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ラディヴィータの伝説と、ソルミラの詩から。  作者: 荒間文寧


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4-10

 後ろから人が押し寄せている、とばかり思っていたが、どうやら反対に王宮側から逃げてきている人もいるらしい。普段の何倍もの時間をかけながら、メラは少しずつ王宮への道を進んだ。時間の経過とともに、遠くからしか聞こえなかった悲鳴が徐々に近くでも上がるようになる。そしてついにメラは見た。そこにいたのは、人とも魔獣ともつかない何かであった。丁度中間のような見た目のそれは、あの日研究所の檻の向こうにいた被検体によく似ている。しかし明確に違う点が一つあった。体格が明らかに大人のそれなのだ。檻の向こうにいたのは子ども、大きくても少年少女と呼ぶべき背格好をしていた。今メラの前で、夜の街を闊歩するそれは成人、もしくは成体と表現するべきだろう。王宮側からやってきたそれが人間に襲いかかった瞬間、メラは知っている、と思った。

 圧倒的なスピードと、インパクトの瞬間に合わせて込められる人間離れした腕力。そして緻密に急所を狙っていく洞察力。ソルミラで見た、セルペの戦い方にそっくりであった。

 燃える王宮と街で暴れる半人半魔獣。であれば答えは一つしかない。研究所がやらかしたのだろう。現在、何体が収容されていたのか、暴れている個体がどれだけいるのか。それを知るすべはないが、研究所に近づくだけ危険になることだけは分かる。ヴェルドはどこまで行ってしまったのか。もう研究所までたどり着いてしまっただろうか。とにかく早く探さなくてはいけない。しかしそれを見た恐怖で足が動かないメラの背後から、また大きな悲鳴とともに人の波が押し寄せる。

 振り返った先にいたのは大量の魔獣であった。人間化個体ではない。姿形はよく見る、街の側にも多く生息している害の少ない魔獣だ。卵生で食用にも向いているため、共生化され飼われている数も多い。

 それが大量に、街にいる。そして大人しいはずのそれが、人間めがけて襲いかかっている。

 これもまたメラは知っていた。

 あの日、故郷で見た最後の光景にそっくりだ。

 あれを地獄だと、今日までメラは思っていた。それを上回る惨劇が、数百倍の人口が住む王都で今繰り広げられている。微塵も動かない体とは正反対に、なぜだか思考と視界はスローモーションのようにゆっくりと時を刻んでいた。大きな牙をむいて開く口、普段とは違い開いている瞳孔、鮮やかな血しぶきに混ざる肉片、むき出しになる白い骨。

 悪夢として、嫌というほど繰り返し見たあの光景とそっくりであった。

 しかし一つだけ、決定的に違う部分がある。

 襲いかかっている全ての魔獣の胸には、あの日はなかった、緑色の石が輝いていた。

 まともな動きをしない肺を、必死で戻そうとする。それでも時折引き攣る横隔膜を抑えながら、メラはやっとの思いで一歩分だけ足を動かした。そのまま一歩ずつ、ゆっくりと群衆の合間を、死体の上を歩いて行く。

 全ての元凶である研究所、そしてその中にある魔岩の元へ、メラは一人でただ進んだ。

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