太古の狼 その5
その頃、ミネルヴァはというと、ソスの願いを聞き入れ、ソスの祠へ向かっていた。
相変わらず、ミネルヴァは方向音痴なのか、分かれ道があると必ずと言っていいほど、足を止め、悩む。
その度に、後ろを追うソスがどちらへ曲がれば良いのかを教えた。
そうこうしていると、ミネルヴァがソスにある疑問を投げかけた。
「今、思ったのですが、なぜ、貴方自身が戦わないのですか?」
「我は、目に見える存在なれど、力がない。と言うより、我の力は奴らのせいで失われた」
「その山賊一味を始末するだけで良いのですね?」
「そう言う事だ。さすれば、願いを叶えてやる」
「わかりました」とミネルヴァは再び、歩き始めた。
(もしかしたら、ご主人様を蘇らせる事ができるかもしれない……)
ミネルヴァはそれが楽しみだった。
この世界が現実離れしている事をようやくミネルヴァは知ったからだ。
世界は広く、不可能な事はない。
それは、ミネルヴァの主人であったヨハンネの口癖だった。
数分後、森の奥へ入ると、洞窟の様な場所に差し掛かった。
入口前には山賊の一味が、昼間からエールや麦酒などをがぶ飲みしていた。
ソスはその光景を見て、歯ぎしりをした。
「おのれ人間風情が、我が神聖なる祠を荒らしおって!力さえあれば、奴らなど一噛みなのに……」
「五分で済みます。ソス様はここで待っていて下さい」
「おぉ。期待を裏切るなよ。我は見ているぞ」とミネルヴァを見上げる。
それにミネルヴァは目線を合わせて、深く頷いた。
ミネルヴァは剣をゆっくり鞘から抜くと、堂々と入り口の方へ向かって行った。
雑草を踏み歩き、音を立てる。
隠密行動にはご法度の行動である。
「正面から行くとは、面白い……さてさて。どうなるかな……」
ソスは、ミネルヴァの背中を見つめ座り込んだ。
「なんだてめぇ!!」
「おい待てよ?こいついい女じゃねえか」
「よぉ姉ちゃん迷ったのかな?おじさんたちと遊ばないかい?」
「……私の目的の邪魔をする者は全て排除します」というと、右手に持つ柄に力を入れた。
ミネルヴァが剣を持っている事に気がついた山賊らは息を呑んだ。
「やる気か?!このー」と言った男は自分の腹部に突然、熱が走った。
「え?」
抜けた声で、膝から崩れ落ちた。
「このアマー!!!」「ぶっ殺してやる」
同時に、剣を鞘から抜き、ミネルヴァに向かったが、数秒でねじ伏せられた。
血がいたるところに飛び散る。
ミネルヴァは何も言わず、祠の中へ入っていった。
「あぁ。言い忘れた。祠は汚すなよ」とミネルヴァにソスが投げかけたが、どうやら聞えていないようだった。
「お頭?!見張りが帰ってこねぇ」
「なんだと?またあいつらさぼってるな!おい!お前とお前、見て来い」と二人の部下を指差した。
「あいよ」
「へい」というと、横になっていた二人はだるそうに体を起こし、剣を腰につけ、入り口の方へ歩き始めた。
「おい。忘れもんだ」と山賊長がその一人に、たいまつを投げて渡した。
それを見事にキャッチし、向かっていく。
山賊長は、ポリポリと頭をかくと、盗品を確認し始めた。
「へへへへ見ろよモジス。この王冠。いいねぇ」
両手で、抱えるその王冠には紋章が入っていた。それはソスの紋章。
山賊長の背後には、洞窟の天井間から、太陽の光がさしていた。
しかし、そこにあるはずのソスの銅像は無かった。
「そう言えば、お頭?そこにあった狼の銅像は何処にいったんですかね」
「しらねぇよ。誰かが売ったんじゃないか」と再び、盗品を見てニヤニヤとしたのであった。