あなたの選択は?
西暦20XX年、東京湾、函館湾、大阪湾、博多湾、錦江湾の5つに未確認の空母を有する艦隊が出現した。彼らは第二次世界大戦直前の日本軍の装備に酷似していた。各地の海保や海自が警戒を強め接近したとき、各艦隊は同じ声明を発出した。
「日本を日本人の手に取り戻す」
警視庁をはじめとした各地の警察本部に火の手があがった。
2日前の深夜、5つの港湾都市の浜に黒く塗った複数の小型船が上陸し、翌朝発見されていた。各地の公安は某国の諜報員の上陸を警戒し、捜査を開始していた。
警視庁公安部の榊原は浜に残る足跡と船にエンジンすらついていないことに気づいていた。
榊原「某国といえども、エンジンくらいはある。オールもないとは、何か起きるぞ・・・」
上司の木村警部に伝えたが、一蹴された。
木村「馬鹿なことを言うな。海保だっている。そう簡単になにか起こせるものか。」
榊原は警視庁で一人動きだすことにした。
榊原は元上司であり、防衛省情報本部に出向している後藤警視に都内某所の料亭であっていた。
榊原「わざわざお越しいただき申し訳ありません。電話では話しにくい案件でして。」
後藤「例のなぞの上陸船についてか?」
榊原「さすがは後藤さん。防衛省ではどのような見解ですか?」
後藤「君は・・・亡霊、いや未知の力というやつを信じるか?」
榊原「どういう意味です?」
後藤「米軍からの衛星の映像だ。見てみてくれ。」
後藤は持ち運びのDVDプレーヤーを取り出し再生した。
そこには南鳥島近海が突然光に包まれ、しばらくすると艦隊が出現した。
榊原「映画のように見えますが・・・」
後藤「実際に起きたことだ。気象庁や日本の衛星も熱反応を捕らえている。」
榊原「政府は知っているのですか?」
後藤「警察庁を含め政府や行政府の上層部は皆知っているよ。」
榊原「ではなぜ何もしていないのですか?」
後藤「聞き捨てならん。何かしているからこの映像があるのだ。わかるかね。」
後藤はDVDの一時停止ボタンを押した。
後藤「ちなみにこれは1週間前の映像だ。もう各地の近海に接近している。」
榊原「海自は何をしているのですか?」
後藤「逆にきくが、この艦隊をどう定義する?敵国か?テロリストか?兵士の姿すら見えていないのに沈めることができるか?政府も海自も動けないというのが正解だ。」
榊原「海保がいるでしょう。」
後藤「状況を確認しに、海保の巡視船とヘリが向かったが消えたよ。」
榊原「消えた?攻撃されたのですか?」
後藤「それすらわからんのだ。かなり危険な状況だ。録音記録は米軍が回収した。・・・下手に動くな。君も危険だぞ。」
榊原「なぜここまで話してくれたのですか?」
後藤はしばらく沈黙した後笑顔になって答えた。
後藤「君は公安のくせに無茶をするからな。捜査官1人の勝手が国の危機を招きかねんと思ったからだよ。捜査をするなと言ってもするだろうが、政府に感づかれるなよ。」
お酒を1杯飲むと二人は握手をして料亭をあとにした。
榊原の自宅は警視庁に歩いて行ける距離にあった。半蔵門駅から徒歩で帰ろうとしていると黒一色の作業着のような服をきた集団を発見した。彼ら物陰に隠れながら移動していた。
足音すらしていないその動きは無駄が一切なかった。榊原は不信に思いつけていくと頭の後ろに衝撃を受けた。気を失う前、目に入ったのは南部式拳銃に見えた。
1日前、太平洋上の各地の船の無線には軍艦が無線を無視して突き進んでいるという内容が飛び交っていた。
空自の偵察機が上空を飛行し呼びかけていたが無視されていた。
その報告を榊原は防衛省の地下の医療施設で聞いていた。
榊原「状況はわかりました。なぜ私は防衛省にいるのですか?」
