キミとボクのかくれんぼ。
小さなキミとキミよりちょっとおっきなボク。
大きさは違うけれどとても仲良しな僕たち。
そんな僕たちが遊ぶといったらかくれんぼ一択。
小さなキミはかくれんぼ上手でボクはいつもキミを探す。
何処にいても何をしていても今もキミを探している。
雪に包まれている小さな町、そんな町にボクは住んでいる。
ボクの名前はユウキ。勇気のある男の子に育ってね、そうママが付けてくれた名前だ。
けれどボクには勇気がない。近所にすんでいるツヨシくんがイタズラをしていたり誰かに意地悪していたりしていても「やめなよ!」その一言がどうしても言えない。たった一言すら言えない、言えなくてうずくまってしまう弱虫でとても泣き虫なボク。
そんなボクがボクは嫌い。
今日もしょんぼりしながら帰り道を歩く、ずっとずっと歩いていく。
ふと目の前に小さい雪の山、小さく動いている。ボクはそっとその雪を掬い上げた。
「…え?」
そっと払ってみると小さな小さな女の子が寒そうに震えていた。ボクのてのひらに包める位体の小さな女の子。女の子はまるくてくりくりとした大きな目を怯えるようにボクへ向けてきた。
じっと見つめてくる女の子の頭を恐る恐る、でも優しく撫でるとその小さな体をポケットへ押し込み駆け足で家へと帰った。
帰宅するとそのまま自室へと戻っては扉を閉め荒い吐息を繰り返しながら状況を整理する。ポケットからもぞもぞと這い出る少女を眺めるとそっとベットへと乗せてやってはボクはその場へ座り込んだ。
「アナタに会いに来たの」
ほうけているボクに彼女はそう言った。
「会いに来たって、キミは一体…?」
「わたしはアナタに会いに来た、でも途中で雪に埋もれて動けなくなったの」
ボクの質問には答えず小さな少女は淡々と紡ぎながら笑った。
笑う少女の言葉に疑問を感じながらもボクは頭の中を整理する。
「えっと、キミはボクに会いに来た。でも途中で動けなくなっているところにボクが来たってこと?」
「そう、見つけてくれたのがアナタで良かった」
状況を整理するボクの言葉に頷いたキミはそう言って笑う。その顔が余りにも可愛くてボクははにかむように笑う。途端鳴り響く合図にボクは吹き出して彼女は頬を赤らめた。
「お腹空いた」
小さく呟き頬を膨らませた彼女を肩に乗せると小さく笑ったボクは膨らんだ少女の頬を指先で撫で、自室の扉を開きながら呟いた。
「おやつにしようか、キミの事も整理したいしね」
「キミはどこからきたの?」
「おしえない。」
「キミは妖精なの?」
「しらない。」
「ちゃんと答えないとおやつあげないからな」
「わたしはアナタ、アナタはわたし」
自分と同じくらいの大きさのクッキーを器用に頬張りながら女の子は話した。
ボクは首を傾げる、女の子の言葉が難し過ぎてわからないからだ。
「なら、キミの名前は」
「名前なんてないわ、わたしはアナタだから」
「でも名前が無いのは不便じゃないのかな」
「なら"ユウキ"でいい」
「ユウキはボクの名前じゃないか」
ボクは考えながら紙とペンを持ちながら必死に文字を書いた。
ペンと置くと彼女にそれを見せる。
「キボウ…?」
「確かにキボウって読むけど、キボウじゃない」
書いた文字は"希望"でも読み方は"ノゾミ"
「キミの名前はノゾミ、ノゾミだ。」
ノゾミと呼ばれた女の子は困ったような表情を浮かべると笑った。
ボクはその笑顔に心が暖かくなっていった。
ボクとキミは友達で家族。
起きるときも寝るときも遊ぶときも食事もいつも一緒。
ママははじめキミの存在にビックリしていたけれど、すぐににっこり顔。
彼女サイズの衣服や食器を用意してくれた。
「ユウキ、ユウキみて!粉雪よ」
「ノゾミ、はしゃぐとまた埋もれるよ。キミは小さいんだから」
はしゃいでいる小さなキミを肩へ乗せて雪道を歩いていく。
何度も見た景色だけど誰かと歩くとまた違う気分だ、目の前がいつも以上に明るい。
彼女と出かけると必ずする遊びがある、それはかくれんぼ。
小さい体なので向いているのかいつも見つけるのが一苦労だ、けれど見つけた時の笑顔が可愛いのでやめられない。
小さいので後ろへ回り込んで優しく頭を撫でる、それがボクと彼女の"みーつけた"の合図。
「今日もかくれんぼをしましょう」
「キミはかくれんぼが好きだね」
二人で話しながら歩く、小さくて寒がりなキミをマフラーで包んでやった。
ある程度町から離れた森の中でボクは瞬きを繰り返した。目の前にはツヨシくん、今日もイタズラをしている。ボクは視線をはずしながら彼女を隠しながら通り過ぎていった。
「ユウキ、変な顔。」
「ノゾミ、喋ったらいけない」
通り過ぎるボクを不思議そうにまばたきしながら見つめる彼女はボクに問いかける。
「あの人は何をしているの?」
「イタズラをしているんだよ」
キミは更に問いかける、それと同時にボクの顔は鬼のように歪む。
「みんなが困ること?」
「みんながイヤなこと」
キミの問いかけに頷きながらボクは答える、キミはボクに更に問いかけながら首を傾けた。
「なぜユウキは見ていないフリをするの?」
