凡にしか見えない平凡キングに見えるだろう。
けれど、私にもみりあにもできないことをやってのけている。
リムトは確かに背も平均だし、体型も平均。成績も可もなく不可もない。
一見すると平凡の塊だ。
けれど、私からするとリムトは平凡なんかじゃない。私にもみりあにもできない才能がある。
想像するという才能と言ってしまえばそれまでかもしれない。
リムトは携帯小説サイトで小説を書いている。しかもこれがものすごくアクセス数が高い。私も言われて読んだことがあるが引き込まれる文章だった。現国の成績がどれだけ良くてもリムトには勝てないと思った。
テストで点数を取ることと小説を書く事は違う。
正直、なぜリムトが現国の成績が高くないのかがわからない。
ただ、発想力だけはものすごくある。リムトに一度聞いたことがある。いつ小説のネタを思いつくのかを。
そうしたら、こう言われたんだ。
「目の前に小説のネタにしたくなるようなものがいっぱい転がっているんだ。でも、一応聞くよ。小説の題材にしていいかってね。だからあの事も聞いたじゃない。本当に小説にしていいかって」
そう、私とみりあ、そしてあの時に起こったあの出来事。
それをリムトは綺麗に小説にして消化してくれた。正直あの小説のおかげで私もみりあも笑えているのかもしれない。
そういう意味ではリムトがいてくれているのが本当に助かっている。
多分リムトがいなかったら今からでも何かが壊れてしまうのではと思ってしまうほどだ。
「失礼します」
みりあの声で現実に戻された。
こういう時みりあはためらうことはない。いや、みりあは一旦決めたら絶対にやり遂げる。
頑固というか、そういう思いを持って行動している。
みりあに聞いたら「もう、後悔したくないから」と言っていたのを覚えている。
そう思うと私は後悔をしているのかもしれない。
ただ、惰性で勉強をしているだけかもしれない。けれど、どうにかしたいということだけは確かだ。ただ、どうしたらこの現状を変えられるのかがわからない。息が詰まりそうな状況。変えられない現実。まだ、受け止められていない現実。けれど、わがままを言うわけにはいかない。大人にならなきゃ。だって、ここで私がわがままを言ったって何も変わることはない。いや、多分周りが気を使って余計に空気がわるくなるだけだ。だからこそ、「なんともない」と思わせないといけない。でも、そういうものなんじゃないのかな。大人になるって自分の意見を押し殺すことなのかもしれない。
なんて、ちょっと思ってしまった。
ガラガラとドアをあけてみりあは職員室に入っていく。
それに私もリムトもついていく。
みりあは一直線に進んでいった。
「高橋先生、ちょっといいですか?」
みりあは担任である高橋先生のところに行った。
高橋先生はまだ若く30代前半くらいの男性の先生だ。
教えている教科は現国。じつはリムトもこの先生に小説の件は相談したことがあるらしい。
あまり生徒に壁を作らない先生だ。反面頼りないところもある。
「どうした。3人して。珍しいな」
高橋先生は笑顔だけれど、どこか不安を持ちながら私たち3人を見てきた。
みりあが言う。
「実は新城くんの携帯になりすましメールみたいなものが届いて相談したいんです」
みりあがそう言った瞬間に職員室に変な空気が走ったのがわかった。
「そうか、ちょっと場所を変えようか」
高橋先生はそう言って職員室の横にある談話室に私たちを連れて行った。
その途中に職員室から声でひそひそと話す声が聞こえてきた。
「この前のことが落ち着いたと思ったらまたですからね」
一体何があったのだろう。
私は後で裏サイトを確認しようと思った。
自分だけが知らないのがイヤだった。まるで世界に取り残されているみたいだ。
談話室に入ると高橋先生が話してきた。
「なりすましメールだが、新城は誰のメールが届いたんだ?」
なんだかすごい剣幕の高橋先生が私に向かって言ってきた。私はこう答えた。
「自分から自分によくわからないメールが届いただけです」
私がそう言うと高橋先生は更に言ってきた。
「それだけか?他にはないか?例えば送った覚えのないメールが誰かの携帯にメールがいったとか?」
私はそこで思った。
なにすましメールは少し前にもあったみたいだ。それは自分から自分にではなく、自分を装った誰かが誰かに送ったものだったのだろう。
私は横にいる二人を見た。二人とも首を横にふる。
高橋先生が言ってきた。
「そっか、何かあったらまた相談してくれよな。それとその送られてきたメールを見せてくれないか?」
私は携帯を先生に見せた。先生は一瞬固まってこう言った。
「また、木田か。あいつは」
「え?なんですか?」
私はそのちょっとしたつぶやきを聞き逃さなかった。
だが、高橋先生は何もなかったかのようにこう言ってきた。
「とりあえず、私のところにそのメールを転送しておいてほしい。後調査をするまでこのことは誰にも言うなよ。もちろん名前が出ている木田にもな。なら、もう教室に戻れ。もうすぐホームルームだろ」
確かに言われたらもうすぐチャイムがなりそうな時間になっていた。
