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~朝~


無慈悲なまでに照らす太陽。どこからか聞こえるセミの鳴き声。家を出てすぐにシャツが汗ばんでいくのがわかる。夏用のブレザーは薄手であることは間違いない。

だが、この紺色のブレザーと赤いネクタイが確実に体感温度を上げている。

制服をデザインした人に言ってやりたい。夏はもっと涼しいものにしましょうって。

だが、伝える手段を知らないし、例え伝えられたとしても、すでにデザインはすみ、生徒がこの制服を着ているため過去にでも戻らない限りどうすることだってできない。

とりあえず歩くか。歩くのも意識しないとうまく歩けない。

太陽のせいにでもしておこうか。私はそう思って自らの足元を見ながら歩き続けた。


足元を見ているとアスファルトから照り返す熱がさらに追い討ちをかけてくる気がする。

夏休みも終わった9月。夏休みの宿題の提出も終わり、実力テストがやってくる時期でもある。


憂鬱な時期だ。


学校に向かう足が重く感じてしまう。だが、歩かないと事態は悪化するだけだ。

私は出来るだけ日陰を探しながら歩いていた。



夏休みという長い時間。私は気が付けば図書館に行って勉強をするか、友達の家に行っていたかだ。

そう、どういう選択を選んだとしてもクーラーの効いた涼しい部屋にこもっていたことには違いはない。

たまにプールに誘われて行ったくらいだ。市民プールは人が多いので泳ぐというよりかは水に浸かるといった方が正解だったかもしれない。

まぁ、だからこそプールに行ったというのもあるのだが。今の私はもう泳ぐことなんてできないのだから。

できないからと言って困るものでもない。そういう自分を受け入れてしまえばただいいだけだ。


ただ、言えることは夏休みという長い時間を私は出来るだけ家にいないようにしてきた。

自分の部屋に閉じこもっているという選択もできたのかもしれない。

けれど、何かの拍子で母親と顔を合わすのが怖かった。けれど、あまり遠くにも行くこともできない。何かあったらすぐに家に駆けつけないといけないからだ。

離れたいのに離れることもできない。

ジレンマの塊でしかない。一言で表現すると私と家族との関係というのはそういうことだ。

それに、遊んでばかりいられないのも事実だ。

父親との約束で私はテストで100点を取り続けなければならない。

それが、私が家族の一員でいられる証だから。

小学生の時なら簡単に100点はとれたけれど、高校になってからはなかなか100点をとるなんて難しい。

いや、ミスをする自分がいけないのかもしれないが、そうめったに取れる点数でない。

だが、そういうことはうちの親にはわかってもらえない。

私も親を、父親についても母親についてもわかろうとしたことなんてない。

いや、どこかでは理解しているつもりだ。一言で済ませば、「かなしい人たちだ」ということだ。だが、わかったからといってどうすることもできないのもまた事実だ。わかることが解決に繋がるわけではないのだから。

それに、私が存在するということが両親にとって喜ばしいことだけでないのはわかっている。いや、むしろ私が存在していることを喜ばしいなんて思ったことがあるのかさえ疑問をいだくことがある。真実なんてどうでもいいことだ。真実が自分に都合がいいことなんてないのだから。

私が私でいるために。だから、私は父親との約束、母親とのルールを守らないといけない。

それが、私がこの家族でいられる条件なのだから。


また、勉強をするか。


私はただでさえ新学期が始まると気分があがらないのに、朝から意味不明なメールがきて登校中は本当にテンションがあがらなかった。


照り返すアスファルトだけがどうしようもないことを教えてくれる。

逃げたってどうにもならないんだ。いろんなことも、この日差しからも。


本当に午後から天気は下り坂になるのだろうか。まぁ、天気予報なんてそんなものだ。空を見上げると綺麗に晴れた青い空だった。


そういえば、何度か夏休み中に部活のため学校に行ったことがあったのを思い出した。

8月に行ったが今日のほうが暑く、そして億劫に感じる。だが、なぜ8月に合宿があるわけでもないの部活に呼び出されたのかわからなかった。私が所属している部活は「科学研究部」だ。