対応していたのは防衛省の桑一尉であった。
桑「私達は防衛省内の公安、と思っていただければわかりやすいかと。」
榊原「そんなことはきいていない。なぜ私はここにいるのかと聞いている。」
にらむ榊原に桑は笑顔で言った。
桑「我々は命の恩人ですよ。公安部の上層部は私達と仲良し。勝手な動きをする捜査員をつける自衛官。しかし、その対象者が襲撃されたら助けないといけない。わかります?」
榊原「私が見つけた集団は自衛隊がマークしていたと?」
桑「詳しくは申せませんがなぞの集団が国内に入ったことは把握しています。その者達も衛星で追跡し場所も把握。そして追跡していました。彼らがことをなせばテロリストとして処理できます。」
榊原「理解できん。後藤警視はこんなこと望んでいないのでは?」
桑「出向組など関係ない。国の防衛は防衛省の管轄だ。あなたにはおとなしくしていただく。」
桑が扉に目をやると小銃を抱えた自衛官が二人入ってきた。
桑「彼らが見張っています。わかりますね?」
榊原は目から血がでそうな表情になったが、静かにうなずいた。
桑は笑顔でうなずいて警護の2人に小声で何か言ったあと出て行った。
夜、榊原が横になっているとノックする音が聞こえた。
警護の二人は銃を構えて扉を開けると、人がいたのか小声で話をして
出て行った。
バチバチ、という音が何回か聞こえたあと部屋の扉が再びノックされた。
「榊原、生きてるか?助けにきたぞ」
その声は聞き覚えがあった。
部屋の扉をそっと開けると後藤が部下数名とともに武装して立っていた。
後藤「急げ、時間がない。桑たちが戻ってきたら逃げ切れない。」
榊原「なぜ助けに来てくれたのですか?」
後藤「公安部総務課の力が必要なのだ。事情はここを離れてからだ。」
榊原は後藤たちと共に静かに移動した。警護にいた2人が倒れていた。
榊原「まさか殺したのですか?」
後藤「電気ショックだ。今は身内で争っている場合ではないからな。」
後藤の部下は特殊部隊のような格好をしていた。
後藤「特殊作戦群の面々だ。事態は彼らの協力がいる段階だ。」
榊原は唾をのんだ。
榊原たちが防衛省を脱出するのを桑は別室でモニター越しにみていた。
桑「やはりな。後藤さん、あなたにも参加してもらいましょう。」
桑は一人で静かに笑いながら緊急ボタンを押した。
響き渡るアラームを背に榊原たちは全力で走り防衛省をあとにした。
榊原「どこまでいくのですか?そろそろ教えてください。」
後藤「今は黙ってついてこい。一般人にも見つかってはまずいのだ。」
後藤たちは深夜の裏路地を進んでいたが、やがて1件の民家のチャイムを押した。
あかりもつかずに扉がゆっくりと開いた。
榊原「どこに行くんですか?」
後藤は拳銃を構えて言った。
後藤「黙って進め。時間がない。」
特殊作戦群の面々も銃を構えていた。普通の汗とは違う汗を流しながら進むと地下に続く階段があった。1本の道を進むと広い空間に出た。
「後藤警視、こちらです。」
声が聞こえたほうを見るとある制服をきた男がいた。
後藤「泉さん、よろしくお願いします。」
榊原「まさかここは皇居ですか?」
泉「厳密にいえば皇宮警察本部地下ですな、第二次大戦の残骸みたいな空間です。」
泉は皇宮警察の警視だった。
泉「通信網は抑えました。ここならあらゆる情報を集められます。」
モニターには地図が出ていて5か所の地点に接近する矢印が点滅していた。
後藤「遊撃隊みたいなものだ、我々は。だが、不穏分子とは違う。国の危機に立ち向かう組織だ。」
後藤は静かに説明した。榊原は事態について行けずにしばらく頭を抱えていた。
榊原は鹿児島県警にいる公安で同期の大久保に連絡をとっていた。
