ロレンヌ奪還作戦
「な、何だ?!」
ボアラは空に広がって自分に向かってくる黒い物体に驚き、反射的に馬の手綱を引いてしまう。それにドラゴマ軍全体の動きも止まってしまった。一瞬の判断ミスが大惨事を及ぼす事は戦場において、常にある。今がそれである。
「ぎゃぁあああー!!」
兵士の悲鳴と断末魔が戦場に響く。ドラゴマ軍は一瞬のうちに混乱に陥ったのだ。なぜなら、ドラゴマ軍の兵士が装備している鎧は特別な鉱石で鍛錬されたものであり、いままでシェール軍の弓攻撃で貫通するほどのことはなかった。
だが、それが意図も簡単に貫通したのだ。空から無慈悲に降り注ぐ冷たい鉄の雨に、防ぐ術は騎馬隊には無い。そして、肝心な次の行動指示がなかった。
「な、なぜだ!?なぜ、この距離で攻撃ができる?!まだ、射程距離ではないはずだ!」
ボアラは驚きと動揺に次の行動と指示を出すのを忘れていた。彼も混乱していたのだ。彼は参戦した作戦のほとんどが敗走するシェール軍追撃戦であり、また小規模な戦闘もこの距離からの弓攻撃はなかった。
「ボアラ卿!どうされますか。このまま、じっとしているわけにもー」
部下が話しをしている最中に咽喉仏に鉄の矢が刺さる。その部下は目をかっと開き、ボアラにもたれ掛かる。ボアラは部下を左手で押し退けると部下に刺さっていた鉄の矢が目に入った。
「ぬっ?!こ、これは、ドラゴマの矢ではないか?!どういうことだ……」
「ボアラ様。これはもしや、我が軍の改良の弩では?!」
部下の指摘にボアラは今起きている状況が理解できた。
「まさか?!……ぐぬぬぬぬ。おのれ、おのれ、おのれぃ――――!!ふざけた真似を、なぜ、奴らが――――」
そのタイミングで遠くから声がした。
「第二射!射よ――――――――ッ!!!」
「えぇいいいいいいいい!!!構わん!俺様に続け!!機動力を活かし、敵を踏み潰す!角笛を吹け!!!突撃だ!!」
ボアラは剣を高々に掲げ、馬に鞭を打つ。それに動揺を見せつつもドラゴマ軍は突撃の隊形を再度取り、相手の軍団へ真っ直ぐと向かって行く。
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真っ直ぐ向かってくるドラゴマ軍の動きを、クスクスとルベアが笑う。
「バカだな~あいつら。罠とも知らずに。ドンタール。第二作戦展開!グリルにしてやれ」
「承ったである。よし、矢に火をつけろ」
その指示に弓隊が矢のやじりに油でたっぷり浸された布切れを巻き、弓につがえる。松明で順番に火が矢にともされる。
「構え!………射よぉ!!!!」
業火の如く、まるで、竜の火球ような矢が空に飛び交った。
「ふむ。火矢か………油も用意しておったとは、なんと段取りがよいこと。いやはや、関心、関心」
ゾスが関心している表情をしていた。ルベアがわざわざロレンヌの草原で戦闘をしかけた理由はこれだった。
「火責めにし、敵の戦意を挫き、尚且つ、我が部隊に敵の注意を引く……流石、ルベア様でござるな」
アドルが上官の作戦に感嘆する。
「フフフ。火だるまになってるようだな。いい気味だ」
ルベアは白い歯を見せた。
ボアラ率いるドラゴマ軍は冗談を言っているどころではない。まさに地獄だった。草に引火した火が広がり、退路を絶たれ、後ろに行くも炎、前に行くにも燃え盛る炎だ。軍馬がいななく。
「ぎゃぁぁぁああああああ――――――――ッ!!!!」
「あっあっ熱い!!!焼けるぅ――――」
「た、助けてくれ――――っ!!」
「お、おいしっかりしろ!誰か、水だ!」
「えぇい!後方部隊は何をしている!!」
「ボアラ卿!!我々は前に出す過ぎました!!味方との合流には時間が」
ボアラは火柱を上げる草むらで立ち往生していた。好機と見たのか相手の兵団が動き出す。
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「さてさて、そろそろ。頃合かな。ミネル」
「はい」
「よし、出番だ。斬り込み隊長さん!」
ミネルヴァの背中を強く叩く。
「……はい」
無表情で剣を抜く。
「ミネル殿は敵の主力を叩くでござる。我らは後から来る部隊を攻撃するでござる」
その言葉にミネルヴァは何も言わず頷く。
「ミネルヴァ、わしはここで、見ておるよ。お前の闘いをわしに見せてくれ」
「………はい」
そして、速力を出す為、姿勢を低くし、踏み込むように走り出した。背かを追うようにルベアが見つめていると思った事をつぶやく。
「しっかし、はぇーよな。ミネルは。もうあんな所まで、行ってるわ」
「では、我らも行きますかな?」
ドンタールがかぶとのひもを結び直しルベアとアドルへ見合わせて、同時に頷いた。
「よし。これより、我が兵団は第三作戦に移行する!出来る限りの時間稼ぎする。ロレンヌから、赤い噴煙が上がる時まで、生き抜け!大丈夫さ。大将はミネルが倒す。貴様らは、浮き足立っているドラゴマ兵を倒すだけだ。簡単だろ?男を私に見せろ!!いいな!」
「「「おぉ!!」」」
勇ましい雄叫びが上がる。士気は相手を出し抜いたことによって、かなり高くなっていた。そもそもルベアに従っている兵士らは彼女のことを信じているので、尚更やる気が出る。
「さて、楽しませてもらおうかの。ルベアちゃん」
「ん?」
ルベアが反応した。
「おっと。まずい」
ゾスはルベアの近くから逃げる。
「アドル、今、私の名前を呼んだか」
「いいえ。呼んでいませんが」
「そうか………ならよいのだが」




