戦いの準備
数日後、レブソン城塞にて。
古く、かび臭い指令室で軍の軍議が行なわれていた。
当然、ルベアとイェルグもその席に座っている。
「諸君。敵の包囲網からの苦難と無事にここまで、生き延びた事、ご苦労じゃった。この場を借りて感謝するのお」と長机の真ん中に座っていた老将軍ラーバスが見渡すように武官らを労った。
「将軍。部隊は全部で、六部隊。約一万弱の兵力が集結しました」
「うむ。城攻めには、兵力不足ではあるが相手も同じ。戦線の拡大に疲弊しておると聞く」
「閣下。朗報です!先ほど、早馬が来ました。伝令によると、現在、敵軍は帝国軍と海岸沖で交戦中との事」
「おぉ!」と軍議室が沸きあがった。
「ドラゴマ軍の目は帝国に向いているか……」とルベアは顎に手を添えた。
そのタイミングでミネルヴァが扉から入ってきて音も立てず、ルベアの隣に立つ。
それに、気がついたルベアが目だけを動かし、ミネルヴァに小声で言う。
「一週間、どこに行っていたんだ?」
「少し、私情をはさんでしまいました。申し訳ありません」
「まぁ。いいや。ミネルが帰って来たんだから問題ない」と目線を戻した。
ミネルヴァと小話をしている間に軍議の話が進んでいた。
「ーーーということで我々は守備部隊が留守の時を見計らい、総攻撃を仕掛けます。それに伴い、堅く、厳重に閉ざされた城門を開かなければ、なりません」
「さて、どうするかのう…」とラーバス将軍は目頭を押えた。
年齢もそうだが疲れているようである。
誰もが良い作戦が無いものかと、腕を組み、考え込んでいる中、一人の武官が手をあげた。
「ん?ルベア殿。何か妙案でもあるのか?」
「はい。私に案があります」
「ふん。お前に頭があるとは思えんが。閣下。聞くだけ無駄です」とイェルグが小ばかにしたように言った。
それに、数名の武官が頷く。
外部の人間が指揮官であることが、不愉快なのである。
ましてや、国が滅んだ、哀れな女など、信頼もされていない。
「まぁ。そう言うな。イェルグ」
「しかし、この女はあのプルクテスの女です。滅ぼされた国の将官に何を教わる事がありますか。同じ、失敗をするだけです」
「イェルグ殿。嫉妬は止めていただきたいでござる」とアドルが口を開いた。
「俺が、嫉妬だと?!」
「その通りである。連戦連敗している貴殿と、我々は違う。それが、気に喰わないのでしょう」ドンタールがアドルに続き、言い放つ。
「貴様!!もう一度、言って見ろ」とイェルグが椅子から立ち上がると、それにアドルとドンタール達が立ち上がる。
座ったままなのはラーバスとルベアだけたった。
ミネルヴァは無反応。
口論が続き、一触即発の状況になってしまう。
ラーバス将軍は両側でわめき、もめ始める武官らに呆れてしまい、何も言わなかった。
ラーバスの直属の女兵士らがラーバスの身を守ろうと前に立った。
「はぁ……ミネル」とルベアが言うと、ミネルヴァが勢いよく剣を抜いた。
それを見た瞬間、全員が静止し自分の席にゆっくりと座った。
イェルグも眉間をピクつかせながらも、怒りの表情で同じく座る。
彼女の恐ろしさは誰もが知っている。
例え、百戦錬磨の武官らでも口を引っ込めてしまう。
「……諸君。友軍同士の争いは見苦しいのう。まぁよい。それより、ルベア殿、その案をわしに聞かしてもらおうのう」