榊原「久しぶりだな。さっそくで悪いがなぞの艦隊の件、きいているか?」
大久保「正直いっててんやわんやの状態だ。警察庁からの情報も断片的だが漁師の情報からこちらに接近しているのはわかっている。」
榊原「不穏な動きをする組織などはないか?」
大久保「・・・今一人か?」
榊原はともに聞いていた後藤や泉に静かにするように目くばせした。
榊原「もちろんだ。それで?」
大久保「えびのや都城、新田原などの自衛隊基地から鹿児島周辺に自衛隊が移動している。訓練名目だが事前連絡もなかった。それに鹿児島市内から変な黒服の集団の目撃情報も集まってきている。そちらは?」
榊原「似たようなものだ。何かあれば連絡をくれ。こちらも混乱状態でな。」
大久保「そうだな。よろしく頼む。」
連絡を終えた後、後藤は別の場所に連絡を取りはじめた。
泉「自衛隊自体は戦う気に満ち満ちている、という印象ですな。」
榊原「東京以外の鹿児島、福岡、大阪、北海道の警察本部に警戒情報を流します。この予測地点は正しいでしょうから政府公表情報以外にも流さないと対応できないでしょう。」
泉「わかりました。」
泉が情報を入力していると後藤が連絡を終えて話し出した。
後藤「悪い知らせだ。まず、これを見てくれ。」
スマホの画面上だが米軍の軍艦が例の艦隊に接近していた。
榊原「日本近海で戦争する気か。」
後藤「横田から戦闘ヘリも飛んでいる。まずい状況だ。」
泉「日本の近海、しかも領海で戦闘がおきれば自衛隊も動く必要があります。」
後藤「三沢からも横田の動きを受けて戦闘機が数機緊急発進した。」
榊原「国民の見えないところでまず戦ってみるわけか。」
沈黙があたりを包んでいた。
当日、3時頃各都道府県は本来非番のものも含め全員に出勤命令がだされたとの情報が届いていた。
榊原「情報を聞いて動いてくれたか。」
泉「政府からは私の現在地の確認依頼が地上の庁舎にきているらしい。」
後藤「映像が届いた。」
モニターにはヘリからの映像が映し出された・
後藤「特戦群のヘリからのものだ。先の米軍艦だが例の艦隊と接触したあと通信が途絶えたらしい。艦隊はすでに東京湾のそばだがこれから米軍艦に乗り込む。」
榊原たちは静かに頷いた。
映像からは船内に乗り込み移動する隊員の目視視点の映像と「クリア」という声だけが続いていた。
後藤「人が・・・」
榊原「消された、いや、消えたというところでしょうか。」
泉「急いでヘリに戻したほうがいい。米軍の救援部隊もくるだろう。」
後藤「戦闘機の姿もないとは・・・」
後藤はひとり言のようにつぶやきながら連絡を取り始めた。
泉「例の5か所にまもなく艦隊が入ります」
榊原「・・・報道機関とSNSに情報を流しましょう。」
泉は驚いて言った。
泉「パニックになりますよ。」
榊原「かまいません。一人でも助けないと・・・」
ほぼ同時にラジオ電波に音声が入った。
「日本を日本人の手に取り戻す」
榊原たちが沈黙していると突然爆発音のようなものが響いた。
泉「どこからの音だ」
皇宮警察官「表の映像をだします」
榊原達が映像を注視していると暗闇の中、警視庁と警察庁から火の手が上がり
建物の一部が崩れていた。
榊原「くそったれ」
怒号のような榊原の声と机を殴る音だけが響いていた。
後藤「まずは落ち着け。状況を整理する為に各地の警察本部に連絡だ。」
榊原はうなずいて鹿児島県警に連絡を入れた。
榊原「・・・繋がらない」
受話器を置く音が大きかったのか後藤が「落ち着け」と改めて言った。
泉「これをみてください」
泉の声をうけてモニターに集まった。
泉「鹿児島の今の気象観測用のカメラ映像です。これは福岡、こちらは大阪・・・、そして北海道」
