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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅱ  作者: 飯塚ヒロアキ
第五章 全ては、皇帝を殺す為に!
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最強の剣闘士 その2

ヨハンネとミネルヴァの朝稽古に、見物人が集まり始めていた。


ルベアの私兵にサーチベルクの衛兵たちが、それを囲うように見学しているのである。


誰もが、声を上げて、僕の事を応援してくれていた。


「がんばれ!」


「ほら!そこ、右だ。右!」


「左に振り斬れ!」と周りの兵士達が僕にアドバイスをする。


僕はその言葉を信じて。左から斬りつけた。


それに、ミネルヴァは、身体を沈めて、地面に手を付き、僕に足払いをした。


思わず尻餅をついてしまう。


「いたっ」


ミネルヴァは、素早く立ち上がると、僕に剣を突き立てる。


「ふあっ!?」と横に飛び跳ねる。


(い、今のはマジで大切な所に………剣が刺さりそうだった………)


僕の体中から、冷や汗がにじみ出る。


本気で狙っては、いないと思うんだけど、反射的に身体が動いてしまった。


ミネルヴァは地面に突き立てた剣を引き抜くと僕を見下ろしながら言う。


「まだまだです。ご主人様………」と言うと、僕が立ち上がるのを待っているように見えた。


「ほら!立て」と見物人に言われる。


「次はいけるぞ!」


なんか、決闘しているみたい。


僕は、膝に手を付いて、立ち上がり、ミネルヴァに目を向けた。


すると、彼女があの頃の姿に見えた。


僕の脳裏に浮かんできたのは、プルクテス剣闘技場で魔獣との闘いで華麗に舞い上がり、踊り子のように踊って、なにものにも動じない眼光をしていた………一人の少女の姿だった。


「ミネルヴァ!もう一度、仕掛けるよ」


「………どこからでもどうぞ」とミネルヴァは再び剣を構える。


僕は、ミネルヴァにぶつかる気持ちで向かった。


「うぉぉぉぉおおおおおお!!」


それに、ミネルヴァは身構えた。


剣を勢いよく、突き出した。


それをミネルヴァは右に身体をねじるように避ける。


でも、僕はそれは、そうなると分かっていた。


だから!


剣を左手に持ち替え、そのまま、ミネルヴァの腹部に狙って、横に斬り込む。


しかし、ミネルヴァはそんな時でも、動じなかった。


なんと、左手の二本の指で、剣の刃を掴んだのである。


それは、僕が逆に驚いた。


「嘘?!」


しかし、驚いている僕を待ってはくれない。


ミネルヴァは、そのまま、右手で、僕の肩の辺りを掴に、左足を、僕の両足の後ろに絡ませ、勢いよく後ろに押し倒す。


後頭部から勢いよく、ぶっ倒れた。


勢いあまって、身体が、頭は地面につき、足は上を向いた形の逆九の字みたいに曲がってしまった。


「………ミネルヴァは体術も優れてたんだ………」


その時、僕は思った。


勝てるか!!こんなものと。


結局、僕はミネルヴァに敵わない事を悟った。


そんな所に、ミネルヴァが覗き込み、手を差し出した。


それを僕は掴み、立ち上がった。


そこで、なんと、周りに見物していた兵士達の拍手が舞い上がったのである。


「え?」と僕は状況がわからず、右左と見渡した。


誰もが、笑顔で、僕の奮闘を称えてくれていた。


「よく頑張ったな!!」


「凄いぞ!あのミネル殿が一瞬、驚いていたぞ」と声がする。


それに僕は気がついていなかった。


僕はミネルヴァの顔を見つめる。


「そうなのミネルヴァ?」


「ち、違います。ただ…油断しただけ………です」と言うと、少しだけ悔しそうな顔をしたのであった。




――――――――――そんなヨハンネとミネルヴァの稽古をしていた頃、皇帝フェザールは、とある場所に腰を据えていた。


その場所は薄暗く、太古の宮殿のような柱が、壁の隅に聳え立ち、天井を支えていた。


しかし、かなり古いのか、至る所で、天井や、床が抜け落ちていた。


フェザールはある一点を見つめて、頬杖をつく。


「まちとうしい………」と小さくつぶやいた。


それに整然と立ち並ぶ親衛隊の将校らも、何度も頷く。


そう言うフェザールの目の前には、三メートルは越える蒼く輝く結晶の塊があった。


蒼い光を放ち、それは、まるで怪しい雰囲気を出していた。


その中には、例のあの神の槍があったのである………。


フェザールの背後から、三人の影が近寄ってくる。


「あらら。これが、あの槍なのね?ようやく見つけたのね」


「なんや、凄いな!これ」


「ソーイは嬉しいのね!」


「実に壮大で、美しい。これが、神の武器、クリスタル・スピアだ」


「主様。こんな素晴らしいものの前で、言うのもアレですが………ご報告を…」


「ダリア。報告は既に私の耳に入っている。レイラがやられたそうだね」


「はい。その…申し訳ありません………」とダリアは深々と頭を下げた。


それに、フェザールは怒らなかった。


むしろ、笑顔で、ダリアに言った。


「お前は悪くない。お前はよく働いている。逆に褒めてあげたいくらいだ」


「もったいなきお言葉です」


「なんや。あのサルやられたんかいな。だっせぇーな。あいつはいつも口先ばかりで、なーんも役にたたへん」


「レイラ姉、死んじゃったの?」


ソーイは、ダリアを見上げて、心配しているような顔をする。


それに、はっきりと応えられないダリアは困った表情をした。


「さぁ…生死まではわからないわ。でも、部下は全滅したそうよ」


「レイラ姉…死んじゃった…死んじゃったのね……ソーイ……悲しい…」


ソーイは下にうつむくと涙を流し、悲しんだ。


それに、長身の関西弁のキュナンが、そのソーイの頭を撫でると、笑いながら言った。


「そうか?うちは逆に静かになって、ええと思うねんけどな!アハハハ」


その下品な笑いにダリアが、怒った。


自分のあるじの前で、聞かせたくなかったようだ。


「そんなに怒らんといてなー。それで、どうすんねん?フェザール様」


それに、フェザールは、低い声で、「そうだな………」と言った。


目を細め、何かを考える素振りをする。


「………レイラを倒した相手……まぁいい。既に罠は仕掛けてある」と少しだけ気になっているようだった。

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