前作のあらすじ
―――――――プルクテス国は奴隷大国として世界で有名だった。貿易都市として栄え、貴重な鉱物資源を輸出する事で国を豊かにしていた。豊かな国では娯楽が必要となる。
そこでプルクテスでは娯楽の一部として剣闘士が血と汗で死闘を繰り広げる剣闘技場が数多く建築されていた。
そこに奴隷として捕まった黒髪の少女が剣を片手に剣闘技場に新たに加わる。観戦で来た客の誰もがその華奢な体に小柄な彼女が直ぐに死んでしまうと思った。
しかし、彼女は生き抜いた。生きて、生きて、生き抜いた。なんの使命もなく、生の執着心もなく、ただ無心に剣を振り敵を打ち倒し続け、見物客の期待に応える。あらゆる殺し方と人を喜ばせる事をそこで覚えた。
そして月日がたち、名の無い黒髪の少女は闘いの中で技を極め気がつくと「黒髪の魔王」と称号がつくほどの有名な剣闘士として活躍していったのである。
――――――――そんな日々の中で主人公のヨハンネ・キンブレイトが友人ダマス・サルサットに半ば強制的に名を持たぬ黒髪の少女の噂を聞きつけ剣闘技場に連れてこられた。
黒髪の少女とどこにでもいる平凡な少年が出会った。二人はその瞬間共鳴したかのように運命を大きく変えることになる。
「父上。僕は剣闘士が欲しいですっ!」
そう真剣な眼差しで少年は食卓で食事をする父親に向かって、はっきりと言った。
奴隷制を置くプルクテスでは奴隷を使用人として働かせる事は珍しくないと考えたヨハンネは豪商である父に頼み込み、名前のない黒髪の少女を高額の値段で買い取る。
ヨハンネは彼女を使用人として働かせるつもりはなかった。目的は彼女を助け出すこと。
誰かが「それは矛盾している」とか「他の者は救わず、なぜ彼女だけを救う?」と質問するだろう。その答えは本人にも分からない。
だが、考える前に体が動いてしまったのである。そして、黒髪の剣闘士を引き取り行く。
「君の名前はミネルヴァ」
名の無い少女に彼は名前を与えた。
――――――世界は彼らに無情にも試練を与えた。
ようやく、落ち着いた安定した生活を手に入れたはずだったのに。奴隷の反乱だ。
これまでプルクテス国で虐げられてきた彼らが武器を手にし、アレー・ソリスという成年をリーダーとして、大反乱を起こしたのだ。
その反乱は誰にも止められず、プルクテスの都市は火の海に包まれる。混乱の都市の中に二人の姿があった。二人は前もって脱出する為に用意していた船に向かった。
しかし、そこでも運命のいたずらか、それとも試練なのか。ある通りを曲がると、帝国の刺客である白蛇部隊の暗鬼ソーイがそこに立っていた。得物を捕らえ、斬殺している所を偶然鉢合わせたのだ。
ミネルヴァが言った。
「ここは私に任せて、先に行って下さい!」
ヨハンネはそれを了承し、先に行く。二手に別れる通り道。ヨハンネは正しいはずの道をそれて、別の場所へと歩みを進める。
そこにも偶然なのか、白蛇部隊の四人衆の一人、レイラ・ラレイと出会ってしまう。そして………ミネルヴァはソーイをなんとか倒し、船に辿り着く。しかし、そこには居るはずのヨハンネの姿がなかった。
「嘘………ご主人様………どうして………」
ミネルヴァはそのまま崩れ落ちて、燃え盛るプルクテスの都市から脱出に成功したのであった。