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 万年ナンバー5の美久那。


 5ってところが微妙を飛び越えて笑える域に達してるんだって、お店でもよくからかわれていた。


「昨夜、店に行ったら美久那は辞めたって……まさかこんなとこで会えるなんてな」


 ショーケースに寄りかかる身体はひょろっと細長く、肉屋さんっぽくなかった。

 私の理想の肉屋さんは、某ふっくらグルメリポーターだ。


 それにしても、美久那って言うのは勘弁して欲しい。

 勘弁じゃなく、やめて欲しい。


「あの、わたっ……私はお店辞めたから、美久那も辞めました。もうその名前は使わないでくださいっ」


 やった。

 言えた。


「わかった」


 そういえば。

 あいつ、最後の最後まで私を<美久那>って呼んでた。

 返事していた私は、なんておめでたい女なんだろう。

 無視すればよかった。


「じゃあ、なんて呼べばいい?」

「……」


 今はこいつを無視したい。


「名前、教えろ。コロッケを1個サービスしただろうが」


 そうきましたか!

 私の名前なんか。

 恋人にだって美久那って呼ばれてた私の本当の名前なんか、コロッケ1個分の価値しかないのかもね。


「言え。俺様渾身の作であるGOGOコロッケをやっただろうがっ!」


 うわっ、これあんたが作ったの!?

 口に入れるのが怖いかもっ……。


「み……みく、です」


 みく。

 お祖母ちゃんがつけてくれた、私の名前。


「みく? どの漢字のみく?」

「ひらがな」 

「みく……か。みくだから美久那だったのか。ふ~ん……ひねり感ゼロだな」


 うるさい、そりゃあんたのひねりまくった謎の格好と比べたらひねり感ゼロです!


「……私、あなたを知らない。お店で会った記憶無いです」


 この声。

 一度聞いたら忘れない……忘れられないと思う。


「記憶無しか。はっきり言ってくれたもんだ。まあ、俺を知らなくて当然だけど」


 この人、自分の声にたいして自覚ないの? 


「あそこのオーナー、俺の従兄なんだ。ただ酒飲みに行ってたからカウンターが指定席で、女の子に相手してもらえる御身分じゃなかったしな」


 オーナーの親戚……。


「みくはオープンの時からずっとあの店にいただろう?」


 みく。

 さらっと呼びつけですか。

 お客さんでも多かったな、こういう上から目線の人種。


「激戦区に店を出したせいか、他の女の子達は条件の良いとこにどんどん移っていって……入れ替わりが早かったのに、みくは残ってくれただろう? トシ兄、寂しがってたぞ」


 めったに店に顔を出さないオーナーの名前なんか、私は知らない。

 お金にならない男の顔なんか覚えるつもりが無かったから、あんたなんか知らない。


「…………そうですか」


 だからいつまでたっても売り上げ5位なんだって、先月トップをとったセリエちゃんに言われたっけ。

 その通りだと思った。


 あのお店が好きだったわけじゃない。

 条件の良いお店に移りたくたって、無理だっただけ。


 だって『万年ナンバー5』の美久那だから。

  

「ま、そこに座ってさっさと食え。冷め過ぎちまう」


 私にとってお客=お金。

 だから、仕事を続けられてた。


 お酒を美味しいと感じたことなんか無い。

 限界まで胃に流し込んで、トイレで吐いて。

 メイクを直してまた笑顔で飲ませて、飲んで。

 それの繰り返し。


「……いただきます」


 一斗缶の椅子に座って、指で摘んでかぶりついたコロッケは衣がさくっとして中はほっこり。


「は、はひっ」


 熱い。


 デパ地下で買うときと比べ物にならないほど、コロッケはあつあつだった。

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