切り替わる映像は火の手が上がる各都市が映っていた。
後藤「大久保君に連絡をとり続けろ。」
榊原「・・・もう遅いかも・・・」
後藤「いいからとり続けろ。奴なら捜査で長く庁舎にいるタイプではない。それに鹿児島には石油の備蓄基地がある。占領されたら厄介なことになるぞ。」
榊原はあわてて大久保の携帯に連絡を取り続けた。
数分後、大久保につながった。
榊原「無事か?つながってよかった。」
大久保「無事なものか。例の黒服の集団を追っていたら海上に例の艦隊が現れた。警戒していた制服警官に突然、・・・あれは光線といっていいなにかがあてられて消えた。・・・これは現実か?」
榊原「しっかりしろ。お前は私服なんだな。」
大久保「そうだ。一般人に紛れて避難している。不思議とこっちには何もしてこないが・・・」
しばらく砲撃音が響き続けた。
榊原「・・・大久保?」
大久保「すまん。自衛隊との戦闘が始まったが例の光線があてられたあと何も攻撃しなくなった。戦闘機は墜落しちまった。」
榊原「わかった。ありがとう。おちついたらまた連絡をくれ。」
大久保「了解。」
電話を切ってしばらく沈黙が続いたが後藤が口を開いた。
後藤「敵の目的は一体・・・」
泉「単純明快では?日本人の為になっていない今の警察と自衛隊をまず潰すということでしょう。」
後藤「日本人に示したいだけかもしれない。お前たちは日本をどうしたいのか?と・・・」
泉「この国の弱点をつかれたか」
榊原「とにかく、他の警察本部にも制服を着るなと発令します。」
発令文を作成中、後藤にある知らせが届いた。
後藤「桑一尉が動きだした。防衛省と内閣府を占拠、政府の機能不全を理由に臨時の体制を敷くそうだ。」
コマ送りだが防衛省内のカメラに私服姿に小銃などの武器をもった桑達が映っていた。
泉「ここが正念場だ。」
ラジオ電波に埼玉県では外国人への襲撃事件発生の速報が流れた。
榊原「事実をすべて発表します。同時に特戦群のヘリをこちらに回せますか?」
後藤「できるが、かなり危険だぞ?」
泉「居場所がばれる。」
榊原「ここは皇居。彼らの理念通りならここに攻撃はできません。泉さん、陛下の周辺の警戒をお願いします。」
泉「できる限りの武器を持たせる。」
榊原「市民の混乱と犠牲を利用しながらの防衛戦になる。皆様、ご覚悟よろしいか?」
全員が静かに敬礼した。
各テレビ、ラジオ、ネットなどに一斉にある映像や音声が流れだした。
桑「謎の勢力の諸君、我々は思いをともにする仲間だ。政府はこの通り我らが抑えた。日本の為にともに戦おう。各地で戦う自衛隊、警察官の諸君、抵抗をやめよ。我らとともに日本を再生しよう。国民諸君、我らは敵ではない。敵は他にいる。日本人の為に今こそ敵を排除しようではないか。」
榊原たちはモニターの映像を見ていた。
泉「陛下や皇族の皆様に避難をお願いしてくる」
泉は急いで出て行った。
榊原「後藤さん、作戦決行の準備は?」
後藤「いつでも問題ない。」
特戦群の隊員や皇宮警察官たちもうなずいた。
榊原「泉さんが戻り次第、我々の作戦を決行します。」
榊原はあるスイッチを握りしめていた。
少しして、泉が戻ってきた。
泉「陛下にお伝えしてきた。・・・陛下は最初避難を拒まれた。国民の象徴たる自分が真っ先に逃げてどうすると。・・・陛下のご覚悟は決まっておいでだ。だから、別の地下壕に避難することのみはどうかお願いしたいとお話してどうにか了承してもらった。」
泉は安堵とも言えない複雑な表情だった。
後藤「ありがたいことだ。榊原、作戦決行する。よいな?」
榊原もうなずき、スイッチを押した。
各テレビ、ラジオ、ネットなどに一斉にある映像や音声が再び流れだした。
