貴様は人殺しを楽しんでいるのか? その5
ミネルヴァとジャンは誰もいなくなった軍議室で、闘っていた。
奴隷監視委員会のほとんどが、騎士団出身者であり、独特の構えをする王立剣術を学んでいる。
主人に逆らい、逃げ出した奴隷を捕まえるのを生業にしていた。
ジャンはその中で、トップクラスの捕獲率を治めている。
「流石は、魔王だなぁ!剣筋が鮮やかだ。しかし、感情をあらわにした者に私はやられん!!」とミネルヴァの剣を弾く。
「教えろ………ご主人様の事を……」と息を切らせるミネルヴァは既に正気を失っていた。
「ふっ。そう簡単に教えるかよ」と笑う。
ミネルヴァは、右足で膝蹴りをくらわそうとするが、それを受け止める。
その右足をジャンは掴み、拘束されたミネルヴァに剣を振り下ろす。
ミネルヴァは、左側から拳をジャンの顔面にくらわせる。
しかし、ジャンは、ケロッとしている。
ミネルヴァの攻撃が効果が無いようだ。
そんな時、突然、あの声が聞え始めた。
疲労からかなのか、それとも……
主人であるヨハンネの声が、ミネルヴァの頭の中で、響く。
(ミネルヴァはどうして、僕を助けてくれなかったの?どうして見殺しにしたの?)
「ち、違う!!私は!私はご主人様を守ろうとした」
(でも、僕は死んでいるよ?どうして……)
「違う!違う!違う!」と頭を抱える。
「……ご主人様……どうして……死んでしまったのですか………嫌だ……私を一人にしないで……」
それを見たジャンは、昔の職業でやっていた拷問をすることにし、ミネルヴァに仕掛ける。
「幻聴か………若い兵士が発症すると言われているが、貴様でもなるのだな?ハハハハ」とミネルヴァの顔面を殴り倒す。
いつもの瞬発力も、発揮されていない。
倒れたミネルヴァの腹部を何度も、蹴りつける。
「……がっ」
倒れたミネルヴァの髪の毛を掴み、持ち上げ、顔を覗き込む。
「さて質問をしよう。これまで、貴様は何人殺した?ん?」
「………分からない……」
「お前のご主人は温厚な奴だったよな?今のお前を見て、彼は喜ぶだろうか?」
「………うっ」
掴んだ髪の毛を、離すと、ミネルヴァは横たわる。
しかし、蹲ったままだ。
「これまで、何人殺したんだ?!この人殺しめ!お前のその手は血で染まっているのだ!!正義と言う名の元に、自分を正当化し、人を殺した。それは、本当に正しかったのか?」
「違う……」
「貴様は、人殺しを楽しんでいるのだろう!!これまでも、これからも人を楽しむ為に殺すのだ!!」
「楽しんでいない……私はご主人様を守りたかっただけ……」と起き上がるも、膝をつき、頭を抱える。
ミネルヴァは頭が割れそうだった。
心臓が締め付けられるように痛み、肺がつぶれそうになる。
ヨハンネの声が頭を廻る。
「お前がヨハンネを殺したんだろ?!」
「……私が……殺した?」
「そうだ。お前が殺したんだ」
「……私が……」
放心状態になったミネルヴァは、もうどうでもよくなった。
生きる事も、闘うことも。
自分の主人が人殺しの自分を受け入れてくれない事を悟った。
そして、自分の存在自体も、ヨハンネに拒絶されているように思えた。
ジャンがミネルヴァの背後に立ち、剣を振り上げる。
ミネルヴァは、それに目を瞑り、殺してもらおうとした。
だが、首飾りのゾスがみえんるヴぁに問いかけた。
(惑わされるな。お前は人殺しでも、守りたいものを救う為の行いだ。それは自然の節理だ。誰かを守る為には、誰かを傷つけなければならない。)
(そして、これからも。お前がここで死んでヨハンネが喜ぶか?お前は誓ったのではないのか?ヨハンネが好きだったソリアの花を霊前にたむけるのではないのか?それがお前の償いではないのか?それもせずに死ぬというのか?それこそ、貴様は裏切り者だ!!!!!)
(償い?……そうでした……私にはまだやる事があるんです)
「死ねぇぇええええええ!!」とジャンは剣を振り下ろした。
しかし、ジャンの腹部から激痛が走る。
そして、生暖かいものが込上げてきた。
「ぬ、ぬあに?」と目線を下ろしと、ミネルヴァの剣が突き刺さっていた。
「私には、諦めません……決して………」
「くっ……」と言うとミネルヴァが剣を引き抜くと、後ろへ倒れ込む。
ミネルヴァが立ち上がり、ジャンの首元に剣を当てる。
「………貴様に……お、教えてやろう……貴様の主人は……貴様の主人は……い……き……ているぞ……」と言い残し息を引き取ったのである。
その言葉にミネルヴァは目をかっと開き、固まったのであった。




