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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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5-13

 王宮前面の巨大なバルコニーは演説のために設置されている、と言っても過言ではない。王女ロッチャが今そこに一人で立っていた。半年前にやっとの思いで持ち出し、背負った荷物に入れてここまで運んできたティアラを被り、先ほど大慌てで探し出した一着のドレスを身に纏っている。傷から血が滲まぬよう、その下には大量の布が詰められている。しかしそれを知っているのは王女本人を含めて七人だけであった。セルペとメラ、そしてゼンゼロ率いる冒険者四人衆である。

 ティーモ、クルクマ、ラメリーノ、そしてゼンゼロの四名が研究所最奥にたどり着いたのはコッコが死亡からすぐのことであった。大量の新人類を引きつけていてくれた彼らは、それらが一斉に事切れたことで勝利を知ったらしい。見るからにズタボロで満身創痍、といった具合であったが、四人揃って現れた瞬間、セルペは思わず泣きそうになった。しかししんみりしている時間はなかった。冒険者四人衆の魔獣化を解いたのちメラとロッチャの応急手当を施し、その後は早急に研究所から王宮へと戻った。全ての新人類は死んだ。それはつまり王宮内だけでなく、王都、そしてラディヴィータ王国全土の新人類が地に伏せたことになる。

 新人類の死体が転がる王宮内を漁り回って、セルペたちは一着のドレスと装具一式を見つけ出した。王女の魔獣化を解きそれを着せる。とはいえドレスの着付けをしたことがある者などいるはずもない。バルコニーへ続く部屋の中で、野郎五名は王女の指示に従いひたすらもたもたとドレス相手に格闘をしていた。爪でドレスを裂きそうだから、という理由で戦力外通告を受けたセルペは、手持ち無沙汰にひたすら外を眺めて待った。

 げっそりとした五人と対照的に、様になった王女ロッチャを見てセルペは笑った。

「お待ちかねだよ」と外を指で示す。王宮の異変を感じ取っていたのだろう。そして街に蔓延っていた新人類が一斉に倒れたのを見て、人類たちは悟ったらしい。身なりがいい、とはとても言えない。くたびれ、薄汚れた格好をした者ばかりである。しかしそこに集う沢山の人々は、みな希望を持った目でバルコニーを見上げていた。

 外から見えないよう、六人は部屋の隅へと下がった。王女がバルコニーへ踏みだし、彼らはその姿を目視するとともに歓喜の声を上げる。六人は静かに、じっとその声を聞いていた。暫くずっとそうしていた。

 やがてセルペは「みんなも外に出たら?」と五人に提案する。

「俺はこんな魔獣混じりのなりだから無理だけどさ。国を救った勇者なんだから、みんなも王女様と並んで顔見せすれば……」と言いかけたところでセルペは言葉を止める。五人とも苦笑していた。無理に決まってんだろ、と答えたのはメラだった。

「俺たち全員真っ裸じゃないか」

 名声より服が欲しい。ちょっと遠い目をしながらメラがそう続けるので、セルペは笑いながら周囲を見回す。魔獣化最大の欠点は間違いなくこれだろう。でもこの研究も破棄するので、彼ら五人が最後の犠牲者である。

 セルペは外の人たちから見えないようにそっと壁沿いに窓へ近づき、端に纏められている真っ赤なカーテンを引き裂いた。

「とりあえずこれで我慢してよ。マントみたいでかっこいいよ」

 メラの背にぐるりと回し、それを掛けてやる。「そうだな」とメラも笑った。外ではまだ鬨が上がっている。悪逆非道の女王による統治の終わりを告げていた。

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