榊原「今戦っているすべての公務員たちよ。制服を捨て私服で戦うのだ。この映像をみてほしい。」
映像には大久保から届いた鹿児島の状況が映っていた。
榊原「これは映画でも夢でもない、現実だ。彼らは国民を襲えない。私服で戦うのだ。制服を着て最後まで戦った同士たちの為にも戦うことをあきらめないでほしい。」
榊原は涙ぐんでしばらく言葉に詰まっていた。
榊原「国民諸君、落ち着いて行動してほしい。だが、屈服してはならない。武器をもたない地方公共団体の職員が誘導してくれているだろう。その指示にしたがい、落ち着いて避難するのだ。ここからはまさに死力を尽くした戦いになる。私たちは皇居から最後まで戦うことを宣言する。国民諸君の協力に期待するものである。」
放送の終了とともに特戦群のヘリが到着した。
外の映像を確認すると全方位に黒服の集団が取り囲んでいた。
後藤「やるぞ」
泉「拳銃携行を厳守、榊原さんもこれを」
榊原に拳銃とサーベルが渡された。
泉「銃火器の手入れは完璧です」
榊原はサーベルを抜いて言った。
榊原「戦をはじめましょう」
映像を見ていた桑は椅子に座りながら拍手していた。
桑「完璧だ。まさに私の作りたかった状況になった。」
桑側に参加していた江藤一尉は驚いていた。
桑「何を驚く。私の行動はすべて日本の為。いいときに彼らが現れてくれた。国民は気づくべきだったのだ。危うい平和のもとに日本があることを。日本が日本としてどうあるべきか国民が選ぶ。これも民主主義の一つだと思わないかね?」
江藤「わけのわからんあなたにこれ以上付き合う気はない。日本人同士で戦うことになるぞ?艦隊の連中が見方もわからないのだろう?」
江藤は立ち上がり桑を睨んだ。
桑「日本人の為に立ち上がると最初から説明している。抵抗勢力は日本人かな?」
江藤は拳銃に手をかけたとき、江藤の後方から発砲音がした。
隊員「桑さん、無事ですか?」
桑「ありがとう。・・・馬鹿な男だ。やつらは味方に決まっている。そうだろう?・・・」
桑は静かに笑った。
ラジオから音声が流れていた。
「横浜の中華街や埼玉県川越市をはじめ外国人の施設や住居がなぞの集団に襲われています。犠牲者多数。避難を急いでください。」
黒服の集団は歩兵銃を構えながら皇居の各門に接近していた。
皇宮警察は各門に展開、カメラも駆使し敵の侵入に備えていた。
どこかと通信していた後藤は通信を終えると神妙な顔で言った。
後藤「敵空母に載っていたゼロ戦と思われる戦闘機の発信を確認。青森県上空で空自と接触したそうだ。現在戦闘中。」
榊原「桑たちの現在地は?」
後藤「内閣府だと思うが確証がない。もう少しまて。」
電話をしていた泉は受話器をもったまま言った。
泉「黒服の集団が議員会館に侵入。状況不明。」
全員が渋い顔になっていた。
後藤「・・・空自から通信。戦闘機からの写真を送る。」
映像に空自の撮影したゼロ戦と思われる戦闘機の写真が写った。
榊原「人が乗っていない・・・?」
後藤「ドローンと思えばいいのか・・・?」
通信機に耳を当てていた後藤は続けて言った。
後藤「ミサイルが当たらないそうだ。弾丸だけで敵と戦っているらしい。」
鹿児島の大久保から通信が入った。
大久保「黒服の集団に対して人の輪を作って取り囲んでいる。奴ら歩兵銃をもっているがまだ撃ってはこない。あれはゼロ戦だと思うが爆弾のようなものを投下しだしたぞ。まきこまれた人間が消えだした。制服も関係なく。まずい状況かもしれないぞ。」
榊原「気を付けろ。引き続き状況を報告してくれ。」
皇宮警察官「北海道警察本部より通信文。敵、北方四島への攻撃を開始。」
後藤「まずいぞ。ロシアが乗り込んでくる。」
