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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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39/44

5-9

 王都が見えてきたのは、翌日の昼過ぎであった。

「では各自分かれて潜入、の前にこれを渡しておこう」

 急に立ち止まったペスカは、ポケットから人数分の小袋を取り出した。紐がついたそれを、魔獣化組の首へ一つ一つ提げていく。そしてセルペには袋ではなく、むき出しのそれを直接差し出した。アンプルである。中には真っ赤な液体が入っていた。セルペにはそれが血液にしか見えなかった。

「……これは?」

「王族の血液だ。君たちの袋の中にも同様のものが入っている。あの日、研究所から持ち出したものだ」

 やっぱり血じゃん、と思いつつもセルペは受け取る。

「王都での研究に移ってから成果が飛躍したのは、王族による血液提供があったからだ」

「うん。前に聞いたことあるよ」

「あれは核に吸わせていた。核はこのコンテッラ大陸で生成され、千年以上も大地の中で育まれたものを発掘したのだ。この地と大きく結びついている王族の血は、核にとって母親の血液と同意義だ。核はこの血を拒否しない。必ず体内へと受け入れる。つまりこれが付着していれば攻撃が通る。核を破壊する際は、これを爪なり牙なりに塗ってくれ」

 なるほどね、とセルペはアンプルを軽く振ってみる。特に変哲のない血液にしか見えないが、そう言われては大切に持つほかないだろう。ポケットにしまったのちペスカを見た。セルペの行動に、満足げに頷いている。

「ではそれぞれ持ち場に分かれて潜入だ。各自が、自身の役割を全うしてくれることを祈っている」

 解散! とペスカが言い切ると同時に、五体の魔獣がそれぞれの方向へ駆けていく。その背を見送ってから、ペスカは「我々も行こうか」と笑った。


 セルペとペスカは二人揃って街の中を堂々と進んだ。ただしセルペはその手に縄を持っており、その先はペスカの両手首を縛り上げている。数歩後ろをきちんと着いてきていることを認識しながら、セルペはときおり周囲を観察した。前回、書類を提出しつつメラを探しに来たときから大きな変化は見受けられなかった。相変わらず人間は道の端を縮こまって歩き、中央を新人類が我が物顔で闊歩している。この半年で気がついたが、新人類はどうにも態度が好かない。道中の街でもそうだったが、すれ違うたびに値踏みするように視線を寄越すヤツがあまりに多い。彼らの体制を迎合していない、という後ろめたさと合わさってとにかく居心地が悪い。しかしそれを表に出すわけにはいかない。とにかく平然とした態度を心がけながらセルペは真っ直ぐ王宮を目指した。

 塀の前にいる門番の一人に番号と管理している村の名前、そして用件を伝えた。自称、女王陛下への謁見の申し込みである。門番の新人類はやはり嫌な、値踏みするような目でセルペを見た。次に後ろのペスカを目視し、一度中へ引っ込んでいく。暫くして入場の許可が出た。近衛に連れられてたどり着いた部屋はそれなりの広さをしていた。武装した新人類が出入り口側に四名ほど立っている。それ以外にも十名ほどの新人類がいた。彼らはセルペ同様、武器も防具も身につけていない。おそらく謁見希望者の待機部屋なのだろう。人間は一人もいなかった。そのせいか、入室と同時にセルペとペスカに視線が集中する。それを無視して空いている隅の椅子に腰掛けた。ペスカは隣へ座らず、無言で斜め後ろに立っていた。

 ここまであっさり通されると予想していなかったため、正直に言って拍子抜けである。謁見申し込みを突っぱねられたときは門番相手にごねようと、あれこれペスカと問答を準備していたのだが不用だったらしい。

 そしてこれだけ前に待っているなら、時間も充分に稼げそうだ、とセルペは胸をなで下ろす。謁見前に他の五人が核を見つけて破壊してくれるのが一番いい。最低でも王宮内への潜入を終えていてくれなくては困るのだ。

 一人につきどのくらいかかるのだろう。次に呼ばれる人と、その次が呼ばれた時間で推測できるな、なんてセルペはのんきに思案していた。しかしその考えは裏切られる。呼ばれたのはセルペであった。事前に待っていた十数名を飛ばして最速で案内される。やばい、と思ってペスカを見るがここで会話をするわけにはいかない。他の五人は間に合うだろうか、と不安を抱えたまま、セルペは四人の近衛に囲まれて王宮内を進んだ。

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