私たちは慌てて教室に向かった。
私たち3人は同じクラスメイトだ。
どうやらクラスの半分は内部生、もう半分は受験組になるように調整していたのがわかる。
どのクラスも同じクラスなのにわかりやすいように二つのグループに分かれている。
誰もその流れに違和感も持たない。
何人かに挨拶をしたらすぐに高橋先生が来た。
「HRはじめるぞ。今日の欠席は」
そこまで行った時に誰かがこう言った。
「今日も欠席は天野だけですよ」
そう言ったのは木田だった。
木田を見ると笑顔でそう言っていた。すぐに木田の視線が机に戻る。
あの姿勢は確実に携帯で何かをしている。それがわかる。いや、教室の何名も携帯をいじっているのがわかる。
だが、教師は何も言わない。少し前に教師が携帯を取り上げたら誰かの親が学校にやってきてなんだかすごい問題になったのを聞いたことがある。
それ以降教師は生徒が携帯をいじっていても触らないようにしている。
不思議なものだ。教師のほうがどこかビクビクしている。でも、おかげで誰にも文句も言われずに携帯を使えているのだから問題はない。ただ、テストの時くらいだ。
教師が携帯に注意をするのは。授業中はもうどちらかというと無法地帯でしかない。
気がついたら、高橋先生は出欠をとり始めていた。
そういえば、1学期の終わりあたりから天野は学校に来ていない。
今まで気にしたことはなかった。天野は内部生だったからだ。そう思い、1時間目の授業の教科書とノートを取り出しながらノートの間に携帯を置いた。
学校の裏サイトを開く。
名無しばかりで、しかも誰に向けてなのかわからないものも多いから気にしてなかった。
だが、読んでいって一つのことがわかった。
今来ていない天野からこのクラスの内部生徒に一斉にメールが送られたらしい。
どうやら、天野が誰かに告白をしたらしいが、振られたことがわかる。それをMixiに書いたらしい。友達限定で書いたはずなのに、その内容がなぜか一斉送信されたみたいだ。
理由はわからない。そして、その内容の書き込みもない。
だが、それ以降天野に対して「キモ」とか「アリエナイ」などのパッシングが続いている。
天野がメールを送っていないと弁明しているが誰も取り合っていないのがわかる。
だが、そのおかげで天野のIDがわかるようになってしまっているからかなり盛り上がっていた。
天野が過去に書いた内容もまとめられていた。
特定の誰かを叩いている内容は一つだけだった。中間テスト後に全教科満点が出たと盛り上がっていたみたいだ。
こんなことになっていたのか。
私は思った。
だが、思った。
教師は落ち着いたと言っていた。
だが、サイトを見る限り落ち着いているようには見えない。
今日の書き込みですらこう書かれているのだから。
「内部生が外部にちょっかい出してうまくいくわけないだろう。バーカー」
携帯を見ていたら高橋先生がこう言ってきた。
「今日も休んでいる天野だが、急な用で引っ越すことになった。最後に挨拶にこられなくてすみませんと言っていたな。もし、何か伝えたいことがあったら先生に言ってくるように」
その瞬間、一気にコメントが増えた。
「転校キタ━(゜∀゜)━!」
「逃げたぞ」
「2学期はじまっての引越しとかマジありえなくない?」
「おいおい、オマイエらいじめたからだろう」
「うわぁ、まじ引くわ」
「天野、乙」
コメントを見ていてびっくりした。
だが、まだわからない。木田のことだ。
ふと木田に目をやると何か携帯をいじっているのはわかる。しかも笑顔だ。
いや、しかも口元だけがにやりと笑っているだけの笑顔だ。
今まで木田について気にしたことはなかった。それで過去にさかのぼってサイトを見てみた。木田に関することも書かれていた。
まとめると木田は中学までは学年トップの成績だった。
だが、高校になってから学年トップではなかったらしい、そして期末テストでは学年3位らしい。
もちろん、1位と2位は誰だか私にはわかっている。
だが、私は別に1位が取りたいわけじゃない。
100点を取らないと家に居場所がなくなるからだ。
だからこそ、教師がどういう傾向で出題をしてくるのかを考えるようになったんだ。
それが一番100点をとるには手っ取り早いからだ。そうでないと100点は取れない。それにみりあだって別に順位を気にしているわけじゃない。
「高校は別になっても大学で一緒になればいいじゃないか」
私があのことがあった後にいったセリフだ。
だが、実際はみりあも同じ高校に来ている。みりあはそれなのにいつも言う。
「だって、一緒の大学行くって約束したじゃない。だから成績は佳ちゃんにちゃんとくっついて行くからね」
裏サイトになぜかテスト結果も載っていた。
それを見てびっくりした。
私とみりあは中間テストではお互いに全教科満点、期末試験では2点の僅差だった。
だが、3位以下は少し離れている。これだと2位と3位が入れ替わることはない。いや、よく見ると1学期の中間テストで木田は4位だった。
そして、3位は天野だった。
「起立」
委員長の声で我に返った。
気がついたらホームルームは終わっていた。