榊原「ですが、止める方法がまだわかりません。ロシアに情報だけ流して頑張ってもらいましょう。」
榊原はこぶしを強く握りしめていた。
桑は内閣府の地下施設にいた。
桑「すばらしい状況だ。北方四島を攻撃するのは予想外だったがロシアを追い出すことができれば計画以上の成果だ。」
隊員「大丈夫でしょうか?やつらは無差別爆撃を開始したとの情報もありますが・・・」
桑「国民が恐怖することは重要だ。やりすぎはよくないが多少の犠牲はやむを得ない。未知の勢力を味方に引き入れるには必要な犠牲だ。」
隊員「国民が暴走を始めています。コントロールがきかなくなると厄介ですが・・・」
桑「それを含めての計画だ。問題ないよ。」
桑の笑顔に隊員は恐怖していた。
別の隊員がやってきて小声で何かを伝えた。
桑「黒服の集団がこちらに接近している。やつらがどちらにつくか。見極めるよい機会だ。」
内閣府周辺の警戒は高められていた。
特殊作戦群のヘリが起動する音が響くと黒服の集団は各門の前の橋を越え皇居の門にゆっくりと接近しだした。
「止まれ。射殺するぞ。」
あちこちで声が響きだした。
泉は無線に向かっていった。
泉「橋の中間を越えたら発砲を許可する。射殺もやむを得ない。」
無線からはしばらくの沈黙ののち「了解」という返事が続いた。
後藤「ヘリに乗り、内閣府に向かう。黒服の集団が内閣に向かった以上桑たちもいることに賭けるしかない。」
特殊作戦群の面々と榊原は一斉にヘリに向かった。
ヘリに搭乗が完了したとき、発砲音も響きだした。
後藤「はじまったか。」
榊原は皇居にのこる泉に無線を繋げた。
榊原「泉さん、状況は?」
泉「・・・当たっているはずだが、敵は倒れずに接近してきているそうだ。」
制服を人形に着せて掲げるといっきに黒服側の発砲が集中した。
泉「制服人形が消えた。・・・間違いない。敵は制服と・・・攻撃してくるものに反応して攻撃してきている。」
特殊作戦群の面々も制服を脱ぎだした。
後藤にも着替えるように促したが後藤は首を横に振った。
榊原「・・・わかりました。第二段階発動。後藤さん」
後藤のうなずきとともにヘリは上昇した。そして、各橋に向かってヘリに搭載されているミサイルを発射した。
各地に響く爆音を確認した。榊原はサーベルの柄を持ち泉の返答を待った。
泉「敵の落下を確認。これで時間を稼げる。行け!」
ヘリは内閣府へ急いだ。
内閣府上空に着くと黒服の集団がすでに侵入しているようだった。桑側の部隊の姿が見えなかった。
榊原「奴らも私服で戦っていたはず。まさか・・・消された?」
誰も反論しなかった。
黒服の集団は銃を上空に向けているが不思議と攻撃してこなかった。
後藤「敵の意図が分からんが・・・降下作戦を開始する。榊原も後から続け。」
榊原はうなずいたが汗が止まっていなかった。
内閣府の屋根に続々と到着したが、他の面々をさけるように後藤に向かって敵の攻撃が集中していた。
榊原「後藤さん、制服を脱いでください。」
後藤は静かに言った。
後藤「私は出向しても警察官だ。今更脱ぐことはできんよ。それに・・・この数だ。時間稼ぎが必要だろう?」
特殊作戦群の面々も驚いた様子だった。
後藤「早くいけ。長くは稼げないぞ。」
榊原は後藤と握手をした後、サーベルを抜いて内閣府庁舎内に突入した。
後藤「・・・・カッコつけちまった。・・・かかってこい。警察なめんな!」
一人笑いながら発砲を続けた。
庁舎内は静かだった。気配の感じない庁舎内を慎重に進んでいると、広間で黒服の集団に遭遇した。
榊原「諸君らの指揮官に会いたい。それにここにいたはずの者達の行方をしらないか?」
黒服の集団は微動だにしなかった。誰も動かないなか隊員の一人が銃を構えた。
「ターン」
