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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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1-4

 村の入り口に座り込んで、メラはぼんやりと少年の帰りを待った。

 魔獣の死体はすでに片付けたため、今はもう普段通りの風景が広がるばかりである。

 十三体、その全てが綺麗に心臓を一突きにされていた。身のこなしとあの殺傷痕を鑑みるに相当な手練れであり、そこに年齢を加味すれば完全な訳ありと考えるほかない。よそで幼少期から冒険者をやっていたが、なにかやらかして町を追われたのだろうか。その割には品の悪さや精神の屈託は感じない。実際に、この村でも人に危害を加える様子は見せなかった。

 取り込むにはあまりにも怪しすぎる。しかしみすみす逃すにはあまりにも惜しい強さでもある。刃向かわれたら己なぞ一瞬でこの世を去る羽目になるだろう。それ自体は構わない。どうせ田舎に飛ばされ続け、適当に仕事をこなしながら食い扶持と寝床を確保して終わる人生だ。問題は周囲に、このソルミラ村の住人たちに危害が及ぶかどうかだろう。

 背後から近寄ってくる足音にメラは振り返る。先ほど会ったばかりの、配達所の従業員であった。

「あ、さっきの速達なしで」

 魔獣は駆除されたのだから再依頼を出す必要はない。メラは慌てて彼を呼び止めた。

「え、そうなの? ラッキーだなあ。行かなくて済むや」

 彼は鞄から先ほどの封書を取り出し「はい」とメラに渡してくる。そうして目が合うなり不思議そうに小首を傾げた。

「あんた、えらい怖い顔してるぞ。大丈夫か?」

 すみません、と小さく謝ってから、メラは意図的に笑顔を作る。

「今後は仕事減るかもしれませんよ」

「本当? そりゃ僥倖」

 と呟いて彼は来た道を引き返していった。どうやら村外への配達物はこれのみだったらしい。その背が見えなくなったところで、メラはため息を一つつく。そしてその場へもう一度座り直した。


 オレンジ色の陽が四分の一ほど地に隠れたころ、やっと少年は戻ってきた。入り口で待っているメラを見て「往復はしんどいね」と笑う。その口ぶりとは裏腹に、その顔に疲労は見られない。

「あの魔獣はうちで駆除依頼を出していたんだ。あの四人はそのために来た外部冒険者だった」

「そうなんだ。大人しい人たちだったよ」

 それはお前が強いからだよ、とメラは心中でツッコミを入れる。あの戦い振りを見せつけられてはあいつらも悪い態度はとれないだろう。しかし口には出さずに話を続けた。

「倒したのはお前だから、報酬を渡さなきゃいけない。それで戻ってきてもらった」

「なるほどね」

「まあ本当は、お前自身に先に受注をしてもらわなきゃいけないんだが、まあ今回はよしとしよう」

 それでお前、とメラが続けようとしたところ、少年は「セルペ」と返してきた。

「セルペだよ」

「……それでセルペ、冒険者の経験は?」

「ないよ」

「家は?」

「ない」

「……家族は?」

 それもない、とセルペはあっけらかんと言う。メラはその目をじっと見た。やはりそこには劣等感や気まずさ、後ろめたさを見いだすことはできなかった。

「この町で冒険者をやらないか? 専業が一人もいなくてな。ああして外部から呼ぶしかないんだ。旅費も出さなきゃならないから、金が掛かってしかたがない」

「それは、ここに住むってこと?」

 ああ、とメラは頷く。すかさず「嫌か?」と尋ねれば、セルペは首を横に振った。

「いいよ。俺、この村嫌いじゃない」

 海もあるし、ご飯も美味しかったから、とセルペは笑う。

 過去は後から探ればいい。せっかく強い冒険者がこの村にやってきたのだ。それ自体は間違いなく喜ばしいことである。

 さて、と呟いてメラは腰を上げた。「帰るか」と促すも彼はメラを見下げたままぼけっと突っ立っている。

「なんだ」

「やっぱりちっちゃいよねえ、メラさん。立つとびっくりする」

「野宿がいいか?」

「やだ。泊めてよ」

 人なつっこい声でそう言いながら、セルペはメラの後に続いてギルドへと戻った。

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