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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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31/44

5-1

 ここはかつて、中央ギルドと呼ばれていた。そして彼らは今、新人類と呼ばれている。受付カウンター内で仕事をしているのは、クリーム色の毛に覆われた、狼と人の中間のような見目をした生き物だ。その彼に会釈をしながら近づき、三枚の書類を重ねて差し出した。そして「お願いします」ともう一度頭を下げる。受付の彼は一枚目の上部を見ながら「ソルミラ支部ですね。遠路はるばるお疲れ様です」と言った。そのまま彼は一行ずつ、大きな爪で指しながら手元の紙を確認していく。

「セルペさん。番号は……一番!? 大先輩じゃないっすか! えーすげえ!」

 丸くなった目を急に向けられて、セルペは「いやあ」と苦笑するしかなかった。彼とそっくりの大きな爪で頬を掻きながら「古いから成長も遅かったし、地方でのんびりしてただけですよ」と謙遜する。またまたあ、なんて言いつつ目の前の彼は書類を一枚めくった。

「百二十四匹っすか。小さい村の割に多いですね。ちょっと近くに移してもいいですか? 山越えたパッセーラ村とか十数匹しかいないんすよ」

「年齢見てくださいよ。老体ばっかりですよ?」

「あ、本当だ。……これ繁殖できます?」

「微妙ですね。むしろ若い個体を余所から貰いたいくらいです」

「六十以上は潰しちゃってもいいですからね」

「……まあ、そこは追々考えます」

 具体的な話を詰められたらどうしよう、とセルペは内心身構えたが、所詮雑談らしい。セルペの提出した書類へ、彼は流れ作業のようにポンポンと印鑑を押している。

「じゃあ飼育登録はこれで完了です。このままとんぼ返りですか?」

「いや、せっかくだからちょっと観光でもしていこうかなって」

「ソルミラってセルペさんしかいませんよね? 大丈夫なんですか?」

 うん、とセルペは大きく頷いて見せた。

「うちのはみんな大人しくて従順だから」

 いいっすね、と呟く新人類相手にセルペは曖昧に笑ってみせる。そして軽く挨拶をして立ち去ろうとした。踵を返したところで「ああ」と彼が付け加えてくる。

「八番街のあたりは非登録で逃げ回ってる人間がちょこちょこいるので、よさげなのいたら連れ帰っていいですよ。若いのもいます」

「ありがとう。時間があったら見てみるよ」

 セルペは軽く頭を下げて、元中央ギルドを後にした。


 ラディチェ歴八百八十六年九月十二日。あの日、コンテッラ大陸に存在する全ての都市は人間化器具を装着した魔獣、新人類によって制圧された。画策し実行したのは、新人類でありながら人間化の研究に携わっていたコッコ・ドリーロである。他の研究員の目を盗み、魔岩の核そのものへ手を加えて出力波長を変更する術を、彼女は確立していたらしい。

 そして最後の村ラゾラで共生化魔獣が登録されるよりも先に、人間化魔獣は全ての都市へ潜入していた。彼ら、彼女らは自分たちが向かわされた理由を教えられていなかった。研究所を出る際に選んだ、ないし指定された土地で生活しなさいと命じられたに過ぎない。

 あの日、コッコが流した波長は各地の魔石を経由してコンテッラ大陸全体へと届いた。共生化用の緑の魔石を持つ魔獣たちは一斉に凶暴化し、人間化用の赤い魔石を持つ魔獣たちは半人半魔獣へとその姿を変えた。強制的に体を変化させるほど強いその波長に『新人類』たちは自我を失い一晩暴れ続け、日が昇ったころにはほぼ全ての都市が血みどろの大惨事であった、らしい。

 王都付近には翌朝、地方には数日かけて全国に書面での通達がなされた。王宮陥落、今後はコッコ・ドリーロを陛下とし新人類がこの国を支配、管理する。各地にいる新人類はギルド施設を拠点とし、半年以内に生存人類をリスト化し中央に報告すること。人間化の技術も随分発展したらしく、成体済みの魔獣なら一ヶ月、幼体なら三ヶ月もあれば言葉を理解し成人として扱われる。これは容姿が完全な人間に寄せる必要がなくなったことも大きいのだろう。よって数も着々と増えつつある。セルペがこの王都まで来る途中で寄った街ではどこも新人類が我が物顔で風を切って歩き、人間たちは暗い顔で道の端を歩くか、物陰で身を潜めていた。


 そんなわけでソルミラの生存人間リストを提出し終えたセルペは王都を散策していた。人の数も人間化魔獣もここが一番多かったのだ。だから当時は大惨事、と聞いていたが、その面影はすっかりなりを潜めていた。血痕もがれきも全て片付けられたらしい。五年近く前に来たときと街並みはそう変わらない。

 中央広場にたどり着いたセルペは、隅に置かれた馬鹿でかい石碑を見上げた。そこに刻まれた文字を読んで「うわあ」と呟きつつ眉をひそめる。

「本当に建ってるよ、石碑」

 道中の街で噂は聞いていたが、どうやら事実だったらしい。新人類たちは語っていた。人間なのにコッコ陛下へ尽力したやつが二人いて、記念に石碑を建ててもらったらしい、と。他にも人間化の研究と普及に携わった人物はいくらでもいるだろうに、なぜこの二人なのか、セルペには知るよしもない。推測するに、深い意味はないのだろう。

 しばらくその石碑を下からぼけっと眺めていたセルペだが、やがて「八番街見て帰るかあ」と呟いて中央広場を後にした。

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