魔王再臨 その2
――――――――シェール国中央部に位置するハニアの地域にて。
「―――――諸君、我らは女王陛下に仕える忠実なる僕であり、剣と盾を持つ騎士である。今日我らは略奪の集団ドラゴマから祖国を取り戻す為、ここに集ったのである!」
壮年の男が背後に立つ兵士らに向かって、演説を始めた。その隣では兵士らが大きな軍旗を掲げて、白馬の刺繍が波打つ。
シュール国歴代の王たちは“ホワイゼア”という白馬を国の象徴として、乗り続けている。王のみ乗ることが許された馬である。通称“王の白き馬”
そんな威厳ある軍旗の後ろでは、シェールの騎士やシェール兵たちが隊列を組み突撃命令を待っていた。士気は非常に高い。歴戦の勇士たちとはいかないが、彼らには戦う為の目標と大儀があった。
「この戦いに敗北するのであれば、我らは忌々しき竜と同じく殺戮を繰り返す悪魔となるであろう。兵士諸君!剣を掲げよ。太陽にその誓いを示せ!名誉と栄光を取り戻そうではないか?」
「「「うぉぉお―――――――!!」」」
雄叫びが一斉に声が上がり、各々が持つ武器を掲げる。
「我らは、如何なる事があろうとも、敵に立ち向かい、例え、邪悪なる竜が再び、舞い戻ったとしても、ひれ伏す事はならん!!!」
近くに居た司祭がリスティアの女神像をモチーフにした首飾りを優しく握り、祈りを捧げた。
「女王陛下に代わり、我らが奪われた大地を取り戻し、怒りと憤怒の力を奴らにぶつけるのだ!リスティアのご加護を!」
「女王陛下の為に!全軍!突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ―――――――――ッ!!!!」
この威勢の良い軍隊はシェールの軍隊である。突然、ドラゴマ国の軍隊がシェール国へ侵攻し、それが発端として、前面戦争へと移行。戦局は圧倒的勢力差によるりシェール側が劣勢、上陸してきた沿岸部分から内陸部へと押し負けていた。
シェールの前方、迎え撃つ形で陣を敷くのはドラゴマ軍である。ここで兵力がシェールの方が劣勢であるのは一目瞭然だった。
その数、ドラゴマ軍十万に対して三万にも満たない。だがシェール軍はそれでも闘う。女王陛下の為、奪われた自分たちの故郷と家族の敵をとる為に。彼かには、敗北と言う言葉は存在しない。なぜなら、ハニアは最後の戦いになるからである。もしシェールがここで破れたら、女王がいる王都へ軍の進撃を許すことになり、体制を整えることはできない。
シェールの兵士らは我先にと丘を駆け下り、敵へと向かう。そんな中、一人の兵士が戦列の先頭を駆け抜ける。
その一人の兵士は、ズバ抜けた速さだった。駆ける騎兵を追い抜かし、槍を構えるドラゴマの軍勢に畏れを知らず、真っ直ぐ突っ込む。装備も軽装で心細く、重装甲兵に遭遇してしまうと確実に死ぬだろう。だが、その一人の兵士はそんなくだらない事を考えなかった。
―――――――そして、その兵士が敵の隊列へ吸い込まれていったのが最初として、遂に二つの軍が衝突した。
盾と盾がぶつかり、剣と剣が交わって火花を散らす。最初に剣を交えたシェール側の兵士が、たった一人で敵の隊列へと切り開いく。味方は、いまどこにいるかなど、お構いなしで敵を確実になぎ倒す。
この兵士は集団行動にはあまり慣れていないようだ。目の前に現れた敵の木製の盾を回し蹴りで破壊し、土埃を舞い上げ、相手の剣を受け流し、首をはねた。迷いなき、剣捌きにドラゴマ兵らは翻弄した。
リスティアの女神とは?リスティアはセイクトム大陸で、特にシェール人により古くから信仰の女神であった。このリスティアはあまりにも、美しかった。その為、各地で銅像が建てられ、幅広い層で、信仰の対象とされている。
また、リスティアはもともと、人間だった。しかし、不運な事に美し過ぎた故に、一部の者たちと悪魔信仰者に忌み嫌われた。混沌の時代にリスティアは19才にも関わらず、自らの軍隊を率き連れて、戦場に赴いた。
軍旗を掲げ、味方の道を切り開く。その勇ましき姿は現在、伝説として残っている。