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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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33/44

5-3

 目的を遂げたセルペは、彼を連れて早々と王都を後にした。それから四日が経過したが、極北のソルミラは遠い。健康な新人類であるセルペ一人でも、たどり着くまで何日も要する。メラのことは背負って移動していた。そもそもまともに歩こうとしないのだから仕方がない。それはそれとして、彼は調子もよくなさそうである。医療知識のある者に見せるべきなのは分かっているが、セルペの立場としてもメラの立場としてもなかなかに難しい。そして彼の精神面に関しても、回復の兆しはいっさいない。王都を離れたら多少マシになってくれないかなあ、とセルペが抱いていた淡い期待はすでに崩れ去っている。セルペとしては、聞きたいことが山ほどある。しかしメラは未だ会話のできる状況にない。彼の出自は以前聞かされた。そこから努力して、一生懸命に頑張った結果が現状である。そりゃ心の一つや二つ折れるだろう、とセルペは彼に同情していた。

 一刻も早くソルミラに連れ帰るのが彼のためだろう、とセルペは理解しているが、懸念すべき点が一つあった。

 今日も早朝に宿を出た。人通りが少ないうちに街を抜けてソルミラへの帰路を辿る。王都を離れるにつれ立ち寄る街は規模が小さくなっていき、道の整備も甘くなっていく。眼前は森だ。平坦なそこを抜けると小さな山に入っていく。今日中にこれを抜けて先の村にたどり着きたいんだけど、と考えながらセルペは背後の気配に意識を配った。

「ねえ、メラさん」と背に乗せている彼にだけ聞こえる声量で言う。

「ずっと着けられているの、気づいてる?」

 メラの反応はなかった。一人で対処するしかないか、と覚悟してセルペは息を吐く。大きさと気配からして新人類ではなく純粋な魔獣だろう。それが数体、それも王都を出たあたりからずっとである。野生の魔獣ならあり得ない行動だ。人間、ないし人間以上の頭脳を有する何かによる意図がなければこうはならないだろう。狙いが自身なのかメラなのか、どちらにせよ殺すことが目的ではないはずだ。両者を街中で殺害したとして、それを咎める存在はいない。堂々とやればいい。

 目的は読めないが、ソルミラまで着いてこられるのは嫌だった。あの村にどんな悪影響や害をもたらすか分からない。ここまでの街道は開けた場所ばかりだったが、この後は森と山であり、遮蔽物も多く魔獣もこちらに近寄りやすいだろう。仕掛けてくるならここだろうし、後手に回るのは得策ではない。やるかあ、とセルペは覚悟を決めた。


 森に入って二十分ほどが経過した。山に続く道こそ踏み固まっているが、周囲は見回す限り木々と草、あと露出部が苔生した岩しかない。森に入って以降、背後の魔獣たちは距離を詰めてきていた。おそらく相手は三体だ。それを認識しつつ、セルペは周囲の地形を確認しながら進む。メラを庇いながらの戦いになるのだから、長期戦は無理だろう。そして不確定要素は極力排除したい。四足歩行数体対二足歩行の二人だ。不利を避けるなら、注意すべきは足下だろう。落ち葉、浮き出た木の根、倒木や岩の少ない開けた場がベストだ。セルペがこの森を行くのは五度目である。検討はついていた。

 そこから十分後、もう使われていない小屋が見えてくる。薪割りや炊事を行っていたのだろう。小屋のすぐ脇は切り開かれたままであった。セルペは道を逸れて小屋の手前まで行く。

「ちょっとここで待っててね」と背負ったメラをそこで降ろした。彼に近寄らせないまま三体とも対処しなければいけない。気配からそれぞれの位置を認識して、一番近くにいる魔獣へとセルペは一気に距離を詰めた。力量が測れない以上、手加減をする余裕はない。一突きで殺すつもりで右手の爪を胴へ向かって押し出した。当然心臓に狙いをつけていたため、セルペはそこでやっとその存在を認識した。共生具、ないし人間化器具と同様のそれが魔獣の胸元に装着されている。しかし色はどちらとも違う。それは青だった。セルペの爪が届くよりも先に、魔獣は体をひねって大口を開ける。手を噛まれないよう、セルペは少しだけ右手を引いた。爪で受け止めて二撃目を左手で、と振りかぶった瞬間、右手の爪に衝撃が走る。そこで小さく、爆ぜるような音がした。途端にセルペの視界は煙に包まれる。煙幕か毒か、振りかぶった左手を戻して、セルペは慌てて口と鼻を覆う。どちらにせよ魔獣が用いる手段ではない。予想外の事態にセルペは後退した。煙から逃れたのち慌ててメラを確認する。魔獣のうちの一体が、彼の首根っこに噛みついていた。セルペが地を蹴るよりも先に、残った二体がその間に立ち塞がる。完全に失敗した、とセルペは歯噛みする。にらみ合うこと数秒後、奥の魔獣はメラの襟元に噛みついたまま動き出した。引き摺ってどこかへ連れて行こうとしている。残りの二匹はセルペへの牽制をやめない。状況はかなり悪いが、殺す気はなさそうである。相手の狙いが不明のまま、セルペはメラを、それを連れ去ろうとする魔獣三匹の後を追った。

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