太古の狼 その6
先ほど、様子を見に行った山賊の一人がゆっくりと帰って来た。
しかし、どこか、足がおぼつかず、立っているのがやっとのように見えた。
「おい、どうした?!」
「……た……すけて、くれ……」と力尽きたかのように顔面から倒れ込む。
そのまま、びくともしなかった。
それに、山賊長と部下らは驚きを隠せないほど動揺を見せる。
傷だらけの仲間を凝視する山賊らは奥から聞える足音に気がつく。
目を細めた。
暗い奥から人の影が見えて来る。
「ひと……?」
「誰だてめぇは?」と山賊長が斧を手に身構えた。
それに部下達も遅れて、剣を抜く。
腰はひけているが。
暗闇から現れたのは血塗れの少女だった。
「お、女?」
「てめぇが、こいつをやったのか?」
しかし、その少女は何も応えず、無言のまま。
「逃げろ……やつは……人間じゃねぇ……」
どうやらまだ、息があったようだ。
しかしその山賊をその少女が背中を踏みつける。
「がっ」
それでも無表情。
感情がない。
まるで、人形のようだった。
「こ、こ、こいつ、狂ってやがる!」
「このガキ、よくもーーーー!!」と一人が剣を片手に飛び掛った。
だが、単独では絶対に勝てない事をこの男は知らなかった。
不意をついたつもりだったが、その少女は顔色ひとつ変えず、しかも驚くこともなく、と相手を斬り捨てた。
そう、彼女こそ、ミネルヴァだった。
斬りかかった男は既に予測済みだった。
予備動作が大きかった為、素人でも分かっただろう。
「こいつ……ただの女じゃねぇな……。野郎ども、気を抜くなよっ!」
「へ、へい!」
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五分後、ゾスは退屈だったのか、大あくびをしてミネルヴァの帰りを待っていた。
ようやく、待ち望んだ時が来る。
祠の入り口からミネルヴァが現れた。
どうやら疲れてはいないようだ。
ミネルヴァにとって殺し合いをする事は全然、平気なのだ。
「おぉ。やっと始末したようだな?」
「はい。一人残らず……」
「よろしい。では貴様の役目は終わった。もう帰っていいぞ」とゾスはミネルヴァの真横を素通りしようとした。
しかし、ミネルヴァはゾスの鼻先に血まみれになった剣を押し当て、歩みを止めさせた。
「忘れてはいませんか?」
「ぐっ。覚えていたか……」
「……当たり前です。もしや―――約束をやぶられるのですか?」
ミネルヴァの剣を握った手がギュッと音をたて、目がギラリと光る。
それを見た、ゾスは思わず、後ろへ飛び退ける。
「待て、待て、待て!我とて、狼族の王!約束を破ったりはせん」
(このわしが臆しただと?そんな馬鹿な………)
「では、早く!私のご主人様を蘇らせて下さい!」
「ん?貴様、何か勘違いをしてはいないか」
「というと?」
「どかっから、そんな話になったかは、知らんが、我は、剣の力を引き出してやると言ったのだ」
「………そうでした。そのような話でした」
「まぁーよい。約束通り、その剣の力を蘇らせてやろう。では、先ず、剣を地面に突き立てろ」と、偉そうに胸を張って言った。
ミネルヴァはそれどころではなかったので、気にもせず、「こうですか?」とミネルヴァは言われた通り、剣を地面に突き立てる。
「そして、我の言葉を復唱するのだ」
「はい」
「我は選ばれた。このレギナスに」
ミネルヴァがそのまま復唱する。
――――我は選ばれた。このレギナスに
「暁の太陽の如く、刃を敵の血で染めん」
――――暁の太陽の如く、刃を敵の血で染めん
「我に、応えよ。今こそ、力を解き放て」
―――我に、応えよ。今こそ、力を解き放て。とミネルヴァが、言葉にした瞬間、レギナスの剣が、赤色の光を、辺り一面に放った。
彼女は、あまりにも強い光に耐えれず目を背けた。
光が収まったところで、ミネルヴァはレギナスの剣を目を向ける。
すると、レギナスの剣の刃が紅色に変色していて、思わず見とれてしまうほど美しかった。
「やはり、この者を選んだか。レギナスよ」とソスは小さい声でつぶやいた。
(確かに、この者ならば、性格も、能力も合うか)
「これが、レギナスの剣………?」とミネルヴァは珍しく、小声になってしまった。
だだの鉛色の剣が目の前で、その秘めた力をよびさましたのである。
ミネルヴァはレギナスの剣、つまり、その持ち主であるリスティアに認められた事になる。
ゾスはその事を出会った時に勘付いていた。
「さぁ行け。野望に満ちた少女よ……」と言い残し、ゾスは立ち去っていったのである。