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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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5-8

 冒険者四人は戦々兢々、といった様子だ。翌朝である。ではこれを、とペスカから渡された魔獣化器具をそれぞれ手にしている。

「では順番に装着していく」と宣言され、彼らは青い顔で静かにしていた。セルペには当然不要の代物であり、特に手伝えることもなさそうである。セルペはメラの隣へしゃがみ込んだ。この状態のメラを連れて行くことはできない。しかし一人で残すのも、昨日と同様の理由で嫌だった。だからペスカが二人留守番、と言ったとき、セルペは安堵した。メラさん、と呼びかけるも、その顔は上がらない。だけど多分、声は届いている。昨日一回だけ喋ったし、と思いながらセルペは意図的に笑顔を作った。

「行ってきます」

 やはりメラは反応を示さなかった。

「戻ってくるからね」とセルペは続けた。そのまま暫く隣へ座っていた。


 元から魔獣化していたチリエと、魔獣化した冒険者四名、そしてペスカとセルペは旧研究所を出立して、王都を目指した。

 魔獣化組は野宿、ペスカとセルペは中継地にある村や町の宿を利用した。当然部屋は一つである。人間のためにわざわざ一室用意してあげるような感性を、新人類は持ち合わせていない。変なヤツと噂がたつのは避けたかった。出立から数日後、明日には王都にたどり着く距離まで、一行はトラブルなく到達した。その日の晩、それなりに大きな街で宿を取った二人はその部屋に通されてやっと気を抜いた。ここまで来ると新人類の数もかなり多くなっている。街中を普通に闊歩しているものだから気が休まらなかったのだ。

 入室とともに手前のベッドにダイブしたセルペは、そのままゴロゴロと体と精神を休める。隣のベッドに腰掛けたペスカが「落ち着いているな」と話しかけてきた。

「不安だよ。メラさんも、ソルミラのみんなも大丈夫かなあ」

「そっちの心配か」

 セルペは躊躇いなく「うん」と頷く。ペスカが「私の作戦に不安は?」と尋ねてくるので、セルペは少しばかり悩んでから返答した。

「ゼンゼロも言ってたけど、乗っかる以外の選択肢がないんだよね。解決したいとはちゃんと思ってるんだ。ペスカさんの話を蹴ったところで、自分で奪還方法を考えて仲間を集めて……って、できる気がしないからね」

 でも早急すぎない? とは思うよ、とセルペは続ける。

「本当にこの少人数でいけるの?」

「正直に話すと、成功率は高くないと思っている。だけど時間がかけられないんだ」

「向こうに勘付かれるから? 出発の前の日に言ってたよね」

「あれは方便だ」

「……そうなの?」

 セルペは思わず上体を起こした。ペスカはこちらを見ていない。ただじっと、真顔で壁を眺めている。

「共生化は周囲の魔獣の凶暴化を抑制する。反対に、人間化は凶暴化を促進する。君も知っているな?」

「……うん」

「魔獣化だけが無影響だと思うか?」

 セルペは返事ができなかった。考えたことがなかったからだ。しかし言われてみればそうだ。魔獣化器具、およびその核と魔岩だけはなにも引き起こさないと考えるのはあまりにもおかしい。

「人間の内臓、主に消化器官を蝕む」

 セルペはとっさに手を伸ばした。少しばかりの理性で爪こそ立てなかったが、ペスカの首を肥大化した片手でしっかりと掴む。

「なんで言わなかった?」

 器具が周囲に影響を与えるのは、それについている魔石が増幅装置となっているからだ。元の波長は魔岩の中央にある核が発している。人間化の魔岩は、あの旧研究所の地下にある。到着した日にペスカ自身がそう語っていた。

「そう急激に影響が出るわけではない。しかし私もメラ君も、生まれてからの十数年をあの地で過ごしている。全ての研究を破棄すると言ったはずだ。共生化も人間化も、そして魔獣化もだ」

 早急に終わらせよう、とペスカは続ける。

「私も彼も、そう長くは持つまい」

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