発砲音が響き何かが落ちる音がした。
振り向くと先ほど銃を構えた隊員の姿が消え、銃だけが落ちていた。
榊原「・・・走れ。敵中を突破。活路は走りながら見つけるぞ!」
全員が走り出した。
発砲音と共に一人、一人と消えていく隊員たちを背に榊原は走り続け数名の隊員とともに地下に続く階段にたどりついた。
榊原は息を整えて言った。
榊原「進もう。」
隊員たちも静かにうなずいた。
榊原たちは慎重に地下に向かった。暗闇だったが黒服の集団は見当たらなかった。
地下に着くと、扉があった。
榊原「ここは・・・?」
隊員「極秘の緊急時の避難・指令室です。」
榊原「まぁ、あって当然か。・・・扉を開けてくれ」
榊原はサーベルを構えた。
扉が開くと声がした。
「誰・・・・だ」
薄明りの光る場所に着かずくと桑が座っており、黒服の男が一人立っていた。
榊原「貴様ら、仲間割れか?」
桑「そんなわけないだろう?」
力弱く答える桑の声は余裕を感じることができなかった。
榊原は黒服の男にサーベルを向けて言った。
榊原「貴様らを逮捕する。武器を捨てよ。」
黒服の男は静かに目線だけを榊原に向けた。しばらくの睨みあいのような時間が過ぎた後黒服の男は話し出した。
黒服の男「我々は日本のあるべき姿を問う為に行動した。我々はこの国の為にたたかってきたが、こんな未来の為ではなかった。その根源となっている場所を消してまわっていただけだ。抵抗するものは問答無用で消したがね。」
無機質に話す男の話の内容を頭で整理したあと榊原は言った。
榊原「消された人々も国の為に戦ってきた者達だ。」
黒服の男「この男もか?」
桑に視線が移った。
黒服の男「この男は私達を利用しようとした。まるで5.15、2.26事件の再来ではないか。この国に害するものは排除する。」
榊原「ではなぜまだ消していない?」
黒服の男は榊原に視線を戻し言った。
黒服の男「ここにたどりつく者に問う為だ。この国をどうしたい?」
榊原「・・・私は警察官であり、一人の公務員に過ぎない。しかし、様々な犯罪者を捕らえてきた。それでも捕まえられない連中もいる。今回の騒動をもとにそんな連中を一掃したい。これが私の国を守る戦いだ。」
黒服の男「職務に忠実で正直な男よ。それも一つの答えか。ではこの男をくれてやろう。この国がどう裁くか見てみたい。」
桑がこちらに投げ飛ばされた。
榊原「・・・これはありがたいが、貴様も逮捕する。艦隊の連中を含め投降せよ。」
黒服の男「・・・そのサーベルは皇宮警察のものか?」
榊原「・・・そうだが何か?」
黒服の男「・・・国を守る同士を消すことはできん。我々が消えるとしよう。」
榊原「何だと?」
黒服の男「また会うことがないように、頑張ってくれ」
黒服の男は敬礼をしたあと、風で流されるようにスッと消えた。
榊原「何がどうなっているんだ?」
投げ飛ばされて意識を失っている桑に手錠をはめ地上にもどると黒服の集団は消えていた。
無線を入れると艦隊も突然消えたとの連絡が泉から届いた。
泉に迎えのヘリを要請したあと、榊原は屋上に向かった。
屋上に人影は無かった。そこには後藤が使用していた拳銃と帽子だけが残っていた。
榊原「後藤さん・・・」
静かに涙を流す榊原の上空にヘリの音が近づいていた。
皇居に戻ると泉が敬礼して待っていた。
榊原「後藤さんを含め、多くの仲間を失いました。」
泉は何も言わなかった。しかし、目は赤くなっていた。
泉「・・・作戦中、沖縄を含めた在日米軍が無差別爆撃を決定。この連絡書によると各都市を木っ端微塵にして敵を排除する計画だったようだ。ロシア軍も大量の爆撃機が接近していたが米軍の動きをみて引き返したそうだ。」
