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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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5-7

 無事四人の冒険者を確保した一行は、真っ直ぐ旧研究所へと戻った。道中に彼らの名を聞く。親分がゼンゼロ、残りの三人はそれぞれティーモ、クルクマ、ラメリーノと言うらしい。会話はそれだけだった。雑談を躱すような和やかさはなかった。

 研究所内の様子は出立時から何ら変わりない。メラは朝と同じ位置に無表情で床に腰を下ろしており、その傍らには魔獣化の一人が座っている。

「無事捕まえたよ」とその二人に向かってセルペが報告する。後ろから着いてきた子分三人が、こそこそと「……ソルミラのギルド長じゃね?」と囁き合っていた。

 とりあえず冒険者四人を座るように促したのち、ペスカは「では早速君たちに説明しよう」とその前に仁王立ちした。

「こいつは何なんだよ」

「王都の魔獣研究者だよ。共生化とかやってた人」

 親分ゼンゼロの疑問にセルペが答えてあげたところ、冒険者は四人揃って露骨に嫌そうな顔をする。人間から見たら悪夢のような現状の元凶である。しかしペスカは気にする様子もなく話し始める。

 共生化、人間化、そして魔獣化の説明と現状、そして魔岩の核を打ち壊して国の奪還をもくろんでいることもしっかりと打ち明けた。

「というわけで君たちには勇者になってもらいたい」

「勇者だあ?」

「そう勇者だ。国を乗っ取った魔獣を退治する。冒険者として最高の名誉だ。王都の一等地に君たちの銅像や石碑が建つだろう」

「いらねえだろそんなの」

「うわしゃべった!!」

 急にメラが呟いたものだから、手下のうちの一人、ラメリーノが肩を跳ね上げている。当然セルペも同様に驚いていた。再会してから、声を聞くのは初めてだ。一方ゼンゼロはそれを気にする様子を見せず、ただじっと考え込んでいた。

「どうするんすか、親分」

「死ぬまであの洞窟で原始人みてえに生きるか、こいつらと一緒に王宮の化け物をぶち殺しに行くか、ってことだろ?」

 まあ、前者よりマシだろうな、と親分は言った。

「分かった。協力してやる。お前らじゃあ到底勇者にはなれそうにねえからな」

「えー、そう? 結構いいメンバーじゃない?」

 セルペが横から茶化してみると、彼は「どこがだよ」と否定した。

「魔獣二匹に化け物、抜け殻みてえなギルド関係者に全裸の研究者だぞ?」

 順々に親分は指で示しながら言ったが、最後に指されたペスカはむっとした表情で反論する。

「服はある」

「じゃあ着ろよ」

「出立時には乾いていなかった」

「流石にもう乾いてるんじゃない?」とセルペが言うと、ペスカは「確認してくる」と外へ出て行った。彼の背、と言うかむき出しの尻が見えなくなるころ、親分ゼンゼロはちらりとメラを見た。

「こいつ、大丈夫なのかよ」

「疲れちゃったみたい。休憩中だよ」

 そうかよ、とだけ言って、ゼンゼロは口を閉じた。


 着衣しているペスカを、セルペは初めて見た。どうやらやっと乾いたらしい。僥倖である。全裸時と特に変わらぬ表情で、スタスタと全員の前に戻ってきたペスカは一度咳払いをした。

「というわけでこのメンバーで王宮へと攻め入る」

「え、もう? これだけで?」

「ああ」

 真剣な顔で頷くペスカに対して、冒険者四人は盛大に抗議の声を上げる。セルペもその早急さに驚愕しながら「いくら何でも心許ないよ」と加わる。

「正面を切って、真っ向勝負を仕掛ける気はない」とペスカはきっぱりと言った。

「まず、新人類を相手にするには人間の姿のままではほぼ不可能だと言ってもいい。よって君たち四人は魔獣化してもらうが、この器具はそう短期間で量産できる物ではない。ここからさらに協力者を増やしたとして、堂々と王宮に攻め入るだけの人数分を用意するなら早くても月単位、下手をすれば年単位の時間が掛かるだろう。戦力が増える、時間をかける。これはどちらも相手側に勘付かれる確率が上がる。そして大規模になればなるほど、犠牲者も増える」

