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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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5-2

 新人類が少なく、そして人間も少なくなった地方とは違い、王都では地区別に管理者がいるらしい。そんなわけでセルペは八番街を管理している新人類へと挨拶に赴いた。ソルミラの管理者であること、若い個体が少ないこと、そして中央ギルドでここに非登録の若い個体がいると教えてもらったことを説明する。

「そんなわけでちょっと見させてもらいたいんですけど」とセルペがお願いすると、管理者である新人類は「なるほど」と頷いた。

「確かにちょろちょろして捕まらないのはいくつかいるんだけどね、傷物ばっかりだよ? 使い物にならなそうだし、そのうち野垂れ死にそうなのばっかりだから、躍起になって捕まえずに放っておいてるだけ。それでもいいなら好きにしていいよ。ただし登録済みには手を出すなよ?」

「はい。……ただ、区別する方法はありますかね?」

「登録済みは全部居住持ちだよ。外で寝泊まりしてる小ぎたねえのが非登録だ」

「なるほど。分かりました」

 では少しお邪魔します。とセルペは頭を下げた。


 きょろきょろと周囲を見回しながら歩くセルペとは対照的に、道を行く人間たちは暗い顔で必死に視線を地に落としている。関わりたくない、関わられたくない、という意思がどの人間からもひしひしと伝わってくる。半年前までセルペも彼らと変わらぬ容姿をしていた。未だにこの扱いには慣れない。しかし本当に辛いのは己ではなく彼らのほうだろう。心の中で謝罪しつつ、セルペは道行く人のうちの一人へ声をかけた。

「ねえ」と極力優しい声を心がけたが、びくりと大きく肩を跳ね上げたのちに向けられた顔は完全に怯え、引き攣っていた。

「非登録個体でよさげなのを連れ帰りたいんだけど、どの辺を探せばいいかな」

 その人は辿々しくも丁寧に説明してくれた。手と声が終始震えていたことに申し訳なさを感じながら、セルペは教わった二本向こうの通りへと向かった。

 他の人間化魔獣と同様、セルペの体もあの晩急速に魔獣へと寄った。現在、セルペの身体の九割は髪同様茶色の毛に覆われている。耳は完全に獣のそれとなり、やはりスタンダードな新人類同様手足が大きく変形している。とはいえ人間として生きたころの感覚が抜けず、衣服は上下ともに着用していた。着るときに上着の袖やズボンの裾を爪でよく割いてしまうのが最近の悩みである。靴はどうしても人間用ではサイズが合わないので、泣く泣く素足で過ごしている。都会まで行けば新人類用が作られているかと思ったのだが、どうやら素足派が大多数を占めているらしく皆はいていなかったので諦めることにした。

 そんなわけでこの体は不便な面も大きいが、当然利点もある。身体機能に関しては間違いなく向上した。純粋な筋力、腕力、膂力といったものも上がったが、視力や聴力、そして嗅覚も向上している。だから人捜しは以前よりずっと楽になった。

 路地裏に入ると空気が変わる。人の姿は視界から消えた。しかし先ほどとは比べものにならないほどの恐怖心と、そして隠しきれない憎悪がセルペの元までひしひしと届く。早めに終わらせたほうが良さそうだ、と察しながらセルペは嗅覚と聴力を頼りに散策した。ああ、ここか、とセルペが胸をなで下ろしたのは小さな袋小路であった。不自然に積まれたガラクタをセルペはどかしていく。中にいた人物を目視して、セルペは小さく声をかけた。

「生きてたんだね、メラさん。迎えに来たよ」

 メラは顔を上げなかった。セルペはしゃがみ込んで下からその顔をのぞき込む。己を認識しているはずがないのに、どうにも目が合うことはなかった。返事はない。それどころか反応を示さない。

「いつまでも帰ってこないから心配したよ。ちょっと見せてね」

 セルペはちょっと困惑しつつも現在のメラの様子を確認した。燃えるような赤い髪はそのままだが、綺麗に撫でつけられていたかつてとは違い無造作に伸びっぱなしだ。顔色も悪いし、元から細かった体はもはや完全にガリガリである。しかしそんなことは些末な違いでしかない。よく生きてたな、とその半身を見てセルペは感心する。上半身の左側、肩から先が完全に無くなっていた。心臓こそ外しているが、この怪我を負って失血死、そして感染症等を免れたのはもはや奇跡ではないだろうか。と同時にセルペは思わず「下手くそ」と零す。新人類にしては狙いがお粗末すぎるのだ。案の定トドメをさせていないのに、勘違いをして立ち去ったのだろう。

「とりあえずソルミラに帰ろうか。立てる?」

 セルペは、メラの残っている右腕を引いた。しかし相変わらず反応はない。腕はされるがままに持ち上がり、メラが言葉を発することも、視線をこちらに合わせることもない。随分と重傷らしい。セルペは来ていたジャケットをそっと脱ぎ、メラの頭に被せた。周囲に顔を見られないほうがいいだろう、と思ったのだ。肩を貸すような形で彼を立たせ、セルペはメラにだけ聞こえるような声で「ソルミラに帰ろう。みんな無事だよ。俺ちゃんと守ったよ」と伝えるも、やはりメラからの返事はなかった。

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