「ボクが弱虫だからだよ」
頭の中で繰り返される"ヨワムシ"を首を振って追い払う。
彼女はそんなボクに悲しい顔をするけどすぐに笑った。
「ユウキは怖がりなのね」
そう言ってノゾミは笑った。
ボクの顔から笑顔は消えた。
いつもと同じ朝だけどなにかが違う。
目を開いて確かめると慌てて飛び起き裸足で駆け出した。
隣の小さな毛布にいたはずのキミが居ない。
「ノゾミ、ノゾミ!」
ボクは懸命にキミの名前を叫ぶ。キミからの返事はない。
ボクは彼女が好きだと笑っていた家の近くにある野原へと走る。
足が冷たいし寒いけれどそんな事はかまいやしない、ただ走っていった。
キミはそこにいた、雪のつもった野原の中心でせっせとなにかを作っている。
ボクはそっと近づき頭を撫でた。
「ノゾミ、みーつけた」
ボクたちの合図、見上げてきた丸い目はボクを捕まえて離さない。
やわらかい笑顔でボクを見つめてきた。
「ユウキ、見つかっちゃった」
「何をしているの?」
ボクの言葉にキミは雪の結晶でできた冠を見せてきてボクの頭に乗せてきた。
お菓子のような冠、不思議と冷たさは感じなかった。
「ユウキが勇気を出せるように」
そう言ってキミはボクに笑いかけた。
こんな冠一つで勇気が出るなら早くに作っていたさ、そう思いながらも笑ってみせる。
「ありがとう、勇気が出てきそうだ」
「本当?…本当に本当?」
「ああ、本当さ。嘘なんてつかない」
不安そうに尋ねてくるキミを安心させるように頭を撫でてボクは頷いた。
「おい、何してんだ?ユウキちゃん」
不意に耳に響く声にボクは背筋を固まらせる、逃げたいと体が言っている。
でも、逃げるわけにはいけないと誰かがボクに話しかけてきた。
現れたのはツヨシくんとそのともだちだった。
「べつに、何でもないよ」
ボクはそう言うと彼は大きなからだをゆっくりと前へ前へとこちらへ歩いてきた。
「誰と話してるんだよ、ユウキちゃん」
「誰とも話していない」
ボクは彼女を隠そうとてのひらで包み込もうとするも、それより早くツヨシくんは彼女をつまみあげた。
「ちょっと、痛いじゃない。離してよ」
「なんだよコイツちっちゃい女と話してるぜ!見ろよ」
彼女を揺らしながら彼はボクを笑いものにするように話す。
ボクは悔しくてうつむいた、彼女は叫んでいる。
聞こえる笑い声、キミの叫び声。ボクの頭の中はまっしろけ。
「ちっちゃい女なんてはじめて見た。なあ、犬の上に乗せたらどうなるんだろうな」
おもちゃをもらって喜ぶ子供のように彼は彼女を握る。
彼女は苦しそうな顔をしながらも必死に叫んでいる。
「やめてよ、痛いじゃない。アナタはイジワルな人だわ」
「なんだと、よし今日はコイツで遊ぼうぜ」
ツヨシくんは彼女を連れたまま歩いていく。
ボクは動けない、また動けない。
涙が止まらないけれど立ち上がれない、またヨワムシが顔を出す。
「ユウキ、ユウキ」
彼女がボクを呼ぶ声にハッとしてボクは立ち上がる。
冠がスっと溶けていってボクの体に染みた気がした。
「弱いものイジメなんてして恥ずかしくないのかよ」
「お、ユウキちゃんがなんか言ってるぞ」
ツヨシくんとその友達が笑う、けどボクは続ける。
「ノゾミは僕の大切な友達なんだ、返せっ!」
そう叫ぶとボクは走り出していた、そして彼女を取り返してそっとポケットへ隠した。
ツヨシくんたちはボクを睨む、ボクは逃げるように走り出した。
溶ける冠と必死に逃げるボク、それを見て笑顔を見せるキミ。
「ユウキ、ありがとう」
「だから喋るなって」
"ユウキは強い人なんだよ"そんなのノゾミの言葉を聞きながらボクは家へと走っていった。
家の近くまで走ってきたボクは彼女を肩に乗せようとポケットを探る。
てのひらに乗ったのは溶けきった冠のカケラとキミが好きだった赤い手袋。
これがボクとキミとの終わらないかくれんぼのはじまりだった。
「ユウキーッ、支度しなさい!」
「わかってるよ、ボタンがしめられないんだって」
何気ない朝、外は桜が咲いている。あれから数年、ボクは中学生になった。
今日は入学式。ママ、母さんもボクもバタバタしている。
「ボクたちは早めに行かなくちゃいけないから先に行くよ」
「気をつけるのよー」
そんな会話を交わしてボクは飛び出した。
辺りを見渡しながら歩くのはあの冬の出来事からのボクの癖。
食器も服もそのままにしている。
あの時ボクは勇気を見付けることが出来たけど心はからっぽだった。
校門を潜ろうとした瞬間目を見開いた。
ボクと同じ背丈の女の子がこっちを見て笑っている。
ボクは走り出して彼女の前へ立つ。
「…みーつけた」
「見つかっちゃった、ね」
弱虫少年と小さな少女のかくれんぼの結末は確かめて頂けましたでしょうか?まずは閲覧有難うございました。本来童話企画への投稿用に書いた本作ですが「童話」というカテゴリーから大きく反れてしまった為「短編作品」として投稿させて頂きました。
雪の日に起きた出来事で勇気を得た少年と少年に勇気を教えた少女の物語はこれが終わりで始まり、これからは二人が紡ぐ物語が始まると信じて。