「この作戦が失敗しても、人間側の死者は最大でも一ケタで済む、って話をしてる?」

「その通りだ。少人数で忍び込んで、魔岩の破壊のみを狙う」

 とんでもない人だな、とセルペは思う。世間ずれしていることは昨日から薄々察していた。人間を数のみで計算する面は批難されるだろう。しかしそこには彼自身も含まれている。じゃあ自身を含めているから許されるのか、と言えばそれはまた別の話だ。人間社会において、彼はどう評価されるのか。セルペはそう考えたが、現在のコンテッラ大陸では人間社会そのものが崩壊している。彼の思想や発案を倫理的に説き評価する社会は存在せず、それが行われる可能性があれば、それはこの作戦が成功し人間が社会を取り戻した後だ。

「というわけでこれが王都の地図だ。全員頭にたたき込んでくれ」

 ペスカは大きな地図を近くの壁に広げて掲示した。かなり細かく記載されたそれには、建物や道を表す図面とは別に六本の線が引かれている。それは王都の外側から、複雑な道筋を描いて王宮へ繋がっている。これがそれぞれの侵入ルートらしい。誰がどのルートで行くのか、ペスカが指定し一本ずつ詳細を説明していく。王都に住んでいただけあって実に詳しく綿密な解説であり、そして冒険者四人も真剣な顔でそれを聞いていた。危険性と成功率の低さは、彼らも察しているのだろう。そして全てのルートを解説し終えたペスカは、もう一枚の地図を隣へ貼った。

「そしてこちらが王宮周辺とその内部の地図だ」

 そこまで用意してあるのか、と感心しながらセルペは張り出されたばかりの地図を見る。外壁にある正規の出入り口や敷地内の建物の配置はもちろん記載されているのだが、それどころか王宮内の全間取り、そしておそらく緊急時用に作られたであろう隠し通路や隠し部屋まで詳細にその地図には描かれている。セルペは政治に、階級に、王都で行われていた複雑な争いに疎い。それは冒険者たちも同じだろう。それでもこの異常さは一目見ただけで理解できる。王都で魔獣実験に携わっていた研究者としか聞かされていないのだ。セルペと冒険者四人は、認識するなり悲鳴に似た声を上げながら各個現状の説明を求め出す。

「なんでそんなものがあるんだよ!」

「どこ情報だよ!」

「お前マジで何者だよ!」

「その地図の信憑性は?」

「怖すぎるだろ俄然降りたくなってきた」

 その全員に向かって、ペスカは「静粛に!!」と手を叩く。

「王宮が陥落してからどれだけの時間が経過したと思っている。我々も無意味に王都周辺をうろうろしていたわけではない。この程度は調べがついている」

 堂々と言い張られたところで「はいそうですか」と納得はできない。子分のうちの一人、クルクマが「親分どう思う?」と小声で様子を窺いだした。

「……乗っかるしかないだろ。信憑性があろうがなかろうが、他の選択肢がねえよ」

「では説明を続けよう」

 ではじゃないよ、とセルペは突っ込みたかったが、言ったところで流されるのがオチだろう。つらつらと王宮侵入後の各自の動きを説明しだすペスカの言葉に、しっかりと耳を傾けることを選択した。


「以上が作戦内容と各自の動きだ。理解できただろうか」

 説明を終えたペスカは六人へ問う。

「作戦の内容は分かった。けど、地図と道順を暗記する時間はちょうだい。まだ覚え切れてないよ」

 右に同じ、と冒険者四人が同意する。他には、とペスカはまた意見を求める。次に口を開いたのはゼンゼロだった。

「ギルド長と魔獣一匹が作戦に入ってねえな」

「彼らは留守番だ」

 ゼンゼロとともに、セルペはまたちらりとメラを見る。先ほどやっと喋ったと思ったが、やはりメラはじっと地へ視線を落としており、その目にはなにも映っていないように見える。その隣には、朝にも留守番を買って出てくれた魔獣化のその人が未だ座り込んでおり、セルペと親分に向かって一吠えした。

「明日の朝出立する。それまでに各自、地図と作戦を覚えてくれ」

 分かった、とメラ以外の全員が頷く。王宮陥落、そして国家転覆から半年、たったの二日で集められた七人でその奪還作戦は決行されることになった。

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