榊原「危機一髪といったところでしょうか?」
泉「犠牲が大きすぎる気がするがね」
悲し気に笑う泉に榊原は声をかけられなかった。
泉「桑を捕らえたのだろう?どうする?」
榊原「私の仕事は捕らえるまでです。判断は法律が行う。」
泉「それもそうだな。・・・君が戻るまでに陛下に事態の推移をお話した。陛下の名のもとに臨時の政府を設立する。制度を作り直した後、改めて選挙などを実施し新政権に国政を委ねることになった。」
榊原「・・・陛下が実権を握るのですか?」
泉「そうではない。あくまで移行期間だ。陛下の名で動くことがこの国の再起につながる。そうだろう?」
榊原「・・・わかりました。」
泉「・・・国防を少しだけ米軍に託して休もう。」
榊原「・・・私も疲れました。」
二人は静かに笑った。
数日後、臨時の拘置所に榊原は来ていた。
面会室に桑が連れてこられた。
桑「誰かと思えば君か。」
榊原「少し聞きたいことがありまして。」
桑「質問には答えよう。その前に私の質問に答えてくれ。」
榊原「・・・いいでしょう。」
桑「各地を襲撃していた民衆はどうなった?」
榊原「・・・各都道府県警が捕らえました。それ以上は答えられません。」
桑は何か考え込んでいるようだった。
榊原「・・・私の質問に移っていいですか?」
桑はうなずいた。
榊原「・・・あなたに捕らえられたとき、事態をわかっているように感じました。私の気のせいでしょうか?」
桑はにやっと笑って言った。
桑「国家機密だ。裁判になっても黙秘する。最後までな。」
榊原「・・・わかりました。では最後に一つ。あなたの計画には逮捕されるまでが含まれていたのでは?」
桑は真顔に戻っていた。
桑「なぜそう思う?」
榊原「あなたの計画は完璧なところとずさんなところがありました。わざと弱点を作っていたのでは?例えば私が防衛省に捕らえられたとき、逃げられたのにも疑問がありました。」
桑はしばらく目を瞑り言った。
桑「・・・私の計画は国民の目を覚ます為のものだった。そして、私を止めることができる人物たちも必要だった。最後は黒服の連中が予想外の行動をしたが、国が変わってくれれば計画は成功だ。」
榊原「私はまんまと配役されたのですか。
・・・内閣府に江藤一尉の遺体がありました。これも計画ですか?」
桑「計画を止めてはいけないときに奴が動こうとしたのでな。」
榊原「・・・殺人を含め、あなた方一派は法律で裁かれることになるでしょう。裁判は傍聴します。」
榊原が立ち上がったのをみて桑は言った。
桑「すべて私が計画したことだ。暴徒は穏便に裁いてほしい。」
榊原は悲しそうに言った。
榊原「法律によって裁かれる。法治国家の前提です。」
榊原は留置所をあとにした。
少しして、皇居では鎮魂の特別な儀式が行われていた。
儀式が終わった後、榊原と泉は話していた。
榊原「結局あの艦隊や黒服の連中は何だったのでしょうか?」
泉「亡霊と一言で言っていい相手ではなかったな。」
榊原「鹿児島での無差別爆撃も気になります。」
泉「・・・厳密にいうと無差別ではない。」
榊原「どういう意味ですか?」
泉は耳元に小声で言った。
泉「・・・爆撃で消えたのは潜入していた各国のスパイや武器を持った人間だったそうだ。」
驚きながら榊原は言った。
榊原「無防備な人間は消えていなかったのですか?しかし、どこからその情報を?」
泉「あの地下では様々な情報が集まるようにしただろう?今言えるのはそれだけだ」
榊原「大久保に連絡を・・・」
携帯電話を取り出そうとした腕をつかみ、泉は無言で首を振った。
その行動が何を意味しているのか、榊原には判断がつかなかった。
この物語は一つの答えである。だが、答えの一つに過ぎない。