なんだか名称に惹かれて入部したけれど、活動自体はかなりかわっていた。

なんだかどこかの学会の論文をいつも引っ張り出してきて検証したり、実験をしているがいつも突拍子もないことを作ろうとしている。


どこでもドアやタイムマシーン。


夢物語だ。

けれど、そういう夢物語に力を入れている集団でもある。

私にはそこまでの情熱は注げなかった。

いや、あの時から何に情熱を注いでいいのかわからなくなったのも事実かもしれない。

でも、それは気づかれないようにもしないといけない。そうでないと、まわりが気を使ってしまうだけだから。


だから、部室には顔を出すようにしている。だが、顔を出す程度でそこまでのめり込んでもいなかった。ただ、海外の論文を読むのは楽しかった。

授業では習うことのない考えや思いを読んでいると楽しかったからだ。

自分の知らない世界を知ることができる。それはある意味に楽しいことだ。

知らない世界、知らない価値観に触れる。

今の私にはこういう時が楽しいのかもしれない。


「おはよう」


明るい声で呼び戻された。


「ああ、おはよう」


そこにいたのはショートカットに赤い縁のメガネをした女の子。紺色のブレザーに胸元におおきな赤いリボンがついていた。背も低く、体も細い。夏休み明けなのに肌も白く焼けていない。白い肌もいいものだと思った。

彼女の名は「佐々木 みりあ」幼馴染だ。

小学校から一緒で縁があって同じ高校に行くことになった。

私は公立高校には理由があって受験できず、今の高校に行っているが、みりあは公立に受かったにも関わらず私立を選んだんだった。

みりあの親はすごく反対したがみりあの意思は変わらなかった。

一見のほほんとしているように見える幼馴染だが、一旦決めたら意思は変わらない。

一言で表現するなら頑固なんだ。

風貌とのギャップを感じることはある。いつもゆっくり話して、笑顔でニコニコしているが、どこか鋭い切れ味の日本刀のような感じがする。

それがみりあだ。


「どうしたの、何か浮かない顔しているよ~」


そして、みりあは勘もいい。多分言い訳をいっても納得はしないだろう。

でも、朝のあんなメールのことなんて言いにくい。私はダメ元でこう言ってみた。


「ああ、テスト勉強をしていたからちょっと疲れてね」


みりあの顔はやっぱり納得していない。みりあは私の顔を見ながらこう言ってきた。


「まぁ、佳ちゃんは100点を取らなきゃいけないから大変なのはわかるけれど、でも、それだけじゃないよね。言えないことなの?」


やっぱりだ。

穏やかに話してくるがそれが余計に怖く感じる。でも、本当にその顔は心配しているように見える。

その真っすぐに瞳に私は耐え切れなくなった。


「笑わないって言ってくれるか」


私の声に満面の笑顔のみりあがこう言ってきた。


「うん、笑わないよ」


この笑顔を見ると絶対にみりあには勝てないといつも思う。

私はみりあに携帯を見せた。


「今朝、変なメールが来たんだ。差出人は自分。

 何かのいたずらかと思ったけれど消せなかったんだ。けれど、こんなメールが朝からきたから何かテンションが上がらなくてね」


正直、自分でも何がなんだかわからなかった。けれどみりあは笑うどころかメールを見て真剣な表情になっていった。


「ねで、佳ちゃんはこの『木田崇』って知ってる?」


「いや、知らない。だから気のつけようもない。クラスメイトに『木田』がいるのは知っているが、恨まれるようなことをした記憶もないしな」


みりあはため息をついていた。何か思い当たることがあるらしい。みりあが話してきた。


「佳ちゃんは学校の裏サイトなんかみないよね。まぁ、そうじゃなくても結構『木田』君は有名だよ。うんとね、学校は私たちみたいに受験で入学してきた人と、中学からエスカレーターで上がってきた人いるじゃない。木田くんは内部組みの人なの」


