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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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5-5

 その後、ペスカは「周囲の様子を確認してくる」と魔獣化しているうちの一人を連れて旧研究所を後にした。彼の名はチリエと言うらしい。魔獣の姿では会話ができないので、ペスカが教えてくれた。そして翌朝、またしても散策へ向かったらしい。セルペが起床したときにはもう、魔獣化したチリエの姿は見当たらなかった。ペスカは残っており、今後の予定だが、と話し掛けてきた。

「近くの村を確認したが、案の定新人類が管理しているようだった。もう少し戦力が欲しいのだが、住人に話し掛けるのはリスクが大きい。よって、村の外にいる人間を取り込みたい」

「村の外?」とセルペは疑問を呈した。

「そんな人いるの?」

「いる。少なくとも王都周辺には二種類いた」

 冒険者と、元共生免許持ちだ、とペスカは説明を始めた。

 腕の立つ冒険者はあの日、凶暴化共生魔獣からも新人類からも逃れて、野宿状態で生きている者もいる。こちらは新人類側も警戒していた。元共生免許持ちは、あの日以来人間側からの迫害を受けるようになっている。新人類による人間登録が行われるよりも先に、居場所がなくなって街や村の外に逃れている。とはいえ戦いの心得はないので、その後野生の魔獣に襲われて死んだ者も多い。

 後者は戦力としては期待値が低いが、明日すら碌に生きられるか分からない状況にいる者が殆どだろう。手を差し出せば簡単に協力を得られる可能性が高い。

 前者を狙いたいところだが、党類を組んでいる上に新人類に対する敵対心が強いものが多いだろう。セルペ相手では襲いかかってくる可能性が高く、交渉も難易度が高い。

 ただし取り込めば戦力としてかなりの期待ができるはずだ。


 という説明を、セルペは真面目に聞いた。二十年以上も放置されていた旧研究所は、踏み入ったときよりほこりっぽさがマシになっている。昨日、彼らが外回りに出て行ったのちに手持ち無沙汰だったセルペが掃除をして回ったおかげである。その後小動物数匹と魚も取っておいたのだが、彼らも帰りに調達してきたので食料は十分である。そんなわけで適当に焼いた肉を食べながら三人と一匹で旧研究所内で留守番していた。メラの様子は相変わらずである。食事を差し出したところ一応食べてくれたのでまあよしとした。

 外回りに行っていたチリエが戻ってきたのはそれから数十分後のことだった。

「報告を頼む」

 そういってペスカは大きな布を持ってきて床へ広げた。そこにはコンテッラ大陸全土で使われている文字が書かれている。昨晩、なにやら一人で作業をしているなあと眺めていたがどうやらこれだったらしい。チリエはその上を歩き回りながら、四本足のうちの一本でポンポンと文字を示していく。ペスカとともにそれを真剣に眺めていたセルペだが、横に座るメラはやはり視線を向けていなかった。それに気を取られているうちにペスカが「なるほど。では一度そこへ向かおう」と言い出す。

「ごめん見落としちゃった。説明して?」とセルペが申し訳なさそうな顔を作ると、ペスカは嫌な顔をするでもなく彼の話を反復しだす。

「南西の山の中腹に冒険者が四人潜んでいるらしい。言葉遣いは荒く、品はない。会話はギスギスとしており精神的に余裕がなさそうな雰囲気らしい。現状に耐えられない者がいるのだろう。交渉の余地があるかもしれない」

「なるほどね。じゃあ行ってみようか」

 とセルペが肯定すると同時にメラ以外の全員が立ち上がって出口へと向かって歩き出す。セルペは慌てて三人を止めた。

「メラさんを一人にしちゃだめだよ。危ないでしょう? ここの周囲にだって野生の魔獣がいるんだから、忍び込んできたらどうするの」

「戦力不足で向かって無駄足になるのは避けたい。相手は四人だ。護衛に人数を割く余裕はない」

「じゃあ俺は行かない。三人で頑張ってきてね」

 そう言い切ったセルペは再度メラの隣へと座り込んだ。ペスカは無言だが、明らかに不満なオーラを放っている。あえて彼から顔を背けて、ギスギスとした空気の中でセルペも無言を貫いていた。やがて魔獣化したうちの一人、昨日からずっと旧研究所に残っていたほうがゆっくりと引き返してメラの隣へ立つ。

「残ってくれるの?」

 セルペに向かって一吠えしたのちちょこんとメラの隣へ座り込む。……ではお願いします、とペスカはやはり若干の不満を声に含ませつつも言った。

「案内を頼む」とペスカがチリエへ促して、三人で旧研究所を後にした。

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