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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅱ  作者: 飯塚ヒロアキ
序章 侵略の始まりと、亡霊と呼ばれた少女
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魔王再臨 その3

「ぎゃぁああああ――――――――ッ!!!!」


戦場で甲高い悲鳴が響き渡る。


 一人のドラゴマ兵が腕を斬り落とされ、転がりながら、もがき苦しんでいた。それを無言で見下ろす、謎のシェールの兵士はこう言った。


「――――邪魔です。貴方たちはみんな邪魔だ。……だから、みんな消します」

「な、なんだと?ふぜけるなッ!」

と怒号を飛ばし、その謎の軽装の兵士を取り囲む。


 少しの間が空いた。数人に囲まれているにも関わらず、その軽装の兵士は動揺を見せない。それとは、逆に余裕にも見えた。なぜなら、武器を構えていないからだ。盾も持たず、右手に一本の剣だけでは、普通の人間なら戦地に出たくはない。だが、その軽装の兵士は普通の兵士とは違った。


「やっちまえッ!」

という号令に、一斉にその一人の兵士に斬りかかった。


 しかし、その兵士は屈しなかった。突き出された槍はひらりとすり抜け、振り下ろした剣は剣で軽々と弾き返された。


「どおりゃああああ――――――ッ!!!」

と巨漢の男がその兵士の背後から斧を振り下ろした。


 だが、その兵士はすんなりと、何もなかったかのように、避けたのである。地面に叩きつけられた斧を引き抜こうとする巨漢のドラゴマ兵は、何か違和感を感じた。目を腹部の所へ送ると、赤い血が流れ出ているのが見えた。


「い、いつの、間に……?」

と、顔面から倒れ、ピクリとも、動かなくなった。


「死ねッ!」


 不意に、その兵士にボウガンを放つ。しかし、それをバク転で軽々と避ける。そのタイミングで、その兵士のかぶとが外れた。相手の顔をみた瞬間、ドラゴマ兵の手が止まる。


「う、嘘だろ?」

「あの黒い髪……も、もしや……こいつが……あの“ハニアの亡霊”?」

「はぁ?まさか…こ、こいつが?あのドラゴマ一個軍団をたった一人で相手したうやつか?」

「い、いやだ。俺は死にたくない―――――こんなやつを相手にしたら命なんで足りやぁしない」

と一人のドラゴマ兵が震え始めた。


その言葉にドラゴマ兵たちは腰が退いていた。


「次は誰が死にたいですか?」


 冷血な目で、辺りをゆっくりと見渡した。今の内に逃げればよいのだが、誰も動こうとしなかった。いや、動けなかったのである。足が震え、まるで、金縛りにあったのかのように、氷ついている。


 突如現れた、謎の黒髪の少女とハニアの亡霊兵団。現れては、消え、現れては消えるまさに亡霊の軍団とドラゴマ軍内部で噂されていた。しかし、誰も見たことが無いのが現状。なぜなら、見た者のほとんどが、殺されるからである。


 そんな噂の亡霊が今、自分たちの目の前に現れたのだ。黒髪の人間はこの大陸に極少数しかいない。大体の人間は金髪で大柄だ。シェール人も例外ではない。この小柄で見た目は、か弱そうな黒髪の少女は亡霊の噂の特徴に瓜二つ。


 固まったドラゴマ兵がようやく口を動かした。


「や、野郎共。怯むんじゃあねぇ。俺たちは雄牛のように猛々しく、戦うドラゴマだ。奴に肉体がある限り、人間である証拠よ」と口元がプルプルと震えている。


「手柄は俺がもらう」

「貴様には多額の報酬金がかけられてんだ。ここで、やれば、俺達は金持ちだ」


そんな会話をしているとその軽装の兵士が口を開いた。


「……終わりです」


 そう言い残すと剣を構え、ドラゴマ兵に走り込む。


「やめろ!待て!!こっちに、く、来るなぁぁああああ――――――ッ!!!」

と盾で身を隠した。


 その少女は盾では守りきれていない足の部分に蹴りを入れる。


「がぁッ」


 足をすくわれ、豪快に横へと、こけると、その少女は瞬時に剣を突き立てる。それを見た二人のドラゴマ兵が少し、怯んだが、覚悟を決めたのか、少女の両脇から、斬りかかる。


「このぉおお!」


 しかし、若いドラゴマ兵に睨みつけた少女は手首付近を足で蹴り上げ、そのまま、腹部を切り払った。


「えっ?」

と膝から崩れて落ちる。


 その後、直ぐにもう一人の老けたドラゴマ兵に、流れるように首あたりを回転の勢いで斬りつけた。血が噴き出て、少女に雨の様に降り注ぐ。それに動じない少女は、近くに居る人間を片っ端から切り殺していく。


 ドラゴマ兵はなす術も無く、抗う力も無く、倒れていく。結局、最後に少年のドラゴマ兵だけになった。その少年のドラゴマ兵は腰を抜かし、地面に尻をつけた。

そして、手を前に出して、黒髪の少女に向かって言った。


「待って!助けください。僕はまだ死にたくないんです!お願いです。ご慈悲を」

とあおざめて、手を合わせた。


 少女がゆっくりと、そこに歩みよる。そして、ドラゴマ兵の少年に剣を喉元に当てた。


「私は慈悲と言う言葉を知りません……さようならです」


 無表情で、黒髪の少女は剣を振り上げた。少年は泣き出して、目を思いっきりつむった。


「母さぁあああああん――――――」


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