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午後一で試験を行って採点、簡易的な身辺検査を通してから免許発行、その後は合格者相手に共生具装着の実演やら共生具販売の案内やらをして、事務所に戻り事務仕事を片付けたらメラの一日の業務は終了となる。
毎日そんな感じで代わり映えしない、と思っていた。
翌日、いつも通り今日の受講人数を聞いて資料を机に並べて、ポツポツとやってくる受講者たちに「資料の置いてある席におかけ下さい」とメラは案内していく。新たな入室者に声をかけようとしたところで、メラは固まった。
柔らかな茶髪にひょろりとした長身の少年が、へにゃりと笑いながらこちらに向かって小さく手を振ってくる。なぜセルペがここに、と驚きつつメラも思わず形相を崩す。しかし他の受講者がいる手前、気軽に話し掛けるわけにもいかない。他者と同様に席を案内するに留め、人が揃うのを待ったのちメラは普段通りに講習を始めた。
とはいえやはり気になってしまうものである。講習を続けながらもメラはついセルペへと視線を向ける。数ヶ月前と変わらぬ容姿に安心感を覚えつつ、真面目に話を聞く様子に感心もする。それと同時に、なぜ彼が受けに来たのか、とその理由も気になる。旅費も受講費も決して安くは済まない。共生具をつけた魔獣は三ヶ月置きに中央ギルドに本体を連れてきて状態の申告を出さなくてはいけない。ヴェルドの言う地方配備が進めば話は別だが、現状ソルミラで飼うのは現実的ではないだろう。
そもそもとして、セルペは受かるのかすら分からない。受講者は講習前に受付に申請をしており、それを元に簡易的ではあるが身辺調査が入っている。当然この数時間で調べ尽くせるわけがないので、おそらく何かしらの名簿複数を照らし合わせているのではないか、とメラは睨んでいる。実際の内容は末端であるメラには知らされていないが、セルペが『訳あり』なことは間違いない。それも共生化が大きく関わっている。はねられる可能性は十二分にあるよなあ、と心配しつつメラは講義を続けた。これだけ考え事をする余地があるほどやり慣れてきたんだなあ、と自身の変化を認識しつつも、集中力散漫は褒められたことではない。メラは咳払いを一つして、目の前の受講者たちへと意識ごと向き合った。
昼休憩でセルペとの接触を試みていたが不発に終わった。早急に終わらせなくてはいけない仕事があったらしく、同部署の職員にヘルプで呼ばれてしまったのだ。十数分で昼食をかっ込んで事務所へと戻り、休憩返上で働いた後試験会場へと走る。そこからは普段通り受講者へテストをさせて答案用紙を回収。また事務所へと戻って採点をした。セルペはきっちり合格点を超えている。よしよし、と思いながら免許の発行と通知の作業を別の職員へ引き渡し、メラは実習の準備へと向かった。
実習場はギルド施設の別館、というか突貫工事で作った倉庫みたいな簡易小屋だ。今日使う小型の魔獣の最終確認をしてメラは準備を終える。テスト終了から一時間後、別の職員に連れられて合格者たちがやってきた。今日は八名。そのなかにセルペはいなかった。
あー、と嘆きながら、メラは引率してきた職員に「リスト見せて」と耳打ちする。彼女はすぐに手元の用紙を渡してきた。
上部に合格者の名前が並んでおり、その横に筆記試験の点数が記載されている。その下には不合格者の名前と、同じく点数が並んでいた。セルペは下の欄に名を連ねているが、横の点数はしっかりと合格点を超えている。しかし数字の隣に括弧書きで不適合、と記載されていた。
「ありがとう」と横の職員へリストを返却して、メラは実習を開始した。
ギルドから徒歩五分の場所に、職員用の寮がある。メラの部屋へ踏み入れると同時にセルペは「なんにもないじゃん!」と呆れるように言った。否定はできない。家具も備品も備え付けのものをそのまま使っている。買い足したのはせいぜいタオル類くらいのものだ。ベッドにテーブル、へたれたソファとがたついたクローゼット、あとは使わせる気のない小さなキッチンで構成された部屋は実に簡素だ。
実習後、どうやってセルペと接触しようかと悩んでいたメラであったが、あっさりと解決した。セルペ自身が待っていたからである。
終業後、とりあえずギルドから帰ろうとしたメラは出入り口で、情けない声で名を呼ばれた。振り返った先のセルペは声の通り、情けなく眉を下げていた。
「落ちちゃった」
叱られた飼い犬のようにしょんぼりとしつつも、セルペは「お願いがあるんだけど」と続ける。
「メラさんの家、泊めてくれない?」
「宿取ってないのか?」
「目星はつけてあったんだけど、ほら、落ちちゃったから。宿代削れば明日の受講料捻出できるでしょ?」
ついでに間違えたところ教えて! お願い! とセルペは手を合わせて、ペコペコと頭を下げてくる。
「泊めるのは構わないが」と言いつつ、メラはちょっとばかし悩んだ。しかし話があることには変わりないので「とりあえず飯買って帰るか」と言ってセルペを連れ帰ることにした。