そうか、だから接点がなかったんだ。学校では、どうしても二つに分かれている。内部組みと受験組。

気がついたらそういう風に分かれていた。


「後で裏サイト見てみるよ。たまに見るけれど、知った名があるかしか見ないからな」


確かに存在していることは知っていたがどちらかというと内部組連中が受験組のことを書いたり、教師のことを書いたりなんか見ていて楽しいものじゃなかったから見なくなったんだ。

それに、私のことも書かれているの知っている。

仕方ない、望んでいるわけじゃないけれど、学年トップの成績でいるのだから。

ちなみに、いつも僅差を争っているのが横にいるみりあだ。

みりあも私も多分あのことがなかったらこの学校にはいなかったと思う。

今となっては仕方のないことだ。

だって、誰が悪いというわけじゃないし、それにこの結果以外だと誰も笑えなかったと思う。いや、この結果が笑い合えているのかは私にもわからないが。


「おっは~」


朝からテンションの高い声を出してきた。

声の持ち主は少しだけ明るい髪の色をした男性。背も体型もいたって平凡だ。

彼の名は「高坂 璃夢人」

こいつも小学校から一緒だ。だが正直同じ高校になると思っていなかった。

中学時代リムトはそこまで成績は良くなかったからだ。


「まぁ、受験したらまぐれで受かっちゃってさ~」


なんて、言っていたのを覚えている。

なぜか中学時代リムトの家庭教師を頼まれたことがある。

教えることで理解が深まったのも事実だ。テストの点数に違いはなかったが、理解が深まることはいいことだ。


「聞いてよ。リムト。佳ちゃんなんか面白い話題もってきてくれたのよ」


いきなりみりあがリムトに話しだした。


「なになに?」


もうすでにリムトの目は輝いている。

なんだかさっきまで悩んでいたのがバカみたいに思えてきた。

当事者そっちのけでみりあとリムトが盛り上がっている。


リムトが言う。


「これって、なりすましメールじゃないの?ほら、ちょっと前に裏サイトで盛り上がっていた」


そんなことがあったのか。

裏サイト後でこっそりみてみよう。といっても、今私の携帯はみりあとリムトの間を行ったり来たりしている。

みりあが言う。


「あ、あの件って結構サイトで盛り上がっていたよね」


一人取り残されている私がここにいた。私は聞いてみた。


「なりすましメールってそんなに簡単に出来るものなのか?」


私のセリフにみりあが説明してくれた。


「メールって考えるからわかりにくくなるのね。家に来る封筒で考えて欲しいの。普通誰から届いたのか裏に名前が書いているでしょう。例えば私がリムトの名前を書いて送ったら受け取った佳ちゃんはどう思う?」


「そりゃ筆跡でみりあってわかるよ」


そう言った私の横でリムトが笑っている。


「いや、普通は俺から送ったって思うって。だって宛先が俺なんだからさ。佳ちゃんは頭が回りすぎるからこんな例えじゃダメなんだよ」


みりあが横ですねていた。私はみりあに向かってこう言った。


「ごめん、ごめん、そうだよねリムトの名前が書いていたらリムトからだって思うよね。

でも、それは封筒だからできることであってメールでもそんなことできるの?」


そう言ったらみりあは笑顔になった。


「佳ちゃんはそんなこともしらないのね。メールでもできるんだよ。しかも携帯だとなかなかそれがなりすましメールなのか分かられにくいのよ。なりすましメールの可能性もあるから学校についたら先生に相談するのもいいかもね」


なんだか、言っていることはまともなのに二人ともなぜか笑顔で楽しそうだ。

リムトがいう。


「佳ちゃん、夏休み明けそうそうこんな楽しいネタを提供してくれるなんて流石だよ。これでひょっとしたら授業もストップしてくれたらいいのに。それに今回も解決したらまたお願いしようかなってね」


みりあもリムトも笑顔だった。どうやら退屈な毎日にスパイスを送ったようだった。

まぁ、実際私たち3人は誰も授業をちゃんと聞いていないのだから授業がどうなったとしてもどうでもいいことなんだけれどね。

私はそう思いながら校門を通り